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ギレイの旅  作者: 千夜
19章
527/561

合流

更新が2ヶ月以上空いてしまいました><。

すみません。

 後のことをアーデス達に任せ、儀礼たちは学院へと戻る。

もと来た道を辿り、人目に付かないよう地下から学院へと入る。

学院から管理局へと幾度と通っていたガスカルは、暗い地下道にも慣れた様子で先頭を歩いていた。

帰れることが嬉しいのか、軽やかに足が進むたび、尻尾がゆらゆらと揺れている。


 来た道を戻っていれば、儀礼達を待っていたのか、地下に入ってそれほどしないうちに、クレイルとトウイに合流した。

しかし、先頭にいたのはガスカルで。


「うわっ狼!?」

薄暗い地下通路に突如現れた狼の姿に、驚いて跳び退るクレイル。

そのクレイルを庇うように一歩前へ出て、ナイフを構えるトウイ。


 銀色に光る鋭い刃の先を向けられて、慌てたようにガスカルは儀礼の背後へと戻ってきた。


「大丈夫だよ」

儀礼は明るい声で、トウイ達へと話しかける。


「この子はガスカル君です。見付けてきました」

クスクスと楽しそうに儀礼は笑う。

安全だと見せ付けるように、ガスカルの頭を撫でる。


「ガスカルって……どう見ても犬か狼だろう?」

眉を寄せてクレイルは警戒している。

学院の生徒を探しに行って、違う生き物を連れて帰ってくれば誰だって戸惑うだろう。


 しかしトウイは、クリームと視線を交わし短く溜息を吐くと、呆れたような、むしろ諦めたような表情でナイフをしまった。

(この人と居れば、何が起こってもおかしくない、んだよな)

その言葉が尊敬や憧れではなく、なぜ溜息とともに出てくるのか。

トウイは思わず、困ったような小さな笑いを浮かべていた。


 自分への敵意が無くなり、ほっとしたようにガスカルは座り込んだ。

「管理局で実験に巻き込まれてしまったんです。すぐには元に戻せなくて」

申し訳なさそうに儀礼はガスカルの頭を撫で下ろした。

儀礼のせいではない。けれど、元に戻れるかもしれないと期待する気持ちを抑えきれずに、クーン、とガスカルは小さな声を漏らした。


「まぁとにかく、行方不明者が二人とも見付かったんで先生に報告しようと思って」

気分を変えるように声のトーンを上げ、儀礼はクレイルを見る。

「わかった。俺もやれるだけはやり終えたからな。かまわないぜ」

床に置いていた荷物を背負いクレイルは言う。


「それじゃあ、人目につかないままサンドラー先生の研究室まで行く道はある?」

儀礼はクレイルへと尋ねる。

「ああ。地下のマップは完成したからな。サンドラー先生の所なら、研究室の目の前に出られるぜ」

にっと笑ってクレイルは地図を開く。


「なるほど、この道だね。ずっと地下で行けるんだ。じゃぁ、行こうか」

道案内のクレイルを先頭に、儀礼、ガスカル、獅子、白、クリーム、トウイ。七人の集団で地下の細い道を進んで行った。

その地下の道にはあちこちに魔法陣の描かれた紙が貼られ、透明な膜で補強されていた。


 キョロキョロと周囲を見回しながらも、儀礼はクレイルの持つマップへと視線を注ぐ。

「ねぇ、レイ。あとでそのマップ写させてくれない?」

「ああ、いいけど。悪用はするなよ?」

にやりと笑ってクレイルはいたずらな笑みを浮かべる。


「もちろん! お礼はするっ。えーと、どこのマップがいい? ドルエド? フェード? 」

「それよりもさ……今回の、その、そいつが変化した魔法陣。見せてもらえないかな? さすがに無理か」

言いにくそうに、けれど期待を込めた表情でクレイルが言う。


「レイ、この補強の魔法陣使えるようにしたって言ってたよね……。いいよ。少しでも早く人間に戻してあげたいし」

一瞬、考える素振りを見せた儀礼だが、自分に魔法陣を解明する知識がないことは分かっていた。

なので、可能性を持っているクレイルに許可を出す。

真剣な顔で周囲を見回す。


「ここ、探査魔法に引っかからないんだよね。レイは、探査魔法打ち消せる?」

「こいつを知られないように俺の部屋には厳重に結界が張ってある」

ひらりと、補強の魔法陣が描かれている紙を取り出してクレイルは答えた。

「それなら、大丈夫だね。わかった事があったら教えて。今、その魔法陣の解明を最優先で進めてるから」


 差し出された魔法陣を受け取るために手を出して、けれどその紙が渡されないことに疑念を感じて、クレイルは視線を儀礼の顔へと向ける。

真っ直ぐと、重たいほどに真剣な瞳で見つめられ、クレイルは思わず息を飲む。

これは――この一枚の紙が、管理局Sランクの『蜃気楼』からの情報の分与であると理解した。

ただの知識欲だった気持ちが緊張をもって引き締められる。

手の先が震える。クレイルはグッと拳を握り腕に力を入れ直した。


(人の命を預かる仕事だ)

クレイルは拳を開くと儀礼へと腕を伸ばした。

(俺がやっていた地下空間の補強も、この学院に住む大勢の人間の命が懸かってた。俺……何が自分でやりたいだよ。世間に発表するだよ)

渡された紙を強く握り締めてクレイルは頷く。

(世界最高峰はこんなにも違う)

「狼化の魔法陣、確かに預かった」


 そして、

「ドルエド学院魔法科3年クレイル、魔法陣解明のため微力ながら尽力します!」

地に片膝を着き、真っ直ぐに儀礼を見上げて宣言するクレイル。

「え? う、うん。でも、立ってね」

ぎこちなく返事をし、クレイルを立つように促す。


「あなたのお役に立てるよう務めます!」

クレイルを立たせようとした手を両手で捉まれ、儀礼は困惑する。

突然のクレイルの態度の変容に。


「儀礼崇拝者が増えた」

獅子が呟く。

「しろぉ~、代わって?」

白を振り返って縋るような視線を送る儀礼。

自分が身代わりになると言っていた人物の言葉とは思えない。


「そっか、朝月が――」

「朝月さん何もしてないよ?」

理解したように大きく頷く儀礼に、首を振って答える白。

「いつも通りだろ」

「いつも通りだな。そろそろ慣れろ」

クリームと獅子の言葉に儀礼はがっくりとうなだれた。

読んでいただきありがとうございます!

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