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ギレイの旅  作者: 千夜
13章
369/561

もう一人の襲撃者

 それから、数箇所で同じ様な囮作戦を実行して、次々と犯人たちを挙げていった。

最初と同じてつを踏まないように、儀礼にはあらかじめ中和薬を飲ませておいた。

本人は、あれはあくまでも正気だったと言い張るのだが、信じる者はいなかった。


 その晩のうちに、犯人たちのほとんどは捕らえられた。

次々と犯人を増やしていた大元の薬工場も『アナザー』による破壊工作で検挙された。

これで、依頼は達成ということになるだろう。

残りは町の警備隊に頑張ってもらうことになる。


「終わったぁ。」

儀礼は大きく息を吐く。

一晩中、歩き続けていたので、ちょっとではなくかなり疲れていた。

それも、慣れないドレス姿で、だ。

悲しくなってくる。


 あと1時間もすれば陽が出てくることだろう。

「もう明るくなるし、解散にしちゃっていいよね。利香ちゃんたちが心配だし。」

疲れたように儀礼は言う。

「結局、みんなディセードの家に来ちゃったね。」

くすくすと笑うように儀礼は言う。

利香と白はディセードの家で眠っているはずだ。

最初は獅子達が出かけることに不満げだったマッシャー家の人間も、仕事だといえば、それ以上何も言わなくなった。


 リーシャンはディセードと一緒に色々と指示を出してきたので、まだ起きているだろう。

それにしてもリーシャンは、「もっと女らしく歩きなさい」とか、「色気を出せ」、とか、無茶なことを言ってくれた。

後で、文句の一つも言っておきたい。


「じゃぁ、俺は先に帰るな。」

「俺も帰るか。」

獅子と拓が大きく伸びをして、体をほぐすと、軽く一っ飛びで走り去っていく。

「先に帰ってて、僕、走る元気ない。」

バイバイ、とゆっくりと手を振って、儀礼は疲れた様子でとぼとぼと歩き出す。

帰ったら絶対ゆっくりと眠ろう。そう、心に決めて、儀礼はディセードの家を目指す。


 その時、何か異様な気配があたりに漂った気がした。

ほんの一瞬で、気のせいと思えるような空気の歪み。

しかし、儀礼の腕輪は確かに白く、次に緑に輝いていた。

「何か……来た?」

不安げに周囲に視線を配りながら、儀礼は息を殺す。

見た限りに、周りには誰もいない。


 気配で探査しても、儀礼の探査にかかる者はない。

「朝月。」

その精霊に頼んで、周囲を探ってもらおうとした時だった。

地面の下から、急に何かの植物が生え出てきて、儀礼の手足に絡みついた。

「うわっ、何だこれ。朝月、地面の下だ!」


 朝月に地面の下を探ってもらうが、その下には何もない。ただの地面があるだけだった。

どこからこの植物が生えてきたのかすら分からない。

「……魔法か。」

ぎりっ、と歯軋りをして儀礼は周囲に気を配る。

もう一度、今度は周囲の半径を広くして、朝月に探索をしてもらう。

今度こそ、捉えた。

黒いローブに身を包んだ、不審な者。男か女かすら、分からないが、背の高さから、男ではないかと思われる。


 捕まえようと、その男に意識を伸ばそうとすれば、手足に絡まっていた植物がより強い力で締め上げてきた。

「痛ぇ。これを先に外さないとっ。」

針金を刃物のように鋭くさせて、植物を切り裂くが、すぐに次の芽が生えてきて、儀礼の手足は捉われる。

そして、相手も、儀礼を逃がすまいとするかのように、その植物の量を増やしてきた。

全身を覆うような大量の植物のつたに、球体のように儀礼の体は覆われていく。


「なんだこれ、まずい。」

次々に切り刻むが間に合わない。

動こうともがけば手足をきつく締め上げて、血が止まっていく。

いや、強い痛みに気付けば、手や足から、この植物は儀礼の血を吸い始めた。

血の気を奪われれば、動くことすら困難になる。


「本気でやばいぞ。なんだ、こいつ。くそっ。どうする。植物……そうだ、フィオっ!!」

拓と戦った時の、フィオの障壁を思い出して、儀礼はその精霊の名を叫ぶ。

たちまち、業火と共に、植物のつたは消し炭となった。

間をおかずに、儀礼は次の精霊の名を呼ぶ。

「トーラ!」

それで、儀礼の周りには紫色の結界が出来上がり、何者も、手を出すことができない。


「くそぅ。結構、血、もってかれた。」

くらくらとする頭で、儀礼は状況を考える。

朝月の見せる敵の姿は、魔法が効かなくなった事に気付いたらしく、儀礼のそばへと寄ってくるところだった。

すぐに、儀礼の肉眼で確認できる位置にまで、正体不明の敵がやってきていた。

夜の間、相手をしていた、薬を使った暴行犯たちではない。

魔法を使えることを考えても、もっと、ずっと強い人間だった。


「……何の用ですか。」

声の聞こえる範囲にまで相手が近付いてきたので、威嚇の意味も込めて、儀礼は問いかける。

「やっと見つけた。シャーロットだな。こんな所で発見できるとは、本当に幸運だ。」

黒いフードの下、男の口元は大きく笑った気がした。

『シャーロット』それを探している、ユートラスの敵は足止めできているはずではなかったのか。

ディセードは確かに、そう言っていたはずだ。


「安心しろ。殺すつもりはない。主の命令どおり。捕らえて、連れ帰る。おとなしくしていれば、怪我をさせるつもりもない。魔法が使えることは分かっている。無駄な抵抗はやめるんだな。俺の方が魔法使いとしては格が上だ。精霊に頼まなければ魔法が使えないんだろう。」

ニヤリと、男は笑う。

男は、少しずつ距離を縮めながら様々なことをしゃべってくれる。

ちょっと、親切な人、などと、儀礼は思ってしまった。


「さっきの魔法でかなり血を奪った。立っているだけでも辛いはずだ。おとなしく付いてくれば、楽な暮らしをさせてもらえる。さぁ、俺と一緒に来てもらおうか。」

男は腕を伸ばして、儀礼に近寄る。

しかし、トーラとフィオの障壁により、その腕は儀礼へは届かない。


(『楽な暮らし。』『殺すつもりはない。』、この人、ユートラスの兵士じゃないのか?)

相手を確認するように、儀礼は目を凝らす。

その時、強い北風が吹いた。

冷たい強風。

男の黒いフードが風で吹き飛んだ。

現れたのは、金色の髪に、水色の瞳。

ユートラスではなく、アルバドリスクの特徴を備えた男だった。

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