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ギレイの旅  作者: 千夜
19章
536/561

受諾

儀礼がパソコンの前に立てば、そのモニターの表示が高速に切り替わる。

いくつもの書類データが現れ、処理され、通過してゆく。


カタカタと忙しなく動く印刷機。

繰り返し鳴るメッセージの着信音。


ピーッ!

しばらくすると部屋の片隅にあるラジオから鼓膜を叩くような高音が発された。

儀礼は小さなマイクを持ち口元に持っていく。


『「少しの時間、耳を貸してもらいたい。ドルエドの管理局Sランクの研究者として『蜃気楼』が、管理局に関わる全ての者に通告する」』

儀礼の口から語られる言葉はラジオやパソコンから流れ出す。


『「管理局のSランク、ギレイ・マドイは全管理局とそこに属する全ての研究者へと宣言する。今後、本人の了承を得ずに他者を実験台として使うことを禁止する。事故、故意いずれの場合も専門の研究員らによって調査を行い、処罰の対象とする。実験行為が明らかに故意であり悪質と判断された場合、また、常套の手段として行われていた場合、この通告を無視したと見なしギレイ・マドイの名において厳罰を与える」』


そこで儀礼は一度深呼吸をする。

同時に手袋のキーを使い必要な書類、人員、手続きを全て実行へ移行させた。


『「この通告は全ての端末、全個人への書類通知、および管理局でいつでも確認することができる。これは通告であり決定事項だ」』

知らなかったという言い逃れはさせない。


「あなた、何をやってるの。そんなもの、通るわけがないじゃない」

その宣言は上位の研究者であるほど、認められない規律だ。

他者を蹴落として上がってきた者達。

その権威持つ者達が認めるわけがない。


ピーッ!

再びラジオが高音を告げる。


『ドルエド国王はこの宣言を受諾する』

ラジオから聞こえるドルエド国王の声。


『マルチルはこれを受諾する』

『カイダル、受諾する』

『コーテルはこれを受諾しました』


国や都市が名を告げ、止む事なく規律を認めていく。


「嘘、これは? どうしてこんなに多くの国が……」

目を見開き、起こっている事態を認識できないと言うようにヨルセナは小さく首を振る。


『神官グラン、受諾します』

『管理局、最古参はチーム全員これを受諾する』


『翼竜の狩人ワルツ、受諾する』

『磨砕の大槌バクラム受諾した』

『若き魔女ヤン、受諾します』


『連撃のコルロ、受諾』

『砂神の勇者、受諾だ』

絶え間なく聞こえる名だたる者達の表明。


モニターに表示された世界地図が、受諾表明とともに次々と色を変えていく。


他者を押しのけ、協力しない研究者。


ーーならばなぜ、世界は色を変えていくのか。


ヨルセナは体中に震えが走るのを抑えられなかった。

(これが、Sランクの影響力)

ゴクリと唾を飲み込む。


地図の中の白地が小さくなり、一つの国を残すだけとなった。

軍事国家ユートラス。

どこの国よりも強くあろうとする国。

世界の全ての色に囲まれてーーその国の色は、反転した。


室内に白い光が溢れる。

移転魔法陣から現れた人物は久々に全身を鎧に包んでいた。

その男は儀礼の持つ小型のマイクを受け取る。


「『ユートラス管理局"S"ランク、双璧のアーデス。受諾だ』」

その言葉を最後にラジオはぷつりと音を途絶えさせる。


「はーぁ、っゲリラ放送やっちゃったよ!ふう、緊張した」

儀礼は袖で汗を拭う。


「凄いっ、凄いぞギレイ! 歴史が、管理局が変わった!!」

一連の流れを息を詰めて見守っていたクレイルが興奮した様子で儀礼に飛びつく。

内側の感情を制御しきれないと、しきりに儀礼の肩を叩く。

ガスカルがウォウ、ウォウと尻尾を振って跳ね回る。


「さすが『蜃気楼』だ! ドルエドの賢者だよ」

クレイルは拳を握り、儀礼と打ち合わせる。

「まあ、僕一人の力じゃ無理だったから、たくさんの人が動いてくれたおかげだよ」

色の変わった世界地図を見て儀礼は笑みを浮かべた。


そして、隣に立つ鎧姿の男に向き直る。

「アーデスさん、ありがとうございます。それとSランクおめでとうございます」

嬉しそうでも、機嫌悪くもない様子のアーデスに儀礼は苦笑する。


本当ならば盛大にお祝いしたいところだが、無理をして押し上げてしまった感のある儀礼に屈託のない笑顔はできない。


「俺は自分の出生地を確認してきただけだ」

鎧の兜を外し、涼しげな顔でアーデスは告げる。

以前、ユートラスに潜入した時に知った、自分の生まれた土地に所属を変更しただけ。


元からあった出生のデータに現在のアーデスの情報を上書きすれば、ユートラスの管理局がアーデスを自国の『Sランク』と認めた。


「俺はお前よりも準備する時間があった。むしろお前のおかげで期限が伸びた位だ、気にするな」

いつものように、自信に満ち溢れた表情でアーデスは告げる。


「それに、管理局も随分風通しが良くなったしな」

ニヤリと口端を上げてアーデスは笑う。

「蹴落とす必要のある者がいない」


儀礼の巻き起こした強風で、互いを押しのけ引きずり合う研究者達は一掃された。

立場を悪くし、その権力を失った。


残った者は、儀礼の示した管理局の新しいルールを認めた者。

「誇れ」

そう言ってアーデスは儀礼に拳を向ける。


その意味に気付いた儀礼は、一拍を空けてアーデスの拳に力強く拳をぶつける。

見上げた顔には満面の笑みを浮かべていた。

読んでいただきありがとうございます。

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