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ギレイの旅  作者: 千夜
20章
554/561

愛里1

2020/2/16、愛里の容姿を書き出しました。

 儀礼の妹、団居愛里まどいあいりが3歳のある日。


「あいり大きくなったら拓お兄ちゃんのお嫁さんになる」


 外出から帰ってくるなり突然そう言い出した。

 儀礼(19歳)は夕飯を作っている途中のまま固まり、次に青くなった。


 赤子から幼児へと成長した愛里は、天女と称される母によく似て、整った顔立ちに幼さ特有の愛らしさを併せ持っていた。


 さらさらの金髪は肩より少し長い位に伸ばされ、赤地に金の縁取りのされた小さなリボンが頭の上に飾られている。

 大きな黒い瞳はキラキラと輝き、小さな手を伸ばして「お兄ちゃん、ただいまぁ」と抱擁を求めていた。


 おかえりと抱きしめれば、柔らかいほっぺたが触れて子供らしいミルクのような甘い香りに包まれた。


「お兄ちゃん、あのねーー」


 その先に綴られた言葉に、兄は天も落ちるかと言う程の、衝撃を受けたのだった。


「ばかなこと言うな、愛里。だめだよ、そんなの。もっといい人がいるから大きくなるまで待ちなさい」


 半ばパニック状態で、3歳の女の子を抱きしめ拒絶を示すように左右に首を振りまくる。

 苦しそうな顔には涙さえ流れてきそうだった。

 そんな儀礼を見て、従妹のシャーロットは苦笑する。


「ギレイ君、子供の言うことなんだから。ほら、可愛い妹が困ってるわよ」


 シャーロットに言われて見れば、愛里はショックを受けたのか儀礼を睨みつけ、膨れっ面をしている。


「そんな顔しないで、愛里。可愛い顔が台なしだよ」


 儀礼は優しく愛里の頬をなでた。


「だって、拓お兄ちゃんが、あいりが大きくなったら結婚してくれる、ってゆったもん!」


 膨れ面のまま愛里が言った。

 その瞬間に、儀礼の中で何かが壊れた。


「た~く~!!」


 そう叫びながら、儀礼は夕飯も放り出し、エプロンのまま外へ飛び出して行った。


 儀礼の行き先は拓の家、領主の屋敷だ。

 バンッ!!

 ノックするのももどかしく、拓の部屋のドアを勢いよく開く。

 驚いた顔をした拓が、儀礼を振り返った。


「どうしたんだ? 珍しいな」


 部屋に人が侵入してきたこと自体はそれほど気にならないらしく、玉城拓たましろたくは平常通りに問いかけた。なにしろ、義弟の獅子倉了ししくらりょう獅子やら妹の利香やら、訳あって玉城家預かりとなった情報屋のネネやら、拓の部屋には人の都合を考えずに飛び込んでくる者が多い。


「愛里に変なこと言うな! それから手を出すな変態! 20近くも下の子供に何考えてんだ」


 息つく間もなく拓の襟首を掴み、儀礼は怒鳴った。

 顔は真剣で、怒りのせいで顔は赤を通り過ぎ、少し青ざめている。


 さっきのことか、と拓は呟いた。


「何怒ってんだよ。俺はただ、愛里が俺の嫁さんになりたいって子供らしいこと言うから、大きくなったらなぁって軽く返しただけだぞ」


 相手にならないと、拓はしっしっと儀礼を追い払うように手を振った。


「嘘だ、信じらんない。拓ちゃんのことだから絶対半分以上本気で狙ってる。母さんの事だって、白のことだって、うあー! やっぱりおまえは信用できない!」


 叫びながら儀礼はぎりぎりと腕に力を込め、拓を壁に押し付けていく。

 背の高い拓からすれば、細身の儀礼に押されてもいくらでも反撃のしようがある。そのせいか、押さえつけられていても拓の動作はやたらと落ち着いていた。


「だってなぁ、エリさんはもう結婚してるからしかたないとして、シャーロはお前に奪われちまったし」


 ふぅ、と大袈裟に落ち込んだようなため息までしてみせた。

 儀礼は様子を伺うように拓の目を覗き込む。隙を作らないよう、手の力は抜かない。


「お前が女だったらなんの問題もなかったんだけどなぁ。惜しいよなぁ」


 そう言って拓は一段高い位置にある目を細め、嫌味ったらしく儀礼の瞳を覗き返して来た。

 儀礼は青い瞳を一瞬揺らし、背筋に走った悪寒とともに冷や汗をたらす。


「ば、ばかなこと言うなよ」


 拓の襟を締め上げる儀礼の腕が震えた。


「いつかの神様にお願いして女にしてもらっちまうか?」


 拓が儀礼のあごに手をかけた。

 瞬間、儀礼は物理法則を無視する勢いで後ずさっていた。

 顔は真っ青で、体がガタガタと震えている。儀礼にとって、水光源すいこうげんという女神はトラウマになっている。


『女になって我の元に来い』


 楚々と笑う、人ならざる美しい神は少女に囲まれる事を好んでいた。

 精霊に好かれるという儀礼の性質に興味を持ったようで、機会ある毎に儀礼はその女神に側に来ないかと誘われる。

 それも女になって、と。


 力が抜けた足がもつれ、儀礼はバランスを崩し尻餅をついて転んでいた。


 ガシャン

 儀礼の服の中で金属同士の打ち鳴る音がした。

 それを聞き、拓は顔をしかめる。


「領主の屋敷に武器を持って侵入とは看過できないな」


 拓の目の中に怒りが込み上げていく。

 拓にとって、武器を隠し持つことは卑怯以外の何物でもない。

 護身用だろうが何だろうが、凶器を持った時点でそれは弱者であり、害を加える気があるということだ。


 自分の身は自分で守る。ならばまず体を鍛えろ。それが拓の考え方だった。

 今度は拓が儀礼に詰め寄っていく形になっていた。

読んでくださりありがとうございます。

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