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ギレイの旅  作者: 千夜
12章
339/561

武闘大会4

 オオカミ姿の少年は獅子に詰め寄る。

右手、左手、回し蹴りと軽快に攻め込むオオカミの攻撃を、獅子は軽く、右に左にとかわしていく。

今度は獅子の攻める番となる。

一撃、二撃と軽い手ごたえではあるが、確実に獅子の攻撃は決まっていく。

荒い息を大きく吐いて、苦しそうにオオカミ少年はそれでもかわす。

舞台のふちに来たところで、ひときわ高くオオカミ少年は飛び上がった。


「オオカミってよりキツネだな。」

その戦法を見ていた拓が呟く。

白は拓の言う意味が分からずに首を傾げた。

しかし、結果はすぐにわかることになった。

上空へと飛び上がったオオカミに獅子は同じ様に飛び上がって拳を振るった。

その拳の動きを利用してオオカミは逆側へ、つまり、舞台の方へと空中回転する。

オオカミは獅子を場外へと誘い出しにかかったのだ。


 それからオオカミは、獅子の背後に回って、獅子の背中へと体重を乗せた蹴りを放った。

危うく獅子は舞台の下へと落ちるところだった。

もう少し、オオカミ少年の力が強かったならば。

オオカミの全体重を乗せたケリは獅子を吹き飛ばすには至らなかった。

かわりに、その足を取られ、空中で位置を入れ替えられ、オオカミは腹部に強い一撃をもらって場外へと叩き落されたのだった。


「勝者、シシ選手!」

審判が高らかに告げた。

『いててて……。』

地面へと落ちたオオカミは痛みに呻く。

体中が傷だらけだった。

すぐに大会側の魔法使いが駆け寄ってきて、敗者となったオオカミの手当てをしてくれた。

元気になったオオカミはまた、勢いよく舞台の上へと舞い戻る。


「お前、なかなか強い奴だな。」

「ワン!」

うれしそうに、オオカミの口元が笑う。楽しんでいるかのように。


「優勝者は、シシ選手~!」

再び審判が高らかに獅子の名を告げた。

会場が拍手と声援に大きく揺れた。


 それから表彰式が行われた。

入賞した者が順に賞品のお守りという物をもらっていく。

順位が高いほどよい効果が出ると言われているらしい。

3位に白。

2位がオオカミ。

そして、1位の獅子に花束が手渡される。

相手は可愛らしい女の子だった。この町の町長の娘か何からしい。


「優勝おめでとう。かっこよかったわ。」

その見目に自信のあふれる様子の少女は、うっとりとした表情を浮かべてそう言うと、獅子の頬に唇を近付けた。

「いやっ。」

客席から利香の悲鳴が小さく漏れる。


「ワン!」

少女の唇が付いた先は割り込むように入ってきた。黒い犬耳のニットの帽子の上だった。

オオカミは口元だけで、くすくすと笑う。

そのまま、オオカミはその少女を抱き上げ、会場から連れ去ってしまった。

後を追うように、白い光が客席から飛んで行ったのを大勢の観客が呆然と見送っていた。


「彼には決まった人がいるから。」

会場から離れた場所でオオカミは少女を下ろし、小さな声で囁いた。

少女の顔が赤く染まる。

「あげる。」

オオカミは、準優勝の賞品であるお守りを少女へと手渡す。

幸運が訪れると言われているその品を。

「僕には必要ないから。」

口元を大きく半円に曲げ、オオカミは嬉しそうに笑っていた。



 儀礼は車の中で眠っていた。

ずっとそこにいたかのように幸せそうに熟睡している。

「おいっ、起きろ!」

ガンと蹴りを入れ獅子は儀礼を叩き起こす。

「いたい。」

眠そうに目を擦りながら儀礼は言った。


「応援ぐらいしろよ。」

「どうせ優勝だろ。勝つのが決まってる試合なんて、見ても面白くないよ。」

不満そうに儀礼は言う。

「ほら、優勝賞品だ。」

手に入れた優勝の証を獅子は儀礼に見せ付ける。

「だから獅子の相手になる奴なんていないって、言ったろ。」

「いたぞ。面白い奴がな。すぐにいなくなっちまったんだけどな。」


「そんな奴がいたの? ふーん。」

どこか楽しそうに儀礼は笑う。

「俺の方が強かったけどな。」

「当たり前だろう。」

楽しそうに儀礼は笑う。


 その大会で優勝した獅子は、隣りの町の大きな屋敷へと招待されていた。

「ぜひ祝宴会を我が家で行わせて欲しい」、と貴族らしい男に言われたのだ。

普通は優勝者の家が行うのだが、獅子は旅人だ。(家出人とも言える。)

シエンは遠い。

熱心に誘われて、獅子達はマッシャーというその貴族の家で開くパーティーに招かれることになった。


***********


「武闘大会の優勝者が『黒獅子』ですって。」

情報元である小さな端末を手元に、黒髪に緑の瞳の若い女性が、少し不満げな様子でそう言った。

「だろうな。何か問題でもあるのか?」

答えた青年の髪色も黒で、瞳の色も緑色だ。

知的な雰囲気の漂う二人は容姿も少し似ていて、兄妹であることが伺える。

「マッシャー家の連中が屋敷に招いたらしいわ。きっとそのまま新年のパーティーまで捉まえておくつもりよ。嫌だわ。また偉そうにあの女に、自慢話を聞かされるのは。」

長い髪を耳にかければ、赤い耳飾りが現れて小さく揺れた。


「黒獅子に関してはどうしようもないが、一緒に居るはずの『蜃気楼』だけならうちに呼び込める手があるぞ。」

意味深に男は笑う。

「本当!?」

嬉しそうに女性は兄に詰め寄った。

『黒獅子』は確かに有名であるが、ランクだけで言うならば、断然Sランクの『蜃気楼』の方が格上だ。


「ああ、だがそれなりに覚悟をしてもらう必要があるがな。」

「かくご?」

女性は首を傾げる。

「どこまでやるか、だけどな。」

「何でもやるわよ。」

よほどそのマッシャー家の娘と仲が悪いのか、妹の方は戦いにでも行きそうな勢いである。


「少しばかり恥ずかしい思いをすると思うが、……。」

「いいわよ。それで世界の注目の的、『蜃気楼』を呼び込めるって言うなら。」

強気で女性は青年へと言い返す。

「なら、準備が必要だな。こんな衣装を用意してもらいたい。」

にっこりと笑う黒髪の青年。

「まかせて、冒険者ランクCはだてじゃないわ。これ位お安い御用よ。」

二人の会話はそれで終わった。

後は楽しげな瞳で計画の成功を確信し合うだけであった。


***************

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