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ギレイの旅  作者: 千夜
2章
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護衛就任

 アーデスたちの話しに満足したのか儀礼は楽しそうな顔をしている。

 あとで、まだ正式に出回っていないいくつかのマップを送ってもらう約束も取り付けた。

「儀礼様、我々を護衛にすることで手を打ちませんか?」

 配下に付くことを諦め、アーデスは儀礼に護衛の話しを持ちかける。

「ワルツは元よりあなたの護衛に付くと決めていますし、私にはパーティを組む仲間が何名かおります」

 途端に、儀礼は渋い顔をする。

「どんなに断っても管理局はあなたに護衛を出し続けるでしょう」

 わかっていたように、アーデスは続ける。

「……だろうね」

 監視の役目が含まれているから。とは声に出さないが、アーデスもそのことを知っているようだ。


 儀礼は行動を制限されるのが嫌だった。

 だがそれよりも、護衛となった者に儀礼の持つ情報や技術を見られるのが心配だった。

 情報を盗まれる、という危険もあるが、それよりも知ってしまった情報を外部に狙われるのが何より危険だった。

 護衛となった者を儀礼が守らなくてはならなくなる。

 獅子みたいにまったく理解できなくて、それでいて簡単に死なないと思えるほど強い者はそういない。

「他の護衛を遮断できる?」

 確かめるように聞く儀礼。

 交渉の余地ありと見たアーデスはもちろん、と笑う。管理局の高ランク者特有の爽やかにしか見えない暗黒よりの笑み。

「……」

 それを見て儀礼は思う。

 この男は儀礼以上の実力の持ち主なのだ。まず、儀礼が守るのどうの心配するレベルではない。

 悪意があれば、とっくに情報は奪い去られている。

 次々と来る護衛候補にはもう嫌気が差していた。

 護衛と言う名の監視に、アーデスやワルツのような者なら信用できる。そう、判断した。


「獅子に、『黒獅子』に護衛を気付かれずにできる?」

「気付かれないように、ですか?」

 それはかなり距離を取れ、と言うことだ。黒獅子ほどの者に近づいて気付かれないのは容易ではない。

「まず第一に、僕に護衛が必要な状況って、どんな?」

 儀礼が言えば、アーデスはなるほど、と頷く。

 儀礼の持つ情報の特に重要な物は兵器だ。それに関して個人など脅威ではない。注意すべきは外部の軍事情報。

「近くよりも遠く、ですか。確かにそれならばお任せを」

 アーデスは優雅に腰を折る。


「あの、普通にしてください。そういう扱いは困ります。敬語とか、様とか。とくに、アーデスさんみたいな高位の人が頭を下げるとそれだけでどうでもいい敵が増えます」

 困ったような、泣きそうな顔の儀礼。

 確かに、アーデスは一見どこかの騎士のような容姿をしている。

 騎士が礼を取るならば、位の高い者つまり金を持つもの。愚かな者が、身代金目的に狙おうとしてもおかしくはない。

「わかりました。余計な危険を増やしては仕方ないですね」

 言った側からあまりわかってないようなアーデス。いや、わざとかもしれない。

 敵が出れば護衛の仕事が増える……。

 くえない笑顔のアーデスに、早まったかもしれないと思う儀礼だった。


「一応護衛をしてもらうなら、言っておいた方がいいかな。僕が『公開しない情報』の理由」

 思いついたように儀礼が口を開いた。

「祖父の書いたもの、僕の持ってる情報には、僕にしか使えないものも結構あるんだ。今の技術じゃ本当はできない、机上の空論ってやつ?」

 儀礼の言葉にアーデスとワルツは首を傾げる。

「見て、これ。ただの風車(かざぐるま)。何の仕掛けもないよ」

 どこからか取り出した風車に、儀礼が口で息を吹きかければくるくると回る。

 くるくると回り続ける。風はもう起こっていない。

「……なっ」

 驚く二人。詠唱もない、魔力の発動もない。確かに、不思議としか言いようがない現象。

「持ってごらん」

 儀礼がワルツに風車を渡す。

 ワルツが持てば風車は回転を止める。仕掛けはない。

「吹いてみて」

 ワルツが吹けば、くるくると回り、やがて止まる。

 ふーっ

 儀礼がワルツの持つ風車に息をかける。

 風車は回り、回り続ける。

「不思議でしょ。僕にしかできないことってこういうの。僕にもよくわからないんだけどね。母さんが言うには、精霊が力を貸してくれてるんだって」


 そうでなければ、儀礼の車はオートで走ったりなどしない。

 言って、儀礼は今度はアーデスにマッチを持っているか聞く。

 アーデスがマッチを出せば、火をつけてと言う。

 マッチを擦れば普通に火がつく。

 儀礼はそれに息を吹く。普通ならばそれで火は消える。

 ボォーッ

 マッチのサイズではない火力で炎が燃え上がった。とっさに投げ捨てなければアーデスの服は焦げていたところだ。

「いたずらな奴もいるみたいだけどね」

 にっ、と楽しそうに儀礼は笑った。

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