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ギレイの旅  作者: 千夜
14章
401/561

異変

主人公が女体化しています。苦手な方はご注意ください。

 自分の胸に膨らみがある。

「なっ!」

声が高い。

儀礼は立ち上がり、全身を見回す。そして、ベッドの上に崩れ落ちた。

「やられた……。」

(あの変態女神……。)


 ひとまず、この姿は人には見られたくない。

特に目の前の奴、熟睡している拓を見る。

絶対バカにするに決まっている。


 一日限りと、水光源は言っていた。

ならば、今日一日身を隠していれば問題あるまい。

(図書館、じゃすぐに見つかるか? 他の宿にでも行くか。)

そう思って自分の姿を振り返る。昨日雨に濡れて着替えただけで、髪や体はべたついている。

ズボンの裾や袖が微妙に余っていて邪魔だ。


(ってことは縮んだ!?)

思わず儀礼は自分の頭に手を当てる。

(せっかく伸びたのに……。)


 ひどいショックにうちひしがれながら、儀礼は荷物の中の着れそうな服を探す。

シャワーぐらい浴びておきたい。幸い、この宿の一階には個室になるシャワールームがあるのだ。

(白衣は……持てないもんな……必要最低限にするか。)

儀礼の白衣には、ポケットやら全身やらに詰め込んだ物で、鎧と変わらない重さがある。


 睡眠薬、爆薬、痺れ薬、とズボンのポケットの中に押し込んでいく。

麻酔銃は……正直、改造銃だけでかなり重い。それで狙いを定められる気がしなかった。

(仕方ない、置いていくか。)

儀礼は最大の武器を諦めた。


(誘拐組織がいるとかなんとか言ってたけど、ようは見つからなきゃいいんだしな。フード被って、マントしてりゃ、容姿なんてわかんないだろ。)

儀礼はまとめた荷物を持ち、頭からマントを被ると足音をたてないように部屋を出る。


 部屋には一応書き置きを残した。

情報探し兼、仕事探しに行くと。

ついでに早く利香を連れて帰れ、とも、なだらかな言い方で。


 浴場は1階で、階段を降りなくてはならない。階段は獅子達の部屋の先だ。

そっと、誰も起きないことを願いながら儀礼は歩く――。

「なんだ、儀礼か。」

音もなく目の前の扉が開き、息をのむ儀礼。

獅子が扉の向こうで剣を構えていた。


「どうしたんだ? こんな時間に。そんな気配消してるから思わず構えちまったじゃないか。」

獅子がボスボスと剣の鞘で儀礼の頭を叩く。

「いや……シャワー浴びてこようかと……。それから仕事ないか見てくるよ。」

なんとか早く通り過ぎたい、と儀礼は話を切り、歩き去ろうとする。


「あれ? お前、背縮んだか?」

獅子の何気ない一言。

痛恨の一撃。


「人が縮む訳無いだろ!!」

涙目で叫び、走り去って行く儀礼だった。

「なんだ、あいつ? なんか声、変だったか……? ま、儀礼なら平気か。」

深くは考えない獅子だった。


「どうせ僕は小さいよ。でも成長期が遅かっただけさ。やっと伸びてきたのに。っていうか、獅子や拓ちゃんが馬鹿みたいに伸びるからいけないんだろ。なんだよあれ。反則だよ。早寝早起きしてんのがそんなに偉いのか。」

涙目のままぶつくさと文句を言い続ける儀礼。

そのまま男湯の扉を開けようとして、宿の女中に止められる。


「お客様、そちらは男性用となっております。こちらが女性用ですよ。外国の方だとよく間違われるんですよね。」

早口に言って、女中は儀礼を女湯へと押し込んだ。

戸惑う儀礼。

いや、たしかに、今の姿なら間違ってはないのだろうが、なんだか覗きに入ったような、悪いことをしてる気分だ。

早々に個室の扉を開け、逃げ込む。


 儀礼は目をつぶったまま手短にシャワーを済ませる。

手早く服を着てようやく一息つく。

鏡に映った顔はいつものまま。

なのに体はたしかに女の物。


(僕ってやっぱり女顔なのか……。)

鏡の自分の顔を手で覆い隠す。なんだかもう、本当に泣きたい気分だった。


 荷物を纏めて、外へ向かうために儀礼は廊下を歩く。

汚れた服は洗濯して、干し場に干しておいた。

これで、邪魔になる手荷物はない。


(確か、浴場の先に裏口があったはずだ。)

表から出て行くと、フロントの目に付くし、目立ってしまう。

儀礼は裏口からこっそりと出て行くつもりだった。


 しかし、思わぬ事態がそこに待ち受けていた。

裏口には、何人もの怪しい男が待ち構えていて、儀礼が何かをする前に口を布で押さえられ、儀礼は意識を失った。

その背後では、先程儀礼を案内した宿の女中が、薄っすらと笑みを浮かべていた。


 儀礼はゆっくりと目を開ける。

そこは見たことのない場所だった。

牢屋ではない。

けれど、広くはない部屋の中に、複数の女性たちが押し込められている。

どこかの屋敷の一角なのかもしれない。

建物の柱は太く大きい。


 日の光が入り込むことから完全な地下ではない。

けれど、部屋の上部に取り付けられた小さな窓にはしっかりと鉄格子が取り付けられている。

「ぐっ、くそ、まさか、噂の誘拐犯どもか?」

まだ、かがされた薬が効いているのか、儀礼の体は思うように動かない。

ふわふわとするようなめまいに近い、浮遊感に襲われていた。


 手足は自由だった。マントはなくなっているが、衣服を脱がされた形跡はない。

部屋の中には、寝台が一つ。

ソファーが一つ。

テーブルと、大きめな布張りの椅子が二つ置いてある。

しかし、部屋の中にいる女性達は怯えたように固まって、部屋の片隅に集まっている。


 その数は5人。儀礼を入れれば6人だ。

そのうち2人ほどは、何日も前からここにいるのか、若干衰弱しているように見える。

「大丈夫ですか?」

とりあえず、儀礼は怯えている女性達に声をかけてみた。

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