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ギレイの旅  作者: 千夜
12章
326/561

砂漠の本拠地

 儀礼が案内されたのは、砂漠の中に建つ、城のような壊れかけた巨大な屋敷だった。

「ここが、今のあたしたちの本部だ。人里からは、離れている。襲われても周囲に迷惑はかからないだろ。」

笑うようにクリームが言った。

「襲わせないけどね。」

真剣な儀礼の言葉に、意外そうにクリームはその顔を眺める。

「マフレに聞いたよ。ここ、クリームの家だったんでしょ。子供の頃の。壊させたりなんてしないから。」

にっこりとわらって、儀礼は言う。

「いや、半壊してるのは、あたしの父が『砂神の剣』を振り回した時の物なんだけどな……。」

苦笑のような、ためらう口調でクリームは言った。

「機嫌が悪くなると家に当たっていたらしい。修練場だった方はもっと砂漠すなだらけだぞ。」

くすくすと、どこか楽しそうにクリームは笑った。

それは、否定しているのではなく、クリームにとっては、思い出した大切な記憶なのだろう。


 それから、儀礼はクリームに案内されて、殺人鬼ではなくなった男の元を訪れた。

「あの、蒼刃剣について、何か『いわれ』みたいなものって、聞いたことないですか?」

背の高い、頬のこけた男に儀礼は問いかける。

「二振りが双剣ではないとは聞いたが、詳しいことまでは知らんな。父も智に高い人間ではなかった。」

思い出す様に眉間にしわを作りながら、ヒガは言う。

「ああ、一対いっついであると言っていた気がする。ついは対応する、呼応すると言う意味がある、と。俺が使っていたのは、『早く俺と同じほどに強くなれ』と父に渡された剣だった。」

つい。」

考えるように儀礼は口元に拳を当てる。

剣の中に隠されたように仕込まれた魔法陣が、対になり呼応するものなのだとしたら、二本の蒼刃剣を揃え、陣を発動させた時に、何かが起こる。

いや、「何か」はもう、確定している。

そしてその奇跡はすでに一度、ヒガの目の前で起こっていることだった。


「その、お父さんの方の蒼刃剣の資料を、魔法陣に詳しい人に見せてもいいですか?」

真剣な顔で、儀礼はヒガへと問う。

ヒガに渡す前に、儀礼は父親の方の蒼刃剣も解析装置にかけた。

その時に確かに、欠けた魔法陣の形が現れたのだが、それは、ヒガの使っていた蒼刃剣の陣とは、少し違うように思えた。

二つの剣が対であるなら、二種類の魔法陣も対である可能性が高く、その二つの欠けた魔法陣を組み合わせてできる魔法陣の結果は、……出ている。


「あの、急いでないんで答えは今度でもいいです。せっかく来たのでクリーム、この本部の中見学してもいい?」

にっこりと笑って、儀礼は歩き出した。

(出来上がる魔法陣の結果は死者を蘇らせるもの? それともただ操るもの? それは、完成させていいものなのか……僕にはわからない。)

考えた結果は、あまりにも途方もない古代の技術だった。

なので、儀礼は問題を先送りすることにした。

それをユートラスが狙っていて、半分成功させていることも事実なので、あまり引き伸ばすことはできないが、少なくとも、もう一本の蒼刃剣を修復させるまでは、ユートラスも手を出そしてくる気がないのではいか、と儀礼には思えた。

古代の剣を作り出す技術はまだ、現代には蘇っていない。


「ヒガさん、もうしばらく影での行動でもいい?」

歩き出そうとして、儀礼は振り返ってヒガに確認した。

ヒガの居場所がユートラスにばれるのは、あまりいい状況ではない。

このクリームたちの組織がヒガの隠れ蓑となり、ヒガの力は組織の力として発揮される。

「かまわん。必要な時には言え。」

蒼刃剣を示して、全てを読み取ったかのようにヒガはそう答えた。


 クリームたちが本部として構えた場所は、本当に砂漠のような地帯にある。

周囲に他の建物はなく、この大きな建物が唯一の建造物で、目印のようだった。

あまり遠くに行き過ぎたら野垂れ死にそうな広さの砂漠だ。

とはいえ、所々に草木が生えているので、本当に死ぬことはないだろう。

「昔は、ここまで砂に埋もれちゃいなかったんだがな。何年も放っといたからこうなったんだろう。周囲の砂の半分位は父が作り出したものだ」

呆れたような口調でクリームは言った。

「訓練だとか言ってな。それをあたしはじっと見てたんだ。」

懐かしいものを見ているようにクリームは砂の山を見る。


 次に案内されたのは、修練場とクリームが呼んでいる所だった。

壁が半分以上壊れていて、屋根も欠けている。

床は砂神の剣の作り出す独特な砂で、埋まっていた。

雨風を、凌ぐこともできそうにない場所。

「まだ、修理中なんだ。こっちは。だが、体を動かすことはできる。」


「おい、ゼラード、何だそいつ。またよそ者連れて来たのか?」

突然そこにいた、小さな少年がクリームへと話しかけてきた。

声や口調からすると12、3才くらいだろうか。

しかし、儀礼よりもずっと背が低い。

思わず、儀礼はその少年を抱きしめていた。

「おい、なんだよこいつ。何で急に抱きついてくんだよ。ゼラード!」

何とかしろと、少年がクリームに文句を言う。

クリームは、儀礼の行動をぽかんと眺めているだけだった。


「痛くない?」

次に儀礼の聞いた言葉に、クリームと少年が驚いたように眼を開いた。

「……何で。」

ポツリと、低い小さな声で少年が言った。殺気だった怒りが儀礼の肌を焼く。

「ちょっと見れば、わかるよ。足。」

少年の足は、足首から下がなかった。その分、身長が儀礼よりも低くなっていたのだ。

「くつはいて、ズボンで隠してんだ、分かるわけねぇだろ。ゼラードにでも聞いてたのか? 偉い学者さんの同情か?」

皮肉ったように少年は言う。

「いい義足作る知り合いがいるよ。調子に乗るといろいろと変な機能付けちゃうけど。隠し刃とか、盗聴器とか、でも腕は確かだから。痛くないものちゃんと作れるよ。成長に合わせて面倒見てくれるから。」

「痛くねぇよ。」

儀礼の言葉に驚いたように、けれど、疑うようにしながらも、少年の怒りは収まっていく。

「痛くないわけないよ。傷自体は古いものなんだろうけど、そのくつだとサイズが合ってない。そんな風に布を巻くだけじゃ、固定できないでしょう。もしかして、動く時は、ほとんど裸足? 本当に怪我するよ。砂漠の砂は焼けるだろうし。」


 儀礼の言葉に、いらいらしたように、少年の顔が赤くなっていく。

「おい、ゼラード! こいつ何なんだよ。新手の義足の押し売り屋か?!」

目の前の人物を相手にしても仕方がないと思ったようで、少年は、儀礼ではなく、クリームに問いかける。

「……『蜃気楼だ』。」

面白がるように言葉を溜めてから、クリームは言った。

その瞬間の少年の顔は見ものだった。

驚き、疑い、戸惑い、様々なものが複雑にその表情に表れていた。


「確かに、茶色い目に、金髪に、白衣だけど、そんなこと言ったら誰でもそう言えるじゃないか。こいつのどこが最高峰の研究者、Sランクの『蜃気楼』だって言うんだよ。」

怒鳴るように少年が言うので、儀礼は懐から自分のライセンスを取り出して見せた。

「信じた?」

首を傾げて儀礼は少年へと問いかける。

「うっ、うそだっ。……世の中間違ってるっ!!」

少年は、壊れた天井の隙間から空に向かって大声で叫んだ。


「うん。本当にね。子供がこんな怪我をして放置されるなんて、世の中、間違ってる。もっと早くに手当てすれば、足、残せただろうに。」

悔しそうな奥歯を噛み締めた表情で、儀礼は再び少年の足を見た。


「……っ。俺は、トウイだ。そんな顔、……しなくていい。俺はこれで満足してる。十分動けるし、相手は俺を子供と思って油断するしな。」

事実、すでにトウイはそれをハンデだとは思っていなかった。

十分に仕事に活用できたので、有利にすら思っていたのだ。

なのに、その『蜃気楼』は、トウイの靴をあっという間に、勝手に改造してしまった。

「どう? 痛くないでしょ。」

にっこりと笑う姿は、少女のような微笑み。

「お前、ばかか。自分の装備壊して、俺の靴なんて作って。」

儀礼は白衣の下の衝撃吸収材を切り崩して、トウイの足のサイズに合わせた。

それだけでなく、靴には色々と仕掛けが付随されているのだが……。


「新手の武器屋かよ……。」

ポツリと、自分の装備となった靴を確かめてトウイが言った。

「諦めろ。こういう奴だ。」

完全に、何かを諦めたかのような脱力した声で、クリームがトウイを宥めていた。

儀礼にはまったく、意味の分からない会話だった。

少年トウイ、ヒガに噛み付いていた二人のうちの一人。元、クリームと同じ組織の人間。

あっという間に、儀礼は懐柔しました。……いいのかそれで。

2013/5/30、誤字修正しました。

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