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ギレイの旅  作者: 千夜
14章
385/561

新しい武器

 シュリの意識はレンガに囲まれた空間から遺跡の中に戻っていた。

足の下ではアーデスが魔物と戦っている。最後に見た瞬間からたいして変わっていない。

今のは一瞬のできごとだったらしい。

目の前で、男の骨が粉になり、光るようにして消えた。


 シュリの手元で巨大なアックスが光る。

今まで使っていたよりずっと重い武器。

この遺跡を守っていた戦士の愛斧。

「今日から俺の武器だ。よろしくな。」

言って、シュリは思い出した。儀礼の言葉を。


『感謝を忘れないでね。』


 ここへ、連れてきてくれたアーデスに対しての言葉だと思っていた。だか、違った。

「長きにわたり遺跡を守った偉大な戦士よ。ありがとう。この武具ありがたく使わせてもらいます。」

シュリは頭を下げた。

防具を装備する。

ずっしりとして、まだ少し大きかったが、不思議なことに十分動くことができそうだった。

そして、新たな武器を持って、魔物の固まる中へとシュリは飛び込む。


 力を試すようにその斧を奮う。

重たい金属の塊がその重さを生かして敵をなぎ倒す。

今までに感じたことのない手応え。

重い一撃に耐える力が確かにシュリの身の内にあった。


 先の儀礼との戦いを思い出し、シュリは相手の動きの先を読む。

アーデスの動きが予測できる。

予測とほぼ重なるように動くので予測とはまだ呼べないかもしれないが、アーデスの動きを理解することができる。

邪魔にならずより効果的に自分の攻撃を当てていくことができたシュリ。


 有名な冒険者と共闘できる事実に驚愕する。

足元にも及ばなかった冒険者の足が見えた。


 2分。アーデスの宣言した時間が終わり、シュリとアーデスはバクラムの家に帰ってきた。

「お帰り~♪」

儀礼の陽気な声が室内に響く。


「蜃気楼! 凄い武器があった! Aランクの魔物が軽く切れるんだ。何だか力まで強くなった気がしたぞ。」

嬉しそうに、大きな声でシュリが言った。

儀礼が上に手を出したのでシュリはその手を叩き返す。


 バシンッ

強い音がした。

「いって~。シュリ、本当に力、強化されてるよ。その鎧かな? 加減してよ。」

痛そうに涙目で儀礼は手を振る。

「悪い。そうか、鎧か。凄いんだな。」

確かめるように、シュリは自分の装備する防具と武器を観察する。


 シュリに遅れて、アーデスが歩いてきた。

「何が行ってくれるパーティがいればだ。いるわけないだろ、ハルバーラの最下層に。あれを見せれば俺が行くと分かってたんだろう、ギレイ。」

アーデスの怒ったような声にギレイは硬直する。


 シュリの背後に隠れ、その背にしがみつく。

「おい、俺を盾にするなよ」

慌てたようにシュリが答える。

今、共に戦ってその強さを再確認した相手だ。


「大丈夫、この鎧ならアーデスの剣でも、死なない。」

涙を浮かべた目でシュリを見上げて、儀礼は洒落にならない冗談を言う。

「おい、蜃気楼! お前、Sランクなんだろ。」

シュリの言葉で儀礼はシュリの背中から手を放す。


「だって、アーデス怒ってるんだもん。僕なんか冒険者ランクDだよ。」

言いながらも儀礼はシュリの隣に立った。

「はっ? D? あれだけ動けてか、まさか。」

冗談だよな、とシュリは儀礼を見た。


「本当だよ。僕、ギルドの仕事しないから。」

言って、儀礼はアーデスに向き直る。いつの間にか怒りは消えている。むしろ呆れている感じだ。

「で、ギレイ様、私の報酬は?」

アーデスが言う。


 今の探索で手に入れたアイテムはシュリの物になっている。

儀礼は黙ってポケットから数枚の地図を取り出す。

「これは?」

アーデスが聞く。

「見ればアーデスならわかると思う。」

儀礼はそれだけ言う。


 アーデスはその紙を開き、しばらく黙る。

「なるほど。よく今まで黙ってましたね。」

楽しそうにアーデスが笑う。

「そりゃ、僕だって行きたいけど……行くなら自分の力で行きたいから。」

「だから隠してたと?」


「違うよ。それはアーデスが暴走した時用の保険だったんだけど。」

言いにくそうに、儀礼は声を落とす。


「暴走って、そんな紙切れでアーデスが止まるのか?」

冷や汗を流してシュリが言う。

「戦闘の暴走じゃないよ。アーデス、たまに研究者の顔になるから、怖いんだ。僕、解剖されたくない。」

儀礼は顔を青くして言う。


「それ、私の目の前で言う意味あるんですか?」

アーデスが冷たい目で見ていた。

「三枚目の端がお奨め。トラップに落ちたら帰ってこれない。」

指を三本立てて、儀礼は言う。


「帰ってくるなと?」

微笑んだままアーデスが闘気を練る。


「それなら渡さないよ。アーデスなら帰って来れるから奨めてるんだろ。失われた古代遺産が眠ってるかも。もし見つけたら見せてね。」

にこにこと期待を込めた瞳で儀礼は笑う。


 アーデスが頭の後ろをかいた。

「これって、私も被害者なんですかね……。」

ぽつりと言って、白い光と共に、アーデスが消えた。


「被害者って?」

儀礼が首を傾げる。

「人使いが荒いとか?」

また、こてんと、反対側に頭をかしげて悩む儀礼に、シュリは複雑な心境を味わっていた。

AAランクの冒険者『双璧』のアーデスを、操るように扱う少年を見て。

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