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ギレイの旅  作者: 千夜
14章
393/561

会談

いつもより3時間遅くなりました。

またも、見直しの時間が少ないので、誤字脱字ありましたら申し訳ありません。

 儀礼とアーデスは管理局の一室で向かい合っていた。

獅子達は全員、ワルツと共にギルドに行った。

ギルドの訓練用施設を借りて一暴れしていることだろう。

ゆっくりと話ができるので、儀礼にはありがたい。


「さて、さっそく本題に入りましょうか。」

アーデスが切り出す。

その表情は冷たく見えるほどに、冴えている。

「あの、少年は誰です?」


「今は、僕の弟ってことになってる。拾ったんだ。本当に出自不明。言いたくないみたいだから聞いてない。」

儀礼はアーデスに話しながらパソコンを起動する。

ふざけているわけではない。

ここには一人足りない人物がいるのだ。


『おい、ギレイ。この場に俺を呼び出すな。』

すでに手袋のキーから連絡はしてあったのに、起動されたパソコンから、不満そうに『アナザー』が文句を言う。

「もちろん、追跡したりはしないよね。」

真剣な表情で儀礼はアーデスを見る。


「……わかりました。今は話を進めましょう。その人物が何を知っているんです?」

若干の間、考えたようにも見えるアーデスだが、この場で『アナザー』追跡をすることはやめてくれたようだ。

「白について調べてもらってるんだ。」

パソコンを示して儀礼は言う。


『今の段階では、正体は断言できないがな。アルバドリスクの上流の娘だ。』

パソコン上で文字が語る。

「あ。」

思わず出たのは儀礼の声だ。

せっかくアーデスも勘違いをしていたのに、わざわざ教えることはないではないか。


「娘? 少女か。なるほど。」

しかし、アーデスはすぐに納得したように頷いた。

儀礼の顔を見て。


「待って、何かその納得のされ方、問題ある気がする。」

表情を引きつらせて儀礼はアーデスに不満げな視線を向ける。

儀礼にそっくりな白の顔。


『そこはもう、否定しても仕方ないだろう。ギレイ。』

まるで、二人の会話を聞いているかのようにメッセージを送ってくる『アナザー』。

やはり、どこかに盗聴機を仕掛けられているのでは、と儀礼はディセードの家を出発する際に考えた危惧を再燃させる。

しかし、アーデスが何も言わない。

何か仕掛けられているなら、すぐに見つけてしまいそうなのに。


「会話するのに、一人が文体なのは面倒だな。いっそ姿を現したらどうだ?」

アーデスがパソコンに向かって、不敵に笑う。

『遠慮しておく。問題はない。』

すぐにアナザーからの返事があった。やはり、盗聴説は本気で考えなければダメだ。

しかし、今はそれで、会話が楽になるのだから、考えるのは後回しにしよう。


「出てくる度胸もない奴が、こそこそと一体何をやっている。」

『こそこそしてるつもりはないが。ちゃんと商売が成り立ってるんでね。目の前にいても、主の見分けも付かない護衛よりは役に立つさ。』

「はい、そこ、話が進まないから、くだらないケンカしない。」

今にもパソコン本体を壊しそうな怒気を放つアーデスと、追跡されないからと、余裕なのか、この場にいないからこそ大胆な発言をしてみせるアナザー。

儀礼は大きな溜息をこぼす。

実際、ディセードをアーデスの目の前に連れてきたら、それはおとなしくなりそうだ。


『白の話だったな。本名は『シャーロット』。お前らが潰した手配書の本来の標的だ。』

「アナザー、先にどこまで話すか決めておかない?」

容赦なく、事実を告げていくアナザーに、儀礼は危機感を覚える。

目の前の護衛は、何だか苛立ちをつのらせているように見えてならない。


「その時から、あの少女について、隠していたってわけですね。」

冷たい。

アーデスの声がとても冷えたものになっている。

ごくりと、儀礼は思わずのどを鳴らす。

返答しだいでは、暴力に訴え出そうな雰囲気だ。

アーデス達は、儀礼の安全のために、危険な国へ潜入していたのだ。

それが、余裕をなくし、隠し事をするためだと思われたのでは、怒りもわいてくることだろう。


「ユートラスに僕が狙われてたのは本当。」

冷や汗を流しながら、儀礼はアーデスに伝える。それは事実だ。

シャーロットと表記されながら、載せられていた写真は間違いなく儀礼のものだったのだから。

それを見た者たちが、ターゲットを儀礼と勘違いしないはずがない。

また、ユートラスが『蜃気楼』の情報を欲しがっているのも現在進行形で事実だ。

それはしかし、アーデス達のおかげで、当分の間は向こうも動けないほどの混乱に陥っているようだが。


『ユートラス以外に、あの少女のために国家が、おそらくはドルエドが動いている。』

「ドルエドが?」

眉間にしわを寄せてアーデスがモニターに視線を移した。

『お前なら知ってるかもしれないが、ドルエドは諸外国に向けて、要人の警護を請け負っている。』

「なにそれ、僕、聞いてない。」

今度は、儀礼が驚く番だった。

「ドルエドは魔法の使用が制限されている。」

『つまり、魔法での攻撃を行いにくい、人を守りやすい国なんだ。』


 二人が訳知り顔で説明してくれる。

アナザーの顔はパソコンモニターだが。

「……守りやすい国、か。」

自分の生まれ育った国を思い浮かべて、儀礼はポツリと呟いた。

「白をそこまで連れて行けば、無事に守れるって事だよね?」

考えるように口元に拳を当てて、儀礼は言う。


『お前の依頼書の相手を信用するならな。』

「依頼書?」

アーデスが儀礼を見る。

儀礼はモデストから届けられた手紙をアーデスに見せた。


「随分、古い形式の依頼文書だな。」

アーデスは呆れたような笑いでその手紙を見た。

「アナザーに知られたくなかったみたい。」

「なるほど。『蜃気楼』宛てに届いた手紙、な。これも黙ってたんですね。私達に。」

「う、……ごめんなさい。アーデス達はユートラスにいて、これ以上面倒かけたくなかったし、この手紙自体には危険性は感じなかったから。」

鋭い眼光で睨まれ、儀礼は頭を下げて謝った。


「とにかく。今度こそ、安全に白をドルエドに連れて行きたいんだ。それで、ドルエドに行って、本当に白が安全かも確かめたい。」

「あの子供が危険人物だという可能性はないのか?」

幼い子供でも、魔法使いなら、十分な実力を持っていることもある。

アーデスは眉間にしわを寄せながら儀礼に問いかけた。


「ないよ。」

にっこりと、儀礼は爽やかな笑みを浮かべた。

それは、疑いなど欠片も持たないというような、純真な笑顔。

「白、いい子だもん。」

儀礼は笑う。

小さな鳥が傷ついて、悲しんでいた少女。獅子や儀礼を心配そうに見る優しい瞳。

何より、精霊達に微笑む優しい表情。

白に危険など、儀礼は微塵も感じていなかった。


『その辺は大丈夫だと思う。むしろ、物を知らないお嬢様って感じだと思うな。』

アナザーも肯定を示した。

アーデスは儀礼を見る。


「子守を任されたようなものか。」

ポツリと、アーデスは呟いた。

「ねぇ、それ、僕のこと言ってない?」

アーデスの目線は思いっきり儀礼を捉えている。


「変わりはないかと。」

剣呑な気配はなりを潜めたが、アーデスは大きく溜息を吐いている。

「つまり、あの子供も含めて俺らに護衛をしろと言うんだな。」

「うん。だって、『蜃気楼』宛の依頼だよ。文句はないだろ?」

にっ、と笑って儀礼は依頼書をひらひらと振る。


「随分と図太くなりましたねぇ。」

呆れたような声でアーデスが言う。

「アーデスに似たから。」

くすくすと笑って儀礼は言う。

「育てた覚えありませんが。」

「たくさん面倒見てもらってるよ。」

にっこりと笑って、儀礼は感謝を微笑みに乗せる。


「分かりました。ギレイ様が受けた依頼ならば、協力しましょう。」

仕方なさそうにアーデスはまた、大きく息を吐いた。

しかし、その顔はすでに笑っている。

「また忙しくなりそうですね。」

ドルエドまでの道のりでの安全確保。ドルエドについてからの、少女の安全の確認。

依頼書の背景の確認。

『アナザー』を含めても少数のメンバーでそれをしなければならない。


「うん。頑張って。」

他人事のように笑って儀礼はひらひらと手を振る。

「頼りにしてるから。」

そう言った少年の顔は、いつもよりも少しだけ大人びた笑顔だった。

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