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ギレイの旅  作者: 千夜
17章
452/561

安全な寝床

 白の元に襲撃者が現れたと、アナザーから聞いた。

儀礼は敵の襲撃が白ではなく、自分へと来るように仕向けてくれとアナザーに頼んだ。


穴兎:“危険なの、分かってて言ってるんだろうな”

儀礼:“大丈夫だよ。僕には護衛たちがいるから。”


 儀礼が説得すれば、しぶしぶと言った感じでアナザーは儀礼の依頼に答えてくれた。

その結果は、絶大な効果があった。

ドルエドの城にいる白の安全は保証された。

代わりに、儀礼が不審な人物に追われる毎日となった。


 次から次に腕輪の石が色々な色に光り、光っては消えるを繰り返している。

シシは最近長期の仕事に出掛けがちで、そんな時は、今までは管理局や宿の中にこもっていれば安全だったのだが、その位置情報を儀礼はアナザーに頼んで流してしまっている。


 つまり、以前一度あった様に、儀礼の周りに不審者が多くなり、獅子のいない間の寝る場所に困ることになった。

その時に、アーデスが「寝床くらい貸しますよ」と言っていたのを儀礼は思い出した。

本当に寝床を借りに行くことにする。

周囲への警戒心の強いアーデスの寝る場所ならば、それほど安全な場所はない。


 そして、アーデスにメッセージを送ってみれば、すぐに快く引き受けてくれた。

「俺は仕事に行ってるから適当に寝てろ。ここは知り合いしか入れないから問題ないはずだ。誰か来ても扉は開けるなよ。」

一体、何歳児に向かって言ってるんだこの男は、と儀礼の怒りまじりの疑問が浮かぶ。

だいたい、眠るために来たのに、案内された先が昼間とはどういうことか。


 儀礼のいた国、フェードでは夕方だった。

どこか、暖かい気候の国らしく、昼間の日差しがとても強く室内に降り注いでいる。

「眩しい。」

眠るには邪魔な光に、儀礼は閉口する。


 ちょうど、ベッドの側にあった薄手の布を頭から被り、儀礼は強い日差しを遮る手段を手に入れた。

それが女物であることを、アーデスは黙っておくことにした。

これ以上、少年のくだらないわがままで、仕事に行く時間を遅らせるのも、ばからしかった。

アーデスの研究所では、手に入れたばかりの正体不明の魔物が、研究されるのを待っているのだ。

ニヤリと不気味な笑みを浮かべてアーデスは白い光りの中に消えた。


 儀礼が眠りについてから2時間ほどが経った。

深い眠りの中、儀礼は体の疲れを癒していた。

その時、突如、肌を焼く感覚に儀礼は飛び起きた。


 ふかふかのベッドの上で、儀礼はいくつかの疑問に見舞われる。

深すぎた眠りのため、まず、自分がどこにいたのかを理解できなかった。

目の前には、薄い布のベールにシルエット化された魚の絵が描かれており、涼しげに泳ぎ回っている。


 明るい日差しの室内に、開いた扉。

その切り抜かれたような四角い光をバックに美しい女性が立っている。

儀礼のいる場所は一部屋しかない、どこか南の国の狭いアパートの一室。


 目の前にいるのは、日に焼けた肌に、つやのある黒く長い髪の美女。

美しい鮮やかな青い瞳は、儀礼がまだ見たことのない海の色だろうか。

その女性が、驚いたように、水色の綺麗な目を見開く。次の瞬間には眉間にしわを寄せた。


 そして、儀礼は、状況も理解できぬままに、その女性に暴言を吐かれた。

美しい女性が、目に涙を溜めて、荒い語調で、儀礼に文句を言う。

ベッドの上、儀礼は眠そうに目を擦ると、ようやく働き出した脳で、女性の声が発した音を理解できる言語へと訳す。


儀礼に理解できた言葉は一つ。

『どろぼう』


 それ以外は、いろんな意味で理解なっとくできなかった。

とりあえず、儀礼は勝手に使ってしまった女性の物と思われるベールを返す。


『すみません。あなたの物とは知らず、勝手に使ったことを許してください。』

ベッドの上に正座し、儀礼は丁寧に頭を下げる。これで、女性の怒りも引くだろうか。

涙を浮かべて儀礼は女性を見上げる。


 おおまかには知っている言語だが、この地方のしゃべり方など儀礼にはわからない。

女性の話し方には何か方言のような、癖がある気がするが、儀礼にはそれを短時間でまねる程の器用さはない。

儀礼の顔を見て、女性は慌てたように後ろを振り返り、扉と鍵を閉めた。


「ごめんなさい。取り乱してしまって。あなた、アーデスの仕事の関係の人?」

女性が流暢なアルバドリスクの言葉で話しかけてきた。

先程より、落ち着いたようで、優しい口調だ。

しかし、びりびりと警戒したような怒りの気配が来るのはなぜだろう、と儀礼は身を縮ませる。


 小さな怒りの気配に、儀礼はびくびくと目線を下げる。

下げた先に、女性の大きく開いた胸元が見え、儀礼は慌てて自分の膝元にまで視線を動かした。


「はい。今はアーデスさんに護衛をしていただいております。」

儀礼はベッドの上に正座したまま女性に答える。

ぎこちなくなるのも仕方がないことだろう。

母の国の言葉だが、アルバドリスクの言葉も儀礼はほとんど使ったことがなかった。


「アーデスはどこに行ったの?」

女性が聞く。

「仕事に出かけました」

黒い髪が儀礼の視界の端で動く。女性が首を傾げたのがわかった。


「あなたの護衛が仕事ではないの?」

確かに、その通りだ。

しかし、儀礼の護衛は交代制で、主に外国などの軍事集団の警戒が仕事で、特に危険が及ばない限り、普段は彼らに活躍の場はない。


「ここにいれば安全だからとおっしゃって、別の仕事に行かれました。」

おそるおそる、儀礼は視線を上げる。

目鼻立ちのはっきりとした女性は、真剣な瞳で儀礼を見ていた。


 どこの国の刺客だろうと、まさか、儀礼がどこだかも知らない南の国へ避難しているなどとは思わないだろう。

たくさんある南の島国のどこかだとは思うが、本当にどこだろうと儀礼は首を傾げるしかなかった。

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