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ギレイの旅  作者: 千夜
14章
395/561

その頃ギルドにて2

「それがワイバーンの瞳か。色々と種類があるって聞いたが、こいつはどんな効果があるんだ?」

マスターの持つ緑色の宝石を覗き込んで獅子が問う。

「そいつはテーゼって、フェードにあるBランクの遺跡のマップを表示する機能を持ってる。あたしらはもう攻略してるから必要ない代物だよ。」

なんでもないことのようにワルツは言った。

それでも、宝石としての価値が十分、ワイバーンの瞳にはあるのだ。


「こんな高価な物をポンと支払うとは、さすがに『Sランク』の護衛だな。」

その地位に、自分がいないことへの不満を織り交ぜて、クリームが呟く。

「高価って言ってもね。余るほど持ってるからね。あたしは。」

笑いながら、ワルツは腰に下げた小さな袋の中から、いくつもの宝石を取り出す。

全てが直径4、5センチはある、ワイバーンの瞳だ。


「さすが『翼竜の狩人ワイバーンハンター』。数が違うな。」

引きつるような笑みを浮かべて、獅子はそれを見る。

「この辺の、普段持ち歩く分は防御に役立つ装備品なんだ。こっちは風の力を持ってるから攻撃に役立つ。」

宝石を順に見せながらワルツは説明する。


「この黒いやつを手に入れる時にはちょっと苦労したね。何しろ相手の大きさが普通のワイバーンのサイズじゃなかったからな。」

いつの間にか、宝石の話から、それを持っていたワイバーン本体との戦いの話へと切り替わっている。

「ワイバーンの弱点は頭だ。よく、翼を落として地上戦に持ち込もうとする奴がいるが、それは割に合わない。奴ら地上戦もいける。」

快活に話すワルツの話に、獅子は興味深そうに耳を傾けている。


「なるほど。足も速いんだな。」

「ああ。だから、頭を潰すのが一番効果的だ。種類によっては炎や岩も吐くからね。」

いくつもの宝石を酒場のテーブルの上に並べてワルツは話を続けている。

その手にはいつの間にか酒の入ったジョッキが握られていた。


「岩を吐く奴なら俺も戦ったことがあるぞ。翼はなかったけどな。あれは確かに厄介だよな。」

うんうん、と獅子は頷く。

「翼のない、岩を吐く、……地竜か?」

少し考えるように間を空けて、ワルツは獅子に問いかけた。


「そう、さすがよく知ってるな。チリューだ。」

「お前、地竜を倒したのか?」

意外そうに目を丸くして、ワルツは獅子を見つめる。

「ああ。素早くて大変だったな。」

冷たいお茶の入ったコップを一気に傾けて中味を飲み干し、獅子は頷く。

思い切り動いたせいでひどくのどが渇いていた。

訓練場の修理代にお釣りがくるらしいので、ここでの飲み代はワルツのおごりということになっている。


「ふん。さすが『黒獅子』だな。やはり、本気で一度やってみたいところだ。」

にやりとワルツは笑う。

赤い唇が大きく弧を描いていた。


「了様!」

慌てたように利香が獅子の腕に抱きついてきた。

今まで、白たちと話しをしていたのに、こちらの話にも耳を傾けていたらしい。

先程の戦いでも、獅子達は無傷ではなかった。

見ているだけの利香には、耐え難く、辛いものだったのだ。

これ以上、獅子の傷つく姿を見たくはない、とその利香の涙を浮かべた瞳が語っていた。


「可愛いお譲ちゃんだねぇ。」

頬杖を付いてワルツは利香を眺める。

「大丈夫。もうあんな無茶はしないよ。あたしもこいつらの実力を知りたかっただけだからね。」

にっこりと微笑むワルツの顔は優しい表情をしていた。

その顔を見て、安心したように利香は獅子の腕に抱きついていた力を緩める。

それから、獅子の顔を見上げて目が合うと、真っ赤な顔をして、獅子の肩に顔を埋めた。

思わず、獅子はそんな利香の髪を撫でていた。


「で、そっちの話はまとまったのかい?」

獅子と利香が二人の世界に入ってしまったので、ワルツは隣りで何やら話し合っていたクリームたちの方へ向き直る。


「俺達は儀礼がどうするのかで行動が変わるからな。今はなんとも言えないな。」

テーブルの上に地図を広げていた拓がワルツに答えた。

その地図を見て、どこが安全で、どこが危険か。

利香を同行させられるのはどの範囲で、近寄らない方がいいのはどこの道かなどをクリームと白たちは話し合っていたのだ。


「そう、あたしらの行動はギレイしだいになる。」

どこか諦めたような笑い顔でクリームは答えた。


「……お前、その服、似合ってるなぁ。」

しばらくじっと白を眺めていたクリームが、意味深い響きを持たせて言った。

男物の服を着た、少年の格好をした少女。

儀礼が側にいる限り、少女とは思われないだろう。

何者かに命を狙われながら、絶対の権力を持つ少年に、守られている少女。

一時は、クリームのターゲットでもあった。

様々な思いを乗せた言葉だった。


 しかし、白はその響きの意味に気付いていないようで、照れたように顔を赤くしていた。

「クリームさんも、とても似合ってて綺麗です。それに、強くて格好いいです。」

慌てたように白はクリームを褒め返す。


「ふーん。」

特に、気にも留めていないような声でクリームは返事をした。

クリームの言葉の意味に不満そうに表情を歪めたのは拓だ。

白が少女であることに、気付いていると、クリームはほのめかしたのだ。


「お前、何が言いたいんだ。」

低く、小さな声で拓はクリームを威嚇する。

しかし、クリームはそんな程度で怯えるような人間ではない。

くすりと笑うと、また、白に視線を合わせた。


「あいつも、このぐらい可愛げがあれば、いいのにな、と思ってな。」

素直で正直。簡単に考えを読めてしまえる白。

同じ顔なのに、儀礼の考えはクリームには読めない。

その思考に追いつけない。

儀礼が決断を下すまで、どれだけ他の連中と話し合ったとしても、無駄なことだと、思えていた。


「それは無理だ。あいつは生まれつき可愛げ何てない。」

クリームの言う「あいつ」が誰であるのかわかったようで、拓はすぐに答えた。


「生まれつきか、それは仕方ないな。」

ははっ、とクリームは声を上げて笑う。

生まれ付いての天才。ならば、いくら追いかけても追いつけるわけがない。


 二人の会話に、白が不思議そうに首を傾げていた。

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