戦い終わって
久々の獅子の怒りオーラに硬直する儀礼。
「おい、お~い」
儀礼の顔の前で手をひらひらとする獅子。すでに怒ってはいなかった。
「ふう~~」
深い息を吐き、やっと体の力を抜く儀礼。
「大丈夫だよ。それよりごめんね、獅子。手を汚させちゃって」
悲しそうに言う儀礼。
「はぁ? あいつは利香を食おうとしたんだぞ、切り刻んでも足りないぐらいだっ」
当然のように言う獅子。
そして、獅子は思う。儀礼に止めを刺させずによかった、と。
本来、獅子のように闘いの世界に住んでいるわけじゃない人間にとってそれは重過ぎるもの。
「そうか……。ありがとう、さっきは庇ってくれて。さすがに獅子は強いね。僕は自分が情けないよ」
はぁ~っ、と悔しげな瞳でため息をつく儀礼。
「はあ?!」
獅子が目を丸くする。
「あんな魔法みたいな技使っといて何言ってんだよ! あれがなきゃ、あんな化け物倒せなかったぜっ!」
「そう? 獅子がそう言うならよかった。祖父ちゃんに教えてもらったんだけどね。祖父ちゃんは使ったことはなかったってさ」
あくまでも、祖父の力であって自分の力ではない。儀礼はそう思っている。
二年前に亡くなった儀礼の祖父は、変わり者と言われていた。
子供の頃からいつも、夢物語のようなことばかり言っていて、周りの大人たちは呆れていたという。
だが、その60年後、彼の孫がその夢物語を現実にしていた。
馬より速く走る車、離れた場所からボタン一つで動く機械。
60年、早くに生まれてしまったために技術が追いつかなかった天才。
その血と記録を受け継ぐ、実現の天才が儀礼、彼である。
「ま、とりあえず、町に帰ろうか。ボロボロだしね」
獅子の姿を見て儀礼が言う。
「あぁ、そうだな。利香も見てやらなきゃ」
そう言って足早に車に戻る獅子。
(さて、依頼主にどう言うかな)
壊れたつぼの破片を拾いながら儀礼は考える。
(相当危険な目に合ったし、ちょっと脅しても悪くないよな)
邪悪な笑みを浮かべて車に戻った儀礼に、手当てする手も止め、珍しく獅子の方が恐怖を覚えていた。




