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ギレイの旅  作者: 千夜
17章
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殺さない戦い

 ガンッ、ガンッ、とシュリの背後で銃の鳴る音がする。

ドサドサと倒れ伏していく敵は、深い眠りに落ちるだけ。

殺さずとも敵を倒す『蜃気楼』。

シュリの知らない、今までにない、戦い方をする少年。


「もう一人、目指してもいい奴がいるかもな。」

くくっ、と口元を緩めて笑い、シュリはまた武器を構える。


「どうやってこの敵、一箇所に集めたんだ?」

「知り合いに頼んで、僕がここにいるって情報を流してもらったんだ。周りに人もいないし、戦いやすいだろう。」

シュリの問いに、にやりと儀礼は笑う。


 何もないとは言うが、地面の下には、暗闇に隠れてしっかりといくつもの罠が仕掛けられていた。

そして、儀礼のはるか後方から、煙りを上げて複数の何かが飛んでくる。

小型のミサイルだった。


 そのミサイルに標的にされた者は、追尾するその素早い動きから逃れることはできず、電撃の餌食となって倒れた。

小型のミサイルはまた、群れを作って空を飛んでくる。


「僕の車の戦闘範囲なんだ、ここは。」

嬉しそうに儀礼は笑う。

護衛を振り払ってやってきた儀礼は、自分の敵を、宣言通り、一人で全て倒すつもりだったらしい。

それも、一人も殺すことなく。


(アーデスなら、間違いなく皆殺しだな。)

シュリは考える。それが、一番手っ取り早いから。

儀礼が、アーデスを連れて来なかった理由がシュリにはわかった。

一人も殺さない。


 フェードの大地に夜が明けていく。

地面には横たわる刺客たちの姿。

立っているのはシュリと儀礼の二人だけ。

死んでいるものはいない。

遠くには人の住む町の影も見えている。

この場所は、あくまでも、生活の中にある。


 死と生を分けるもの。

『蜃気楼』は自分の戦いを「死」の中にはおかない。


 味方も敵も殺さない。

そんなことが、できるのだろうか。

いや、事実、儀礼はそれをやってのけた。


 明るくなり始めた荒野に、白い光と共にアーデスとバクラムが姿を現した。

「時間がかかりましたね。」

まだまだだとでも言うように笑って、アーデスが言う。


「アーデス、後始末はお願い。」

その笑顔を受け、にっこりと笑い返して、面倒な作業を、儀礼はアーデス達に押し付ける。


「また、派手な人数集めましたねぇ。」

「集めたんじゃなくて、集まったの。白を狙ったりするから、こっちに目を向けたらすぐにこれだ。」

儀礼は口を尖らせる。


「わざと敵の目を集めるのやめてもらえませんか? でなきゃ、始末は俺達に任せろ。面倒だ。」

本当に面倒そうな顔でアーデスが言う。

「誰がどんな情報持ってるかなんて、分からないじゃないですか。」

そんなもの、本当は必要としていないだろう儀礼が、情報のために殺さないのだと理由を付ける。


「生かして捉えておくのは手がかかるんですよ。それだけ人員も必要ですし。」

「なら、発信機と盗聴機でも取り付けて逃がしますか? 取り外し不可能な方で。」

にやりと、黒い笑みを浮かべて儀礼は言う。

取り外し不可とは、体内に組み込むということだ。


「お前、絶対、俺のこと言えないぞ。」

「何が?」

悪なんて知りませんという無邪気な笑顔で、儀礼はシュリを振り返る。

「お前は、アーデス目指すのやめたらどうだ?」


 シュリの言葉に、儀礼はにっこりと笑う。

上位研究者のする、底の見えない、深遠な笑み。

「便利なんですよ、研究職の連中相手にするには。」


 人を殺さない蜃気楼が、人を人として扱わない言動をする。

それは、あまりにも違和感がありすぎる。

しかし、その悪を纏った姿が、演技だとすれば、納得がいく。

アーデスは心を見せず、善人の振りした笑顔を見せる。

上位研究者達の見本のような存在だ。


 儀礼は、悪の振りをして、その実、行動は善を向いている。

研究者の先輩として、アーデスを見習うのは間違っていないのかもしれないが、儀礼には、それは向かない。

(いや、違う。)

朝日に透ける金の髪と輝くような真っ白な衣を見て、シュリは思う。


(『蜃気楼』には、そのままの姿で、いてもらいたいんだ。)

多くの研究者たちが目指す先。

それは人を貶める人間の醜さではなく、人を助ける先駆者の姿であってほしい。


「似合わねぇよ。」

くすりと笑って、シュリは言う。

幼い子供の顔している方が、何倍もそれらしい。


『もうそれは、君の武器だ。』

また、その声がシュリの耳に聞こえた。


「そう。それが、もう、お前の武器なんだよ。」

悪を知らない、無邪気な笑顔。

敵を殺さない、心優しい少年。

それが、『蜃気楼』という、世界最高峰の研究者。

(そういうものが、人々の目指すものであって欲しい。)


 人を惹きつける無垢な強さ。

その方が、幼い顔をした少年にはずっと、似合っている。


「つっかれたぁ。シュリ、やっぱりまた寝床貸して。」

数時間に及ぶ外での戦闘。

研究者であり、戦闘を好まないという儀礼にはやはり、重労働過ぎたらしい。

目の下にはクマができており、今にも倒れそうに見える。


「敵が片付いたんだから、自分の寝場所で眠ればいいだろう。」

そのために、この戦いに来たはずだ。

「そっか、もう敵いないのか。なんだ。」

そう言うと、儀礼は大きなあくびをして、地面に寝転がった。


「じゃ、僕寝るから。お休み。」

太陽がゆっくりと昇ってくる。

朝日の照らす荒野の中、大勢の血にまみれた敵と同じ様に、真っ白な衣を着た少年が横たわっていた。

「宿で寝ろ、宿で!」


 戦闘で疲れているのはシュリも同じだが、アーデスもバクラムもシュリと儀礼が倒した敵の後始末に追われている。

どこから湧いてきたのか、研究者らしき大勢の人が『蜃気楼』を狙った刺客たちを移転魔法でどこかへと運んで行く。

みな忙しそうで、やはり、この少年の面倒はシュリが見なければならないらしい。

荒野の大地に寝転がしておくわけにはいかない。


 仮にも、管理局のSランク『蜃気楼』であるのだ。

「いや、それこそ、管理局の誰かが面倒見ろよ。」

それを含めての、護衛の仕事でもあるのではないだろうか。

悩むシュリだが、考えても仕方がない。

現実問題、儀礼の周囲は人手が足りていないと、この間話していたのではないか。


 仕方なく、シュリは儀礼を運んでいくことにする。

しかし、そこで気付く。シュリは現在儀礼が泊まっている宿の位置を知らない。

「結局、うちに運ぶしかないのかよ。」

はぁ、と大きく溜息を吐いてシュリは眠っている儀礼を肩に担ぐ。


 そして、触れてから気付く、その体温の高さに。

「そういや、こいつ、風邪引いてるんだったか。」

安静にしていなければならないはずが、寒さの厳しい冬のフェードの夜中に、過重運動。

「そりゃ、熱もぶり返すよな。何が「お休み」だ。」


 眠ったのではなく、これは倒れたのだと、ようやくシュリは気付いた。

家に連れて帰って、ラーシャにでも面倒見させよう、とシュリは移転魔法で自分の家へと帰ったのだった。

その後、幼子と化した少年が、2日間程、ノーグ家の少女達にもてはやされていたらしい。


「一人は嫌だよぉ。」

「「大丈夫、私たちが一緒にいるからね。」」

「のどかわいたぁ。」

「はい、お水あるわよ。頭のタオルももう変えるわね。」


「ペットだな。」

「ペットだ。」

風邪を移すといけないから、と言っていた少年はどこに行ったのか、今では世話焼きの3人の少女達にされるがままになっている。

クーン、クーンと仔犬の鳴き声でも出しそうな少年と喜んで世話をする少女達の光景に、シュリとアーデスはくすくすと笑っていたのだった。

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