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ギレイの旅  作者: 千夜
12章
330/561

ディセードの気付いた事実

「誰だよ、こいつ育てたの。レイイチ・マドイとかいうやつか? こないだまで、『あなうさぎさんはどんなウサギさんですか?』とか言ってたんだぞ……。」

専門用語を繰り出すギレイに対し、そこまで言ってディセードは、はたと気付いた。

「ん?」

そう、ギレイは出会った時に、フェードの言葉が余り分からず、ディセードに本当のウサギとして話しかけてきた5歳児だ。

「……まさか。育てたの俺か?」


 5歳の少年が、たった10日間足らずで、専門用語を使い始めた。

もともと、ある程度の知識はあったのだろうとは思う。

しかし、それはドルエドの言葉で、遺跡や古代の解明に関しては、フェードの方が進んでいる。

本や情報も大量にあった。

調べようと思えばディセードには、いくらでも調べられる。

そして、ここが重要なのだが、現代の文明レベルは古代の文明に遠く及ばない。

つまり、古代の文明を知り尽くしてしまえば、現代の文明など、簡単に支配できるのだ。

遺跡を解析した者勝ち。


 今さらながら、数々の研究者たちが同時に、有名な冒険者である事実を思い知る。

しかし、何も危険な遺跡に入る必要はない。

そのマップや、トラップや、記されている文章を見ることができればいいわけだ。

それが正当な方法ではなくとも。


 その事実に気付いた瞬間、ディセードは今までにない興奮を覚えた。

突然、視界の開けたような、自分が全ての世界に通じているような不思議な感覚。

ディセードは、第3の目が開くと言う感覚を味わった賢者の話を思い出す。

自分の額に手を当ててみて、異変のないことに苦笑する。

そんなものがあるはずがないのだ。


それなのに、何かすっきりとした気分だった。

世界の中に自分がいて、自分はその一部で、そして、世界の全てに触れられる。

そんな、大それたことを考える。


「子供の特権ってやつだよな。」

数ヶ月前に、成人と呼ばれる15歳になってはいたが、まだ権利の守られる学生の身分だ。

ディセードは笑う。

「次は『迷宮探索論』だったか? それ読んだら春休みも終わりか。残念だな。」

残念だと、思う自分にディセードは笑った。

嬉しいのだ。


 情報専門の上級クラスに行けなくとも、ネットの世界から締め出されるわけではない。

そこへ行くのは、国のために働く技術を身につけるためだ。働くためのスキルや資格を。

それがなくても、自分のために調べることはできる。

国家レベルの人たちから、追われたりしなければ逃げられる。(←おーい)

好きなことは続けられるんだと、また、いくつものパソコンを操作して、ディセードは情報の波を泳ぎ回った。


 入学式の直前、春休みの課題の提出日にディセードは4つのレポートを提出した。

1つは最初に終わらせてあった無難なもの。

2つ目は「古代文明」についての考察。

3つ目は「迷宮探索論」についての考察。

4つ目は『管理局のシステムの構成』。


 ギレイに言われていろいろな事を検索するうちに、ディセードが、その管理局の管理するデータにアクセスする機会が何度も出てきた。

もちろん、ディセードが触れたのはあくまでも、自分にアクセス許可のある範囲内だけだ。

この歳で犯罪者呼ばわりはされたくない。

どこから発見されて家に警備兵が訪れるか分かったものではないのだから。


 しかし、実際に触れてみればその管理局のシステムには幾つもの穴があった。

入ろうと思えば、ディセードでも入れる。

もちろん、それがトラップである可能性はあり、入ってきた者を片っ端から捕らえる仕組みが待ち受けていると考えられなくもない。

しかし、それにしては中学卒業したばかりの子供に発見される「侵入経路あな」がいくつもあるのは問題だと思えた。

事実、確実に侵入できる経路をディセードは幾つか発見してしまっていたのだ。

そういうものをディセードは文章として纏め上げてレポートを作り上げた。


 課題のついでとして、ディセードはそれら残りの3つも、教師に渡した。

「点数は、いらないんで、せっかく作ったんで見てもらえますか。」


 その翌日、教師がディセードの元に4つ目のレポートを返しに来た。

「これは受け取れない。」

初め、ディセードは、そのレポートがひど過ぎるという意味かと、思った。

下手をすれば犯罪に関わっていると思われたのかもしれないとも。

しかし。

「これは君のものだ。」

教師はそう言った。

「今日、上級情報科コースに一人欠員が出た。よかったら、そっちに来ないか?」

と、その教師は告げた。


 そして入学式の日、ディセードは上級の情報科クラスの中に並んでいた。

「ディセード。普通科に進学したんじゃなかったのか?」

驚いた顔をした情報科の友人達。

「あ、ああ。ぎりぎりで欠員が出て。」

気まずいような思いがして、小さな声でディセードは言う。


「待ってた。お前なら、絶対来ると思ってた!」

バシンと、ディセードは背中を叩かれた。

嬉しそうに語る友人たちがディセードにはとても、印象的だった。

あざ笑うものなど、初めから一人もいなかったに違いない。

ディセードを笑っていたのは、ふがいない自分自身だけだったようだ。


 ついでに言うと、上級クラスに空席など存在していなかった。

あったのは追加された一つの席。

ディセードは文字通り、自分の席を学校側から勝ち取ったのだった。

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