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ギレイの旅  作者: 千夜
13章
376/561

コーテル

 儀礼が神殿で一眠りしている間に、なんだかんだと言いながら、ディセードは剥製の男を解放する手続きを取ってくれたらしい。

かわりに、別の犯罪者をここに運び込むらしい。

もちろん、剥製の状態にして。

まるで新しい刑罰が作られたかのようだ……。


 その後は、一休みして回復したために、みんなで一緒に町の中に繰り出して都の祭りを楽しんだ。

たくさんの露店、混み合った人々、大勢の人が踊りながら練り歩くパレード。

中には、騎士の団体もいて、剣舞を披露していた。

全員の動きがきれいに揃っていて、戦いのためでない動きというのも、大切なのだと思わせる、圧巻な一幕だった。

全員の意思の疎通が図れているかのような、心が繋がっているかのような動き。

この騎士たちが都を、国王を守っている。

強い安心感と、説得力を持った演舞だった。


 かとおもえば、コミカルな動きで人々を笑わせる集団や、大道芸の一座。

いろいろな団体が次々と王都の町を練り歩く。

見ているだけで本当に楽しい時間だった。


 夜になる前に儀礼はディセードと共にコーテルへ向かった。

獅子や白たちはリーシャンと、都の祭りに毎年来ているというセンバート夫妻に任せた。

コーテルという町に興味があるのは、儀礼だけだったらしい。


「兄さん、なんで新年早々、休みにまで職場に行くのよ。」

リーシャンが呆れたように、ディセードにそう言っていた。

コーテルはディセードの職場でもあるらしい。


 コーテルには、他の町にはないような高い建物がたくさん並んでいた。

多くの町で、高くても3階建て、4階建ての石造りの建造物が最高とされているのに、ここ、コーテルには、10階を超える建物が当たり前のように幾つも並んでいる。

全ての建物が空を見上げるように高い。


「すごい。どうやって作ってるの? これで崩れないの?」

不思議そうに儀礼は建物の表面を撫でる。

「遺跡の技術を一部使ってるんだ。それでもまだ、完全に古代の技術を解読できたわけじゃないから、数年に一度大規模な修理や補助魔法をかける作業が必要なんだけどな。」

慣れた様子で、高いビルの間を歩きぬけるディセード。

なんだか、別世界の住人のようだ。


 数多くある建物の中で、儀礼は、ディセードが普段働いているという場所に案内してもらった。

そこも、10階建て以上の高い建物で、儀礼は入るのに少しではない緊張と興奮を隠せずにいた。


「まるで、現代に作られた遺跡みたいだ。」

浮かされたように儀礼は呟いた。

本物の遺跡にはまだ技術的に及ばないが、それでも、他の国や町にはない、遺跡の中と同じ様な技術と空間が、このコーテルという街にはあった。


「やっぱり、来てよかっただろ。お前なら、絶対気に入ると思った。本当なら、もっとゆっくりと見学させてやりたかったんだけどな。」

瞳を輝かせている儀礼を見て、ディセードは微笑む。

機械も、魔法も、遺跡もない田舎で育った儀礼にとっては、ここは夢の国のような所だろう。

研究者の顔をして、あちこちを見回している。

その瞳は段々と真剣さを増していって、次々にディセードに深い質問を投げかけてくる。


 ディセードも、ここに連れて来るからには、前もって、下準備はしておいた。

儀礼の疑問にはほとんどその場で答えられるように資料を入れた端末を手に持っている。

「で、お姫様はどこ?」

ディセードの職場のほとんどを案内し終えた頃、儀礼が、真剣な様子でそう質問した。


「お姫様?」

眉をひそめて、分からないといった様子でディセードは答える。

「ごまかしてもダメだよ。ディーがコーテルにいるなら、あの時、ユートラスの女性兵士を引き込んだのは、ディーの仲間か、ディセード自身。そういうことになるよね。」

真剣な声が、人のいないビルの空間に響く。


「……無事でいるよ。残念ながら今のところ、伝えた以上に役に立つ情報はない。実際の俺とは無関係の奴らが保護してるんだ。俺ではなく、『アナザー』の関係者だ。」

周囲を警戒したように、声を潜めてディセードは儀礼へと向き合う。

「ここにも盗聴器はあるんだ。監視カメラも。」

ふぅと息を吐いて、周囲を見回して儀礼は苦い笑いを浮かべる。


「どこで誰が聞いてるかもわからないって、本当だね。この国では。機械も魔法も。すごい技術もあれば、怖くなることもある。」

大きく両手を伸ばして、儀礼は深呼吸するように伸びをした。

その左腕では、銀色の腕輪に付いた透明な石が、赤く光り、消え、緑に光り、消え、新年の花火のように次々と光をたたえては消えていく。


「やっぱり、どこからか、『蜃気楼おまえ』が来るって情報が漏れたんだな。許可を取っただけでも、十分、漏洩の状況になっちまうから仕方ないんだが。」

ディセードは僅かな魔力を駆使して、周囲に小さな結界を張った。

それで、儀礼の腕に起こる小さな花火は一応の、落ち着きを見せた。


「お前なら、どうする? 古代の技術を手に入れたとしたら、どう使う?」

純粋な興味から、ディセードは儀礼へと質問する。

「ものによるよ。僕にとっては手に入れる技術よりも、どうやってその技術を手に入れるかの方が興味あるんだけどさ。遺跡の中に入って、誰も踏み入れてない場所に入って、まだ誰も解明してないなぞを解いて、トラップを解体して、……。」


 瞳を輝かせたまま、儀礼の話は止まらなくなった。


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