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ギレイの旅  作者: 千夜
18章
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スカイウィング

 青い空に高く、土色のドラゴンが大きな翼を広げて、自由自在に飛び回っている。

風に乗り、風に逆らい、風を作り出し、目で追うのがやっとの速度で移動するスカイウィング。

たくさんの人間を襲い、死をもたらした凶悪なドラゴンだった。

だからこそ、Aランクの討伐の依頼が出たのだ。

そして、依頼を達成できずに餌食になった冒険者も出ていた。


「グギャァァァ!」

一鳴きすれば、地面から何本もの岩の柱がせり出してくる。


 その柱の先は鋭く尖っていて、当たれば体を貫かれそうな硬さと勢いがある。

それが、高い崖の上で戦う獅子と、拓の周りで、休むことなく生え続けていくのだ。

「くそっ、やっかいだな、この岩。ドラゴンも飛び回ってて近付いて来ないし。攻撃され放題だ。」

忌々しそうに舌打ちをして、拓は生えてくる岩を剣で壊す。


 獅子は、上空を飛ぶドラゴンをじっと見つめていた。

それでも、その足元は危なげなく岩の柱を避けている。

そして、生えてきた柱を踏み台にして、獅子は、高い空へと跳び上がった。

「人間だって、上空戦をやることもあるんだぜ!」


 光の剣の刃を白く光らせて、獅子はスカイウィングに数度切りかかるが、ドラゴンは軽々とその実体のない刃から身をかわして飛んでいく。

「ちぃっ。」

今度は小さく獅子が舌打ちをした。

「何とかおびき寄せて低空戦に持ち込むか、叩き落して地上戦にしないと、戦いようがないな。」


 太陽を背にしたドラゴンを眩しそうに見て、拓は思考をめぐらせる。

その間にも、地面からはまた、岩の柱が槍のように生えてくる。

拓は眉間にしわを寄せてその岩を叩き割ろうとして、その岩が、突如粉々に崩れるのを見た。

 グウィンと、不思議な感覚がして、辺りが白い半球体に包まれている。


「これ、やったのお前か? 了?」

呆然と、驚いたように拓が聞くが、獅子は真剣な表情でドラゴンを見つめているばかりで、返答はない。

それだけ、戦闘に集中しているらしかった。

獅子の額には、大粒の汗が浮いている。


「光の剣の力ってやつか。」

自分が包まれている半径10m程の大きな球体に、不思議な感銘を受けて、拓は呟く。

伝説と言われる剣を、確かに獅子は使いこなし始めているらしい。

その白い光の中に生まれてくる茶色い岩の柱は、すぐに粉々に砕け散っていく。


「グギャァァァ!」

状況に気付いたスカイウィングがいっそう高い鳴き声を上げる。

すると、暴風と共に、いくつもの大岩が、上空から降り注いできた。


「おい、マジかよ。」

落ちてきた大岩を避けながら、拓は未知の生物、ドラゴンという存在の力を知る。

このスカイウィングは、風を操りながら、岩をも自在に使えるらしい。

いや、風を使って、この大岩を持ち上げたのかもしれない。


「なんて、馬鹿力だよ。」

Aランクという魔物の力に、拓は己の力が追いついていないことを実感してしまう。

せめて、利香達に害が及ばないよう。

戦っている獅子の邪魔にならないよう、自分の身を守り、ドラゴンの気を逸らす程度の役には立っていたい。


 その時、拓は獅子の姿が地上にないことに気付いた。

まさか、岩の下敷きになっているということはあるまい。ならば、獅子はどこへ……。

空中を飛び交う大岩の上に、獅子は立っていた。

地上数十メートルという、この高さなど、気にもしていないようで、その表情はどこか楽しげに笑っている。


 次から次へと、岩を足場に、獅子はスカイウィングへと近付いてゆく。

ドラゴンの鳴き声と共に飛び出してくる、岩の棘を、獅子が何もしなくても、白い光が砕き、獅子はただ、空を飛ぶスカイウィングへと視線を定めて駆け寄るだけ。

「あいつ、また強くなってる。」

戦う獅子の姿を目に焼き付けて、拓は強くなった少年を眺める。


 未来の、シエンの里を守る戦士。

その強さは、確実に『黒鬼』と呼ばれる男に近付いていた。

実力に、想像以上の差を付けれられていたことに、少しの劣等感を感じずにはいられないが、それ以上に、彼が味方であるということが、拓の口元を笑わせていた。


「倒せ、了。」

戦闘に集中した獅子には、聞こえないであろう小さな声で、拓は獅子を応援する。

いつの間にか、その背を見送るしかできない自分に、不思議と悔しさはなかった。

(あれが、『黒獅子』。シエンに住まう戦士の強さだ。)

そう思えば、いずれシエンの領主になる自分が、誇らしくさえあった。


 上空の大岩を足場に、獅子は自由に大空を移動する。

まるで、翼を持って、羽ばたいているかのように軽々と動く。

「くらえ!」

獅子の光の剣が、ついに、飛び回っていたスカイウィングの翼を捉えた。

ジャキン。


 鋭い白い剣は、大きな翼を切り落とした。

ついに、スカイウィングはその翼を失い、上空に留まることができなくなった。

崖の上へと落ちていく。

地面へと落ちきる前に、獅子はそのドラゴンへと最後の止めを刺していた。

落下する物質よりも早く移動するその速度。

確実に獅子の実力はAランクのものになっていた。


 光の剣は、ゆっくりとその光を消し去っていき、獅子は大きな息を吐いて、剣を鞘へと収めたのだった。

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