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ギレイの旅  作者: 千夜
12章
352/561

ルール破り

 獅子たちの敷地内での鬼ごっこは、一時間ほど続けられていた。

それが、敷地外へと移った頃、ようやく儀礼はそのマップの異変に気付いた。

「ねぇ、ディセード。クリームたち、敷地から出ちゃってるんだけど。」

困ったような表情を浮かべて儀礼はディセードへと話し掛ける。

「本当だな。心当たりは?」


 そ知らぬふりでディセードは問いかける。

『アナザー』として自身がそのメンバーに敵の排除を依頼しているというのに。


「う~ん、獅子が本気で怒ったとか。」

首を捻りながら、冗談半分に儀礼は答える。

獅子が怒ったために、手が付けられなくなり、敷地外へと皆が避難したと。

ありえない話だ。

本当に獅子が怒っていたとしたら、逃げ出すのは儀礼の方だろう。


「ちょっと、様子見てくるかな。」

リーシャンと白がテーブルを離れて甘味に夢中になっている間に、と儀礼はそっと席を立つ。

「お前が一人でうろちょろするのは勧められないんだが……。」

ディセードが咎めるように言う。

「大丈夫。ちゃんと装備は万全。」

アナスター家で用意されていたスーツを着込んだ儀礼は、白衣の時とそう変わらない装備を身につけていた。

そして今日着ているのは、『蜃気楼』を連想させる白ではなく、瞳の色に合わせた薄茶色。


「いや、迷子扱いされるだろう。」

「誰が迷子だ。」

不満そうに儀礼は頬を膨らませる。

その態度が子供だと言われているのだが、本人に気付いた様子はない。


 結局、ディセードと二人で少しだけ外の様子を探ることになった。

「便利だね、『アナザー』って。」

「その名を出すなって。」

小さな声で返すディセードに儀礼は口を押さえる。

ディセードの出した小さな端末と、儀礼の持ってきたノートパソコンで、この屋敷の敷地内に仕掛けられたカメラの映像が見たい放題だった。


「あっ、今、獅子がいた。」

画面の中を一瞬動いた黒い影を指して儀礼が言う。

ディセードには黒い影にしか見えなかった。

「よく見えたな。」

「獅子は気配消してないから、闘気の位置と同じ場所。」

当然のことのように儀礼は答える。


「お前らのセンサーは機械以上だよ。何だよ闘気やら、気配で分かるって。」

感心しているのか、呆れているのか、ため息を吐きながらディセードは端末を操る。

「獅子、何か追ってるね。それと、最初に敷地の外に出てったのはランジェシカみたいだ。」

マップのオレンジ色の光を見て儀礼が考え込むように呟く。

「青は動いてないな。」

「青はヒガさん。ヒガさんの気配は獅子も知ってるから、近付かないようにしてるのかな。まぁ、お互い何もなかったわけでもないし。」

二人は殺し合った者同士だ。いきなり仲良くなれと言っても、難しいものだろう。


「あれ、クリームが獅子を追ってる。何で?」

茶色い光の動きを見て、儀礼は首を傾げる。

「俺が知るかよ。黄色は誰だ?」

「トウイって、男の子。この間靴を作ってあげたから。」

「ついでに発信機も仕掛けたと。お前、人に物やるついでに発信機つける癖、やめろ。趣味が悪いぞ。」

カタカタと、敷地内の映像を映し出す画面をキーで操りながらディセードが言う。


「うわー、今のディーに言われたくないなぁ。」

モニターの画面には、獅子たち全員の姿が、それぞれ別のカメラから捕捉されていた。

その人物をプログラムから割り出し、自動でカメラが切り替わって人物を追っている。

映し出されているのは、獅子とデザートのメンバー5人。


 ひときわ目立つのは、鮮やかなオレンジ色の髪をしたランジェシカの、周り。

黒い人だかりができている。

気絶した黒服の集団だ。

『集めた。』

ランジェシカの口が、そんな言葉を発したように動いた。

おそらく、魔法で誰かに音を伝えたのだろう。


『集めたって、お前今どこだ、ラン?』

答えたのはクリームだった。

そして、獅子を追っていたのとは違う方向へと走り始める。


 儀礼たちには音は聞こえない。口の動きから儀礼は言葉を読み取っていた。

「お前、……本気で冒険者ランクDじゃないだろ。」

苦笑いのようなものを浮かべて、ディセードは儀礼を見る。


「Dランクだよ。ライセンス見る?」

首を傾げ、きょとんとした顔で儀礼は言う。

「俺はもう、ライセンスだけの情報は信用しねぇ。」

頬を引きつらせて、ディセードは世の中の情報の捻じ曲がり具合を考慮に加える。


 しばらくすると、ランジェシカのいる場所に獅子とクリームと、もう一人、派手なドレスを着た女性が集まってきた。

その女性に、儀礼は見覚えがない。

しかし、その身のこなしから、クリームたちの仲間であろうことが理解できた。

「派手な人だね。」

その女性の姿に、思わず儀礼の口から言葉が漏れた。

女性らしいボディライン。目立つ大きな胸元、ちらつく長い足。


「クリーム・ゼラードの元いた暗殺組織のメンバーで、今は『砂神の勇者クリーム』が拾った。名前は『マリアン』だ。」

プロフィールの詳細を画面に表示させてディセードが説明する。

「目立ちそうなのに、やっぱり影にいたんだね。」

「逆に、潜入は得意分野だ。相手の懐にもぐりこむ。男のな。」

「怖いねぇ……。」

どこか、遠くの空を眺めて儀礼は呟いた。

誰がいくつのルールを破っているのか。

もう分からない。


誤字修正しました。

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