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ギレイの旅  作者: 千夜
18章
489/561

最古参チームと遺跡の調査1

 管理局の最古参のチームと新しい遺跡へと探索に入ることになった儀礼。

何日も前からとても楽しみにしていた。

この最古参と呼ばれるチームは、すでに管理局の運営からも引退し、好きな職だけを続けている研究者達の集まりだった。

管理局に、最も古くからいるメンバー達だ。


 普通なら未踏の遺跡にはなかなか入れない。今回は本当に運がよかった。

年寄りの多いこのチームが、たまたまランクの高い(邪魔にならない)荷物持ちを募集していたのだ。

力はない儀礼だが、Sランクの特権をフルに活用し食い込んだ。

未踏の遺跡の探索。それは冒険家の夢だ。


 ところが、いざ遺跡に入ってみると進むのが遅いこと。

儀礼も慎重に行くことは当たり前だと思っていたのだが、彼らは石橋を叩いた上に、足踏みまでしている様子。

年寄りチームなため、一度罠を起動してしまえば、命に関わると、ひとつひとつを念入りに調べ、解除していく。


 トラップを解除した場所や、トラップの発動する箇所には緑色の塗料を塗る。

暗い場所でもわかりやすい、蛍光の緑だ。

さらに、僅かな光でもわかるように反射材も混ぜられている。


 それをひとつひとつ塗りながら、調べ、解除し、地図を作り、書き記していく。

気の遠くなるような作業。

自分で作っていく、解明していく、それが夢でもあるのだが。


 彼らは遅すぎた。

最古参であることにこだわり、チームの人数をあまり増やしてこなかっただけでなく、あまり周りの者とも組まないのだ。

本来なら百人がかりのこの作業を、今関わっているのは三十人余り。


 そのうちの一人が荷物持ちの儀礼で、二人が儀礼の護衛のために紛れ込んだトラップ解除の補助魔法使いにヤンと、地図作成のアシスタントに双璧のアーデス。

それ以外が全員五十歳以上という暴挙(と言えるだろう)。


 まともなチームなら対魔物、対守護者ガーディアンとして戦闘員は必須だ。

全員がAランクとはいえ、管理局ランクに年齢や体力を理由に降格するシステムはない。

むしろ功績は蓄積されるので、冒険者と違い、管理局では歳をとってからの方が高ランクの者が多いのだ。


 通路の交差地点。トラップの常設地だ。

儀礼は調査する老人たちを見る。最年長は87歳。現役のリーダーだ。

70年以上を遺跡の探索と解明に費やした、現在の管理局にとっては重要な人物。

儀礼は心の中で長老と呼んでいる。


(ああ、もどかしい。)

儀礼は調査機器を背負い直す。

地図を描いているアーデスが真剣な顔でいるのを見て、なんとか見習おうとする。

魔法使いのヤンは魔法探査を終え、結果を報告している。


 震える指でトラップを解除する長老たち。

(ああ、気をつけて! 隣の端子に触れたら爆発ぅ。)

(うう、道の角にトラップの線が。)

発言権を与えられていない儀礼は歯を噛み締めて言葉を飲み込む。


 危険がなくなったと確認してから、起動スイッチとなるブロックに色を塗る。

さらにトラップがないか調べ、細部までを地図に書き写し、のろのろと荷物をまとめ、次へと進む。

普通の探索隊の数倍の時間がかかっている。


 それでも、夢にまで見た遺跡の調査。儀礼は黙ってその作業を見ていた。

見守り、先人達の技術を学ぶ。

実際に時間はかかっているが、丁寧で綺麗、時代を残す調査方法は学ぶものが多かった。


 ふとした時に儀礼は獅子たちとの遺跡探索を思い出した。

必ずと言っていいほどトラップを起動させる獅子。

解除に追われる儀礼。魔物を退治する獅子。

慌ただしい行程はとても遺跡のマップ作りなどできないだろう。

だが、それも儀礼は楽しいと感じていた。


 それとは別のこの空気も、儀礼は何か神聖さを感じて好きだと思い始めていた。

丁寧に、遺跡を作った者たちと、遺跡を使っていた人々を読みといていく。

遠い過去の人々が平べったい紙の上に正確に、まるで生きているようによみがえってゆく。


 アーデスが真剣でいる理由がわかった。

彼ら最古参チームが、新しい人を入れない理由がわかった。

彼らはこの空気を、歴史を何よりも大切にしているのだ。


 遺跡をある種、アトラクションのように感じていた儀礼は己のあさはかさを思い知った気分だった。

その後も、儀礼はだまって荷物持ちを続けた。

老人達の体力から今回の調査は一週間、1階部分の半分のみとなっていた。

もっと早く先が見たいと思う気持ちを抑え、儀礼は静かに待っていた。


 遺跡に入って5日目。

いつものようにのんびり進んでいた中で突然、長老がトラップ解除の手を休め、儀礼の方を見た。

その目は穏やかで、遺跡調査への興奮は感じられない。


「遺跡は人の歴史じゃ。なんのために作り、いつ使われなくなったのか。」

そこまで言って、長老は再びトラップへと向き直る。

「残っているのは何故遺跡なんじゃろうな。書物や口伝は消え果てておるのに、人の建てたものが堅牢に生きておる。」


 世界には多くの古代遺産や遺跡がある。

昔の人々が造ったもの。

今の時代に作れないものもある。何のために作られたのか、分からない物もある。

でも確かに『人』がいた。


 滅びた種族も、遠い遠い祖先も。

今と同じように人が生き、暮らしていた。

遺跡の中に、宝が眠っていることや、歴史的発見は確かにある。

だが、このチームが大切にしているのは歴史、文化。

それそのもののようだった。


「お前は新しいものを作る文人じゃが、遺跡に入り何を感じる。何をしようと思うのじゃ。」

語りかけはひどくゆっくりと、しかしはっきりとした声だった。

長老の言葉を感じ取って儀礼は肌が泡立つのを感じた。

じめっとした暗い遺跡の中だというのに、体の中を清風が通り抜けた気がした。


 儀礼は悩まずに答えた。

「知りたいんです。歴史も人も古代の品々の存在も。」

遺跡などを調べていて、過去の人々に思いをはせていると、時々、ふいにひらめくことがあるのだ。

鳥肌の立つほどにぴたりと合致するその思考が、それに気づいた瞬間が堪らなく快感でもあるのだ。

その瞬間にだけ、遠い過去に、もう一つの目が開いたような感覚に陥るのだ。


 その真実の言葉を聞き、長老はじっと儀礼を見た後に手招きをした。

「解除してみなさい。」

目の前にあるトラップを指して、そう言った。

誰も受け入れなかった古参チームの長老が。

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