【閑話】図書館
あれから数年。
旅に出た獅子は並の格闘家には負けない実力を手にしていた。
そして、困った友人への接し方もマスターしていた。
「ぎぃれ~い~!」
けして大きくはない声で獅子は友人の名を呼ぶ。
ここは国立図書館。この友人は『Sランク』と言う肩書を持つらしい。
獅子は固まり、本を取り落としそうになった少年を肩に担ぎあげる。
「すみません、こいつが迷惑おかけしました。」
悪くない顔立ちでにぃと、司書の女性に笑いかける。
いたずらっぽい笑みだが、まだ幼さの残る顔立ちにはよく似合っていて、女性は微笑みを返す。
だが、肩の上では儀礼は固まったまま。
普段は身に合わないと、隠そうとする階級を最大限に利用して、この場所に留まっていた儀礼。
三日ほどほとんど飲まず食わず、不眠不休で館内中の本を読みあさっていたと言う。
(なんてたちが悪い)
図書館から出て、人の目が少なくなったあたりで獅子は儀礼を下ろす。
顔色はひどく悪い。触れていた体温もひどく低かった。
獅子は儀礼の顔を正面から睨みつける。
目の前の金髪の少年は冷や汗をかきながら目線を泳がせている。
獅子はにっこりと笑ってみせる。
「何してたんだ?」
これは儀礼の真似。笑顔と穏やかな声で、感情を読ませない。
「得意の探知で俺が来るのはわからなかったのか?」
続く獅子の言葉にも儀礼は視線を落とすだけ。
逃げだそうともせず固まっているから無意味だったか。
わかってはいたが。
疲れることはやめ、真剣な表情に戻る。
「司書のねーさんが、お前が倒れるんじゃないかって心配して俺(儀礼の連れ)を探してくれたんだぞ」
「ごめん」
視線はまっすぐに獅子の瞳を見返して来て、儀礼は悲しげな顔で謝った。
「俺に言ってもしかたないだろ」
「うん。でもごめん」
心配したことも、怒りを押さえていることも、儀礼はわかっているようだ。
獅子はふう、と息を吐くと怒気を消した。
たちまちかくん、とひざを折ると、儀礼はその場で寝息をたてはじめる。
予想していた獅子が受け止めなければ、地面に頭を打っている。
はぁ。ともう一度獅子は深い息を吐く。
それでも、目の前に本の山があれば儀礼は同じことをするだろう。
だからこそ儀礼なのだが……。
(やっぱりたちが悪い)
幸せそうに眠る友人の顔を見ながら結局は儀礼に甘い自分に、獅子はそう思った。
山のような本を読みながら、儀礼は幸せにひたっていた。いくら読んでいても、誰も何も言わない。
Sランクにもの言える人がいるかは不明だが。
時折、親切な人が、差し入れを持ってきてくれた。
笑顔で礼を言うと、ほかのことをいう間もなく顔を真っ赤にして消えてしまったが。
男女問わず。
どれくらいの時間がたっただろうか、さすがに体の動きが鈍くなってきたのを感じた頃、黒髪の少年は現れた。
「ぎぃれ~い~!」
恐ろしい声音と共に。
危うく、貴重な本を取り落とすところだった。
動かなくなった体を、友人は軽々と持ち上げる。
(くそぅ、重しに白衣を持ってくるんだった)
なんだか悔しくて、誘拐される~みたいな視線を辺りに送ろうかと思ったが、先手を打たれた。
「すみません、こいつが迷惑おかけました」
司書の顔から獅子が善人らしさをアピールしたのがわかる。
もはや儀礼に打つ手はなかった。




