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ギレイの旅  作者: 千夜
13章
370/561

撃退

「すみません、今の暮らしが気に入ってるんです。貴方に付いていくつもりはありません」


 言いながら、儀礼は反撃の手を考える。

 最初に張り切って色々と武器を使いすぎてしまった。

 戦い終わった今は使える手持ちが少な過ぎる。


『ギレイ、どうした。そいつ、何者だ』


 通信機イヤリングから、ディセードの警戒した声が聞こえる。

 儀礼は声ではなく、白い手袋に付いたキーで返答する。


 儀礼:“『シャーロット』を捕まえに来た人みたい。シャーロットについて、何種類かの命令が出てるって言ってたよね。”


『ああ。殺せってのと、捕まえろってのと、守れってのだな。そのうち国家で動いてるのを確認できたのはユートラスの殺せって命令だ』


 ディセードが答える。


 儀礼:“この人は、『捕まえろ』って命令の下に来たみたいだよ。外見はアルバドリスク人。でも、しゃべってるのは、フェードの言葉だね。ここがフェードだからかもしれないけど。”


「ギレイっ!!」


 その時、よく知った叫び声と共に、儀礼の前に友人たちが現れた。

 移転魔法の使えるマフレ、蒼刃剣を構えたヒガ。

 そして、砂神の剣の剣先を敵対する男に向けた、『砂神の勇者』、クリーム・ゼラード。


「あ、クリーム」


 仲間達の登場に、儀礼は障壁を解く。

 フィオの炎の障壁で怪我をさせたりしたら、申し訳ない。

 それに、トーラの障壁があっては、合流することもできない。

 とりあえず、正直立っているのもだるいので、儀礼は一番近くにいたクリームに抱きつく。


「あの人、魔法使い。強いよ。みんなは、何で来たの?」

「昨日からいたんだよ」


 クリームたちは、影の方で儀礼たちの作戦に加わっていたのだ。

 獅子は気付いていたようだが、人手が多いことに越したことはない状況だったので黙っていたのだろう。

 さらに、今は儀礼の危機と察知したディセードが『アナザー』としてクリームたちを派遣した。


「と、言うか、あたしは昨日……もう一昨日か、あの黒獅子との鬼ごっこから、そのまま残って周囲を見張ってた。あれだけ不審者がいたんだ。放っておくわけにいかないだろう」


 幾分、機嫌の悪い様子でクリームは答える。


「もしかして、徹夜? 大丈夫?」


 心配そうに儀礼は問いかける。


「今のお前に心配されたくない! 少しぐらい、頼れ」


 儀礼の襟元を掴んで、クリームは言う。

 その襟元がドレスなのだが……。


「いや、この格好は人に見られたくないんだよ」


 目に涙を浮かべて、儀礼はクリームに訴えた。

 その乱れたドレスと、涙の浮いた瞳を直視できずにクリームは視線を逸らした。

 そして、自分のマントを儀礼に羽織らせる。


 二人が会話している間にヒガとマフレは魔法使いの男と戦闘を行っていた。

 力は相手の方が不利のように見える。

 魔法を放つ隙を与えずに、ヒガが次々と攻撃を仕掛け、マフレが魔法で捕らえるための障壁を作り出している。


「くっ、仲間がいるとは。……ここは一旦引かせてもらう。だが、主は諦めないぞ。必ずお前を捕まえるからな」


 そう言い残して、男は白い魔法陣の中に消えていった。


「あと一歩のところで」


 悔しそうにマフレが唇を噛む。

 もう少しで捕まえられるところだったらしい。


「無事か?」


 平坦な言葉で、ヒガは言う。

 言葉自体は儀礼に向けられているようだ。

 その視線は、男が消えていった魔法陣のあった地面を見つめている。


「ユートラスの人ではないですよね」


 確認するように儀礼はヒガに問う。


「ああ。魔法の使い方が違った。何より、瞳が一度も光らなかっただろう」

「サイボーグでは、なかったですね。でも、ユートラスには、それ以外にも魔法使いはいるでしょう」


 ヒガは儀礼に向き直る。


「あの程度の魔法使いなら、単独行動はしない。偶然見つけたターゲットだとしても、まずは上に報告するはずだ。今の男は、どこかに連絡した様子がない」

「うん。魔法での通信もなかった」


 肯定するようにマフレも頷く。


「何者なんでしょうね……」


 クリームの肩にだるそうに頭を乗せて、儀礼は昇り始めた太陽の光を見つめた。


「あんたもね、何て格好してるのよ」

「僕の趣味ではありません」

「そうじゃなくて――」


 マフレは儀礼のドレスを指差す。

 魔法使いの男の攻撃で、ドレスはボロボロに破れてしまっていた。

 ぐったりとした儀礼の姿、引き裂かれたドレス、余りにも無残な姿である。


「あー、本当だ」


 ようやく自分の姿に気付き、儀礼ははぁ、と深い溜息を吐く。

 ぱさりとそれを脱ぎ去れば、下には長袖のシャツに短パンという普通の服装。

 もともと、仕事が終わればすぐに脱ぐつもりでいたのだ。


「あーあ、借り物だったのに」


 ポツリと呟いた儀礼の言葉に、全身傷だらけの少年を前に、そこじゃないだろうと、三人が呆れた顔をした。


『ギレイ、無事か?』


 通信機から、ディセードの心配した声が聞こえてきた。


「う~、だるい。血を持ってかれた。吸血植物って何? あるの?」


 儀礼の知る通常の植物にはそんな種類はない。

 あれはやはり、魔法による特別なものなのだろうか。

 取られた血液は何かに利用されたりするものだろうか。

 儀礼には分からない不安が多くある。


『吸血植物!? そんな生き物がいるか! 多分、大地と闇魔法をあわせて使ったんだな。って、ことはかなり上級の魔法使いだぞ』


 ほんの少しの時間、考えているように黙ったディセードだが、すぐに答えてくれた。


「あ、自分で、格が上だとか言ってた」

「あの程度の力で」


 ふっ、とヒガが笑ったような気がした。


「取られた血液ってどうなるの?」

『たいていは相手の魔力に吸収される。利用されることはないから安心しろ』


 ディセードの言葉に儀礼は安堵の息を吐く。


「アルバドリスク……。そこにも敵がいるのかな……」


 深く考える様に儀礼は言う。

 母の故郷であり、白の故郷でもあるアルバドリスクという国。

 だからこそ、二人は逃げてきたのだろうか。


「考えるのもいいがな、ギレイ」


 深刻な表情をしている儀礼に、クリームが口を挟む。


「とりあえず、その格好を何とかしてからにしたらどうだ?」


 破れたドレスは脱いだとはいえ、儀礼の服装は寒そうな格好、見えている手首や足首からは血が流れ、全身にあざなどができているだろう事がうかがえる。

 そんな姿で、道の真ん中で考え込んでいる儀礼に、クリームたちは完全に呆れていた。

2019/1/30、修正しました。

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