反撃
投稿時間がいつもより遅くなりました。すみません。
「そんな……。そんな態度でいたら、彼がここにいますって言ってるようなものだろ。」
痛みにたえ、脂汗を浮かべながら儀礼が言う。
命を狙われ、隠さなければならない存在を宣伝して回ってどうするのか。
「僕は白を守り抜くし、必ずアルバド国内まで連れていく!」
儀礼は壁によりかかるように立ち上がると、銃をかまえた。
初めて銃を目にするエンゲルは警戒するように儀礼の動きを見ている。
ダン!
儀礼は引き金をひいた。
針のついた弾丸はエンゲルの首に刺さり、その体へ薬品を流し込む。
「な……に……!?」
エンゲルの体が揺れると、ひざをつき、それからあおむけに倒れる。
「即効性のしびれ薬だ。5分程で効果は切れるはずだ。」
儀礼は銃をしまうとヨロヨロとドアの方へ歩き出す。
「僕は僕のやり方で……ギレイ・マドイの名にかけて。」
儀礼がドアを閉めて出て行くのは分かったが、エンゲルは動くことが出来なかった。
エンゲルがやっと起き上がれたのは、
「食事の支度ができました。」
と、宿の者が呼びに来た時だった。
一方儀礼は、
「くそっ、あいつ思いきりやりやがって……。」
洗面室に備え付けの鏡の前で呻いていた。
捲くり上げた服の下からは、赤くはれた胸と腹が見えている。
肩と背中も同じような感じだろう。
(獅子がいなくてよかった。)
これを獅子に見られたらまたいらぬ乱闘騒ぎになっていただろう。
「明日にはあざになってるだろうなぁ……。」
儀礼は顔をゆがめる。
汗もかいたし、手当もしたい。
「先に風呂に行ってくるか。」
儀礼は薬と風呂の道具が手元にあることを確認すると、痛みをこらえながら浴場へ向かう。
廊下を少し歩いたところで宿の人に話しかけられた。
「お客様、食事の準備が整いました。お連れ様がお待ちですが。」
そう言ってから、儀礼の持つ荷物に気付き、どうするかうながす。
獅子達はもう帰ってきているらしい。
「先に食べててくださいと、伝えてください。」
儀礼は体の不自然さに気付かれないよう、できるだけ上等の笑顔で言った。
宿の女中は一瞬頬を染め、見とれていたがハッと気付き、
「かしこまりました。」
と何とか答えた。
(何てきれいに笑うのかしら。)
女中はしばらく儀礼の後ろ姿をながめていた。
「お連れ様は浴場へ行ってから召し上がるそうです。お先に進めて下さいとのことです。」
それを聞いて獅子は首を傾げる。
「珍しいな。わかった。どうも。」
女中が去っていくとイスに座りながらエンゲルが鼻で笑う。
「フン。人付合いの悪いやつだな。」
「そんな言い方ないだろ。ただタイミングが悪かっただけだろう。」
獅子がエンゲルを睨む。
「あ、ほら冷めちゃうから食べようよ。ギレイ君も食べててって言ってたみたいだし。」
シャーロが空気を変えようと明るく振舞う。
「シャーロ様がそうおっしゃるなら……。」
「そうだな、腹減ったし。」
そうして穏やかに食事は進んだ。
ほとんど食べ終わったころ儀礼が浴場から上がってやってきた。
薬を塗って包帯も巻いてきたが、正直痛みはあまり引いていない。
服に衝撃吸収材や、機器類を仕込んでなかったら骨が折れててもおかしくなかっただろう。
「もうほとんど終わりだね、遅くなってすみません。」
テーブルの上の様子を見てから、ロッドとエンゲルに頭を下げる。
先程のことなどなかったかのような態度だ。
「俺はもう食べ終わった。先に部屋に戻ってる。」
そう言ってエンゲルは席を立ち、階段を上がっていく。
「どっちが人付合い悪いんだよ。」
エンゲルを見送り、獅子が睨むようにして言った。
「まぁ、いいよ。僕が遅れたんだし。そんな悪い人じゃないよ。」
「よくそんなこと言えるなぁ。」
のんきな儀礼に、獅子は呆れる。
(さっきの事、案外悪いと思ってるのかもしれない。)
エンゲルはすれ違いざま、儀礼の肩を(怪我していない方)ポンとたたいて行った。
「ん~、なんか白のお兄さんて感じかな……。」
イスに座りながら儀礼が言う。
「私の兄とはだいぶ違う気がするけど。」
首を傾げる白。
「へぇー。白は兄さんがいんのか。」
食後のお茶を飲みながら、獅子が言う。
ビクッとするシャーロ。少しでも知られることは少ない方がいいのに。
自分で口をすべらせてしまった。
「お二人はご兄弟は?」
話を変えるようにロッドが質問する。
「僕も獅子もいないよ。利香ちゃんには拓ちゃんって、兄がいるけど。」
儀礼が答える。
その答えに、一瞬、獅子と白が目を合わせてワタワタと何かを身振り手振りで示している。
「リカとは……?」
獅子と白のやり取りには目をやらず、突然出てきた人物の名に対して、不思議そうに問うロッド。
「獅子の婚約者だよ。たまに追ってくるよね。」
笑いながら言う儀礼。
「婚約したんだ、おめでとうございます。」
白がなんとなく、獅子と握手する。
白は以前に利香とも拓とも会ったことがある。
「僕にとっては獅子が兄みたいなものかな。」
そう言って獅子ににぃ、っと笑ってみせる儀礼。
「あー、そう言われりゃそうもな。」
頬をかきながら、考え込むように言う獅子。
小さい頃からいつも一緒にいて、今では共に旅をし、四六時中一緒だ。
友であり、仲間であり、まさに兄弟のようなものだ。
「手のかかる弟だ。」
そう言って、今度は獅子がにぃっと笑ってみせる。
「ちぇっ。」
ふてくされたように儀礼はそっぽをむいた。




