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ギレイの旅  作者: 千夜
17章
475/561

ティーレマンの館

 カイダル国にあるティーレマンの館。

その日もティーレマンは夜会を開き、大勢の客を招いて、自慢のコレクションを見せびらかしていた。

ギレイ、ヤン、ワルツの3人は、その大勢の客の中に紛れて堂々と館の中に潜入した。


 3人が館の中に入った時、一人の男が近寄ってきた。

この館の用心棒らしい。

一同は一瞬、緊張したが、何事もないかのようににっこりと微笑んで振舞う。


「君たちみたいな若い娘がここへ来るのはよくない。ティーレマン様に見つかる前に早く帰った方がいい。」

男は声を小さくして儀礼の耳元へと囁いた。

その言葉は真剣なもののようだった。

心配そうな表情で儀礼達を見ている。


 まるで、儀礼の姿に誰かを重ねて見ている様にも見えて、儀礼は少し首を傾げた。

「おいっ、アールト! 新人のくせに何をやってる! こっちだ。」

少し離れた所で傭兵らしき男が、この男を呼んだ。

どうやら、このアールトと呼ばれた男はここへ来たばかりのようだ。


「ご忠告、ありがとうございます。」

儀礼は丁寧に頭を下げた。

けれど、男の忠告を聞くわけには行かない。

儀礼たちはそのティーレマンに接触するために、ここへとやってきたのだ。


 男は、まだ心配そうに儀礼達を見つめながら持ち場へと去って行った。

そして、それから数十分後、でっぷりと太ったティーレマンの前に、3人の美女が座っていた。

ヤン、ギレイ、ワルツの3人である。

その広い部屋の中には、控えている護衛兵たちもいて、万が一、儀礼達が何かをしても取り押さえられるような体制になっている。

本当に取り押さえられるならば、の話だが。


 ティーレマンはそのために高額の金を払って腕のいい用心棒を何人も雇っていた。

「本当に素敵なお屋敷ですね。ティーレマン様。」

うっとりとした視線を周囲へと巡らせてから、儀礼は真っ直ぐにティーレマンを見る。

カイダルの言葉が話せるのはヤンと儀礼だ。


 ワルツは片言を聞き取るのが精一杯だった。

アーデスがワルツとヤンを2人だけで送り込むのに不安があったのはそのためでもある。

2人だけでは、何かあった時に対応が遅れる可能性があった。


 儀礼達の付けるイヤリングと指輪には通信機が仕込まれている。

これで、アナザーや、アーデスやコルロたちと連絡が取れる。

気付かれないように注意が必要ではあるが。


 これらの道具を使うのにも、儀礼の協力は重要だった。

いるといないでは、性能が変わってくるのだ。

ここにも、精霊の影響があるとアーデスは見ている。

これによって、フェードに本部を置いたまま、封鎖国家カイダルの中を調査することができる。


 カイダルの中にも管理局はあるが、今までここも他国に対して封建的な対応を取ってきたので、あまり信用はできない。

使うなら、働きなれているフェードの方が、動かしやすくてよかった。


 ティーレマンがにやけた笑みを浮かべながら、ヤンの膝に手を伸ばした。

「可愛らしい娘さん方に気に入ってもらえて嬉しいよ。是非ゆっくりとしていきなさい。」

指の太い、ティーレマンの手が、さすさすとヤンの太ももを撫でる。


「まぁ! ありがとうございます!」

感激した振りをして、儀礼はそのティーレマンの手を両手で握り締めた。

「本当に愛らしい娘だなぁ。名前は何と言うんだい?」

機嫌を良くしたティーレマンが頬を緩めて儀礼に問いかけた。


 その言葉に一瞬だけ、儀礼は冷や汗を流した。

ドレスという格好をするだけで手一杯で、仮りの名前など考えてもいなかった。

『マドイ』と名乗るには、さすがにその名は有名になりすぎている。

特に、このカイダルでは、ギレイ・マドイの名で騒ぎを起こしたばかりである。


「アーデイルと。」

高く、可愛らしい声で儀礼は名乗った。

それはとっさに浮かんだ、儀礼には見慣れた名前だった。

通信機の向こうからゲラゲラとコルロの笑う声が聞こえてくる。


 アーデイル。それは、『アーデス』の女名だ。

笑いは伝播する。

ワルツの口元がぴくぴくと引きつっていた。

この緊張の局面で、現場じゃないからと、大笑いするのはやめてもらいたい。


『アーデイル、な。仕事をしろ。』

アーデスの低い、冷たい声が通信機に静寂を戻した。

儀礼の肌がちりちりと焼ける。

怒りを電波に乗せるのはやめてもらいたい。


 しかしこれで、3人の緊張が適度にほぐれ、程よい緊張感が場を満たした。

結果的には良かったようだ。

コルロの呻くような声が通信機から漏れてきたが、儀礼は聞こえない振りをした。


「アーデイルか。良い名だなぁ。」

男が、儀礼の手をゆっくりとさする。

思わず、全身に鳥肌が立ちそうになったが、儀礼は何とか愛想笑いでごまかした。

傭兵の一人が、一瞬ピクリとして、儀礼の方を睨んだ気がしたが、気のせいだったのかもしれない。

今は、何事もなかったように直立不動の姿勢を保っている。


「ありがとうございます。ティーレマン様? ティーレマン様が所蔵なされているコレクションにはとても珍しい物がおありだとか。ぜひ、見せてはいただけませんか?」

そっと、男の手を握るようにして、儀礼はその瞳を見る。

活発的にギラギラとした瞳。


「あれが見たいのか? そうかそうか。あれは確かに美しいからな。いいぞ、特別に見せてやろう。」

そう言いながら、男のもう片方の手が儀礼の膝の上へと伸びてきた。

儀礼は慌てて、その手も掴み、両手で男の両手を包み込む。


「ありがとうございます! ティーレマン様ってお優しい方なのですね。」

にっこりと嬉しそうに儀礼が微笑めば、男はにわかに顔を赤くして、儀礼の顔を見つめる。

通信機からはクスクスと言う忍び笑いが漏れてきていた。

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