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ギレイの旅  作者: 千夜
17章
467/561

葬列車

 列車はカイダルの上空をしばらくの間、ゆっくりと飛ぶと、元のフェードの線路へと帰って来た。

何度か攻撃はされたが、車体の障壁と、儀礼の装備していたミサイルで十分防げた。

普通の状況だったなら、このままなら、戦争になるかもしれない。

(でもこれは……。)


 ぽろぽろと涙を流して儀礼は泣き出した。

その突然の行動に、場にいた全員が驚く。

車両の着地した線路の脇には、ヤンがいた。

ヤンの瞳も潤んでいる。


 儀礼はヤンに駆け寄って抱きついた。

いや、泣きついたと言う方が近いかもしれない。

ヤンも、つられたように儀礼の体に手を回し、泣き始めた。


 そんな二人をアーデス達、儀礼の護衛は、離れた場所から見ていた。

胸に手を当てる敬礼の動作で。


 バシリオのもとへ研究員の一人が走りこんでくる。

「アルタミラーノ様が……亡くなられました。」

涙声で報告する研究員。

先頭車両にいたはずのアルタミラーノ。

もう動くことも叶わず、ベッドの上で医療機器につながれてこの列車に乗っていた人物。

それは悲しい、悲しい報せ。


 この実験はアルタミラーノの魂を送る葬列の儀式だったのだ。

世界で最も偉大なSランクの研究者、『世界の父』と呼ばれた男ニエストル・アルタミラーノを祖国へ送り出した。

空飛ぶ列車で。


 だからこれは許される。

戦にならない、ただ一つの方法。

アルタミラーノは、自分の寿命を悟って何か残してやれるものを、と思ったのだろう。


 管理局のSランク。

その研究者として、親としての心の様なものを儀礼は感じ取った。

それが、Sランクと呼ばれる者の偉大さ。


 儀礼にはまだ全然足りていない。

なのに、今回それを、儀礼にも分けてもらったような気がした。

その温かさを、偉大さを。


 その、胸の中の温かさが熱すぎて、儀礼は涙が止まらなかった

会ったことすらない、その人のために。


 ヤンに仕事を頼みに来た老人は、もう車椅子に座っていることすら困難なようだった。

その老いた男が懇願する。

「私の列車を飛ばしてくれ。我が祖国、カイダルの空に。私の素晴らしい部下たちを乗せて。」

しわがれた小さな声でアルタミラーノは語った。


「あの子達はきっと、世界の未来を変える。そのためには、あの国を知る必要がある。年老いた私ではもう、あの国に入ることすら許されない。あの子達に見せてやりたいんだ。わしの全てを。」

震える手を伸ばして、ヤンの手を掴む。

その手はひどく冷たかった。


「分かりました。この仕事お受けします。」

ヤンは重い面持ちでそれを受けた。

偉大なる人の最期の時。それをヤンに託されたのだった。


 その大仕事を終えたヤンの元に涙を溢れさせた少年が駆け寄ってくる。

ヤンは誇らしい事をした。

誰にでも誇れる仕事だ。


 でも、胸にぽっかりと穴が空いた気がしたのだ。

これは偉大なことだから、泣いてはいけないと思っていた。

でも、違った。

少年がヤンの体を強く抱きしめる。


 それは悲しみ、辛さ。

偉大な人を世界は今、失ったのだ。

Sランク。世界を滅ぼす危険のある人物。

けれど同時に世界を大きく変える力を持つ人。


 世界を救う方法を持っている者。


 素晴らしい人だったのだ。

全てを投げ打ってでも力になりたいと、そう願う部下が大勢いた。

人を育てる名人のような人。

父親のごとく、部下を見守る優しい人。


 ヤンは、最後のほんのひと時にしか出会えなかったけれど、それでもその温かみを十分感じられる人だった。


 (敏い。この子は敏い少年だわ。)

目の前で泣く少年を見て、ヤンは思う。

何も知らず、何も知らされずとも、その何かを知ってしまう力を持っている。


 ヤンに与えられた仕事も、死に行くSランクの者の心も。

だから、こんなにも素直に泣ける。

ヤンにその泣き方を分けてくれる。


 偉大な人を失ったのだと。

誰が泣いてもいいのだと。

本当は、泣き虫の儀礼が一人で泣くのが嫌だっただけかもしれないが――。


 その後、少女達を誘拐したバシリオたちは捕まったが、事件を未遂に防げたことと、カイダルに潜んでいた人身売買組織を摘発できたことによりその罪は軽くなったという。


 それから、捕まっていた少女達のことだが、他の子達とまったく同じ様に接する儀礼。


「また会えますか?」

「助けてくださってありがとうございます。」

それらの言葉に、儀礼はいつものように極上の笑顔で返す。

嬉しそうに、そして少し照れたように。


 少女達の頬がさらに赤くなっていくことに儀礼は気付かない。

気付かないからこそ、少女たちが余りにかわいそうに思えてくる。

きっと、あんな絵本の中の王子様みたいなのに惚れてしまったら、現実の男の子なんて見られない。

夢みたい、とか、夢だって分かっていれば諦めもつくのに、あんなに身近に触れられたら――。

もしかしたらと思ってしまうだろう。


 しかも、ここにいる少女達は誰もが見た目が綺麗で攫われてきた子たちばかり。

自分の容姿に自信を持っている。

皆が口々に、「是非うちに来てお礼をさせてください」と儀礼に言う。

「ありがとう、でもごめんね。僕には、やらなきゃならない仕事があるから。」

笑いながら少女たちの頭を撫でる儀礼。


 離れた所から見ているヤンたちには分かる。

あれは、完全に子ども扱いだ。

でも、少女たちはそうは取らない。

髪を撫でられたことに呆然とし、恥ずかしそうに俯いている。


「……儀礼君て、男の子だったんだね。」

「前からそう言ってるだろう。」

妙に納得したような利香の台詞に、獅子が微妙な危機感を抱いていたらしい。

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