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ギレイの旅  作者: 千夜
12章
325/561

心を持つ仲間たち

 宿に戻れば、心配そうなランジェシカ。

コルロは、儀礼を置いてまたすぐに消えてしまった。

「大丈夫だよ。」

にっこりと笑って、儀礼は言う。


「あれは誰だ?」

鋭い眼つきでクリームが問う。

「『スカイガンナー』さん。味方だよ。」

くすりと儀礼は笑う。

「あれが『スカイガンナー』か。……目立つ奴だな。」

白い陣の消えた床を見て、クリームが呟く。


「しかし、『ガンナー』って、魔力じゃないね。」

同じ様に、その床を見つめていたマフレが溜息を吐くようにして言った。

「魔法は得意じゃないそうなので、今の移転は極秘でお願いします。」

口元に指を当て、楽しそうに儀礼は笑う。


「何の片棒を担がせる気だ。」

クリームの言葉に儀礼は苦笑する。

まさか、『ユートラスへのスパイ活動』とは言えない。

「彼の銃、作ったの僕なんで。内緒に。」

もう一度、儀礼が人差し指を口に当てれば、クリームは何かを諦めたかのように額を押さえ、そのまま頷いた。


「ラン、マフレ、今のは聞かなかった、見なかった、いいな。」

「はいよ、ボス。」

「ボスはやめろ。」

クリームが言えば、ふざけた口調でマフレが言った。即座にクリームが否定する。


「逃げられた。」

ポツリと、肩を落として、ランジェシカが言った。

今まで、コルロを追跡していたらしい。

「追うな、ラン。関わるな。ギレイに関わるとろくなことにならない。お前も分かってるだろ。あんだけ泣かされて。」

クリームのその言葉に、拓の眉がピクリと動いた。

その言い方では、まるで儀礼がひどいことをして、ランジェシカを泣かせたかのようだ。

「待って、クリーム。その言い方、何か変。」

まだ10代前半のあどけない少女にも見えるランジェシカ。

纏っている気配は、決して普通のものではないのだが。


「言葉の使い方をお前に言われたくはない。それに、泣かしただろ。」

睨むようにクリームが儀礼を見る。

「そうだけど……。」

言いよどむ様に儀礼は答えるが、あれは断じて悪意があって泣かせたわけではない。

さすがに泣くとは儀礼も思っていなかったのだ。


「えっと、ほら、飴玉。あるからあげるよ。ね。」

その時にとても気に入ったようだったので、儀礼は飴玉の入った小瓶をランジェシカに見せてクリームの手に渡す。

一気に食べてしまうのは虫歯になるのでよくない。

ここは姉のような保護者に渡すべきだろう。

「ありがとう。」

ふわりと、微笑んで、ランジェシカが言った。


「それで、お前、何してきたんだ?」

今まで黙っていた獅子が口を開いた。

「ちょっと、仕事のこと。そうだ、パソコン確かめなきゃ。クリーム、ユートラスの『死人の兵士』って、何か知ってる?」

「知らない方がおかしいだろ。かなりの騒ぎになってたぞ。」

言いながら、クリームは機械の端末を操作し始める。

「ユートラスで古代兵器の開発中に死者を蘇らせることには成功したが、制御できずに暴走したらしい。昔、ユートラスに攻め込んだフェードの兵士が蘇って、村を幾つか破壊したんで、ユートラスの軍事力でもって殲滅したらしい。」

端末を服の中にしまいこんで、クリームが説明を終えた。


「ああ。ベクトの親父がその兵士の中にいたらしいぞ。」

意外にも、獅子がそんなことを言った。

「え?」

儀礼は知らなかった情報に驚き、瞳を瞬かせる。

「言ってただろ。俺達に会う前、それを考えてむしゃくしゃしてたって。そんでナイフを拾ったらしい。」

「それ、ユートラスのことだったんだ。」

儀礼の表情が鋭くなった。


 先程の軍人たちは何と言っていたか、フェードの兵士たちの装飾を集めている、と。

何か、暗い気持ちが儀礼の中にも流れてきた。

敵を倒し、奪った物は、この世界では基本、奪った者の物だ。

しかし、そこに残された家族が居るとしたら。

――ヒガの、蒼刃剣のように、手にするだけで心の変わるような、記憶を持つ者もいる。


 儀礼はパソコンの報告書を読むついでに、発見されたフェード兵の装備品についても、分かる範囲で資料を流して欲しいと、コルロに連絡した。

現場にいるのだから、穴兎に頼むよりも早いはずだった。

なぜなら、あの場にいた軍人を名乗る男達が、拾得物を報告するような連中には見えなかったからだ。

データにして、報告して、リストを作ってくれていれば穴兎の出番だが、個人が勝手に拾ったアイテムではそうはいかないだろう。


 古代遺産ならともかく、指輪や、首飾りなど、売りはしても軍にデータとしては残されない。

しかし、身内の欲しがる形見とは、そういう物ではないのだろうか。

遺体は皆、砂になってしまったらしいし。

儀礼にできることは本当に少ない。


 死者を操る古代の儀式魔法陣など見せられても、分析する知識などないのだ。

なのに、詳しく描かれた図式が、わざとらしく儀礼への報告書に添付されていた。

バクラムの家にあるはずの壊れた蒼刃剣の資料と一緒に。

『早急に返答せよ』と命令口調で、なぜかアーデスから、送られてきていた。

それも、ナイフの呪いを解く前の日付で、である。


「ごめん、僕、仕事できたみたいだ。白と利香ちゃんに僕の分、要らないって言っといて。」

パソコンを閉じると儀礼は立ち上がる。

「管理局か?」

クリームが問う。

「うん。でもヒガさん所。ちょっと、確認しておきたいこともあるから。」

「ヒガならもう管理局は引き払って、うちにいるぞ。あたしらの組織の本部だ。」

案内する、とクリームが立ち上がる。


「なら、送ってこうか?」

マフレも立ち上がろうとして、クリームが止める。

「ギレイも行き方を知っておいた方がいいだろ。それに、ランを一人で置いていくな。殺伐とした状況しか思い浮かばねぇ。」

焦ったようにクリームが言う。

マフレが運べるのは二人。


 ランジェシカと黒獅子、そんなに殺伐となるだろうか。

(いや、利香ちゃんが間に入れば、なるかもしれない)、となんとなく儀礼は思った。

ランジェシカは誰に対しても距離を取らない。

自分の強さに対する、絶対の自信。

無邪気と言うのか、無垢というのか、しかし、姿は少女である。それも、人目を引くような美少女。

利香の機嫌は悪くなりそうだった。

ランジェシカが一人で帰ればいいだけの気もするが、自由すぎる彼女を一人で行動させるのは危険らしい。

主に、彼女の趣味に起因するらしいが、その趣味が何かは、儀礼は教えてもらえなかった。

単純に、ランジェシカが寂しがるという内面的な理由もあるらしい。


 あーだ、こーだ、と話し合うクリームとマフレを見て、いつの間にか儀礼は微笑んでいた。

寂しがるランジェシカ。味方を気遣う仲間たち。

彼女達はもう、心のない暗殺者ではない。

儀礼の手に入れた、生き生きとした、仲間達だった。

花巫女の告げた儀礼の頼るべき者たち。光ある仲間たち。儀礼よりも強い者たち。そして、傷付く心を持つものたち。

いつの間にか、儀礼の周りには仲間が増えていた。

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