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ギレイの旅  作者: 千夜
17章
472/561

勝負の行方

 ピコン。

穴兎;“『集剣の』ジマーニと黒獅子が戦ってるぞ!”


 儀礼の見ていたパソコンの画面に、突如として軽快な音と共にメッセージが現れた。

それは、獅子とジマーニが戦い始めてからしばらくたった頃だった。

穴兎は何度も儀礼宛にメッセージを送っていたのだが、儀礼は穴兎との通信用のモニターである色付きの眼鏡を、資料を読むのに邪魔だからと外してしまっていた。

そこで、強制的に儀礼のパソコンへと入り込んで、アナザーは儀礼へと獅子の危険を知らせたのだった。


 開放されたとはいえ、儀礼が見ていたのはSランクであるアルタミラーノの資料である。

何十にも張られた侵入防止用の壁を乗り越えて、アナザーは侵入してきた。

アナザーの焦っているさまがそれだけで伺えるというものだ。


儀礼:“『集剣』のジマーニって?”

儀礼はすぐにモニターを目にかけて、手袋のキーからアナザーへと聞き返す。

『集剣』もジマーニも儀礼は聞いたことのない名だった。


穴兎:“魔剣の収集家だ。自身も強い剣術の腕を持っている。こいつの厄介なところは何本もの魔剣の力を同時に使えるところだ。一本一本の魔剣が大したことなくても、何本もの魔剣を集めれば『光の剣』とやりあえるだけの力を得ることができる。”


儀礼:“『集剣』のジマーニか……。また面倒そうな相手だね。それで場所は?”

見ていたパソコンの電源を落とすと、儀礼は利香に向かって何でもないようににっこりと微笑んだ。

「ちょっと、用事ができたから出掛けてくるね。拓ちゃん、このパソコン、大事な資料が入ってるから見張りお願い。」

何か言いたそうに儀礼を見た拓だったが、奥歯を噛んで、黙って儀礼を見送った。



穴兎:“場所は、そこから西に6km先の草原だ。道路からは少し離れているから、周囲には誰もいない。”

儀礼は愛華に乗ってその場所へと急行するのだった。


 二人の戦っている草原へと儀礼が辿り着いた時、その場に立っていたのは一人だけだった。

全身血まみれの獅子。


「獅子!」

慌てて儀礼は駆け寄る。

獅子は体中に切り傷があり、無事とはとても言えない姿だ。


 倒れかけた獅子の体を儀礼は慌てて支える。

儀礼の白衣へと赤い血が滲んでゆく。

「何やってんだよ! どうして一声かけて行かない! 死ぬつもりか!」

苛立ちを露わにして、儀礼は獅子の傷を見る。


 腕や足の傷はまだいい。出血の原因になってはいるが、命に関わるものではない。

しかし、体の中心、胸に近い場所に開いた傷は明らかに命に関わるほどの重いものだった。

「獅子の馬鹿! どうしてわからないんだよ。無茶ばっかりして!」

視界を確保するために涙を堪えながら、儀礼は獅子の傷を縫っていく。


「ははっ、なさけねぇよな。一人で戦いに出てこのざまだ。」

冷たい地面に横たわりながら、ししは苦い笑みを浮かべる。

「笑ってる場合じゃないだろ! 重傷だぞ!」

怒りながら、儀礼はその治療を続ける。


「……儀礼。俺は大丈夫だ。それより、あいつの方、見てやってくれないか。」

光の剣の柄を握り締めて、真剣な顔で獅子は言う。

離れた場所で一人、うつ伏せに倒れている男。

その男もまた、命に関わるほどの重傷を追っていた。


 それは、ちらりと男を見た儀礼にはわかっていたことだった。

放っておけば、一時間も持たずにその男は死ぬ。

「……くっ。わかったよ。獅子は動くなよ! 絶対だぞ! フィオ、暖めてて。」

フィオへと頼むと儀礼は倒れている男、ジマーニの元へと走る。

その背中に、獅子が呼びかけた。


「儀礼!」

儀礼は振り返る。

行けと言ったのは獅子なのにと、不思議そうに。

「攻撃の範囲が防御の範囲。確かに、分かったぜ。」

にかっと獅子は嬉しそうに笑う。


 光の剣が強い光を放っていた。

まるで獅子を守るようにその体をドーム状の光が覆っているのだ。

その範囲は広く、今、儀礼の立っている位置すら含まれていた。


 ジマーニは光の外へと追い出されたかのように、その暖かい光の外で倒れている。

「光の剣の力……。」

これがそうなのだと、武人ではない儀礼にもはっきりと分かった。

獅子は光の剣の力を引き出して、そして、『集剣』と呼ばれるジマーニを倒したのだ。


 剣から白い光が消えても、辺りには光の剣の魔力の残照の様なものが感じられた。

これが、数百万の人を動かす魔剣の力。

儀礼の体に不思議な力が漲る。

晴れ渡った空のような、すっきりとした爽快感。

暖かい、太陽の光を浴びているかのような感覚。


 使う者によって魔剣の力は変わる。

魔剣の力に負けて、魅入られて暴走する者もいる。

だが、これは、間違いなく、獅子の力。

光の剣の『光』の力。それを獅子は引き出したのだ。


「ランクアップ、おめでとう。」

それはもう、Bランクの者の力ではない。

間もなく、ギルドから正式に認められるだろう。

『黒獅子』はAランクへとなる。


 にっこりと笑ってから、儀礼は思い出したように倒れているジマーニに駆け寄った。

放置していてよい傷ではない。

すぐに傷口を消毒し、裂けた傷を縫合し、薬を塗って包帯を巻いた。

この男も、獅子に負けない位、全身傷だらけだった。


 全身へと刃の塊でも浴びたかのような傷だったのだ。

光の剣の恐ろしさを感じ取った儀礼だった。

そうして、儀礼は二人の包帯まみれの男を連れて、フェードの町の病院へと入っていったのだった。

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