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ギレイの旅  作者: 千夜
11章
304/561

警備兵による包囲

 カララン

音をたててナイフが地面に落ちた。

同時に青年は意識を失ったように、崩れ落ちる。

そばにいた儀礼はその体を慌てて受け止める。

ずしり、と儀礼よりも大きな青年の体の重さに儀礼はよろめく。

「重い……。」

黒いもやを倒した感動とか、仲間同士の喜び合いとか、何もかんも無い奴である。


 ゆっくりと、儀礼は青年の体を地面に寝かせた。

「ふぅ~。」

深い息を吐く儀礼。

「大丈夫?」

白が走り寄ってきて儀礼に聞く。

その瞳には、どこか尊敬のようなものが含まれていた。

しかし、儀礼はそれに気付かない。


「重かったよ。無理。支えられない。」

首を振りながら、儀礼は的はずれな答えをする。

「……いや、体とかだけど……。」

闇に落ちた状態の人間と、非戦闘員である儀礼が戦ったことを心配していたのだが、その返答。白は苦笑する。


「なんとか、片付いたか。相変わらず、すごいことするよな、お前は。魔法使いとかに転向すれば?」

何故だか楽しそうに笑いながら儀礼に近づいてくる獅子。

「いや、魔法とか、わかんないから。」

真顔で嫌がっている儀礼。

ドルエドでは、魔法は一般的ではない。

それこそ、夢物語、本の中の世界、である。


「でも、問題はこれからかな。……やっぱり、ナイフの呪いはコレくらいじゃ解けないみたいだしね。」

地面に落ちた黒ずんだままのナイフを見て、儀礼は言った。聖布でナイフをそっと包む。

ナイフが呪われた当初、その町の教会で解呪を頼んだのだが、一緒に戦いに使った矢の方は、なんとか解呪できたのだが、止めを刺した銀のナイフは何度儀式をやっても失敗に終わった。

『もっと強い力を持った、例えば神官クラスでなければ無理です。』

その教会で、儀礼はそう言われたのだった。


 遠くから、大勢の足音が聞こえてきた。

町の警備兵達がやってきたのだろう。

いつの間にか、遠巻きに野次馬も集まっている。

「はぁ。面倒だなぁ。どうしよう、この説明。」

倒れた青年と、地面に散った鳥の羽と血。

そして、呪われたナイフの存在。下手をすれば、牢獄行きだ。


(明日の仕事までに出してもらえ……無い……よなぁ。やっぱ。)

色つき眼鏡をかけて、深い溜息とともに、とりあえず、アナザーに愚痴っておく儀礼だった。



「呪われたナイフ?! 何故そんな危険な物を持ち歩いていた。悪意があるとしか思えん!」

厳しい目つきで警備隊長が儀礼を睨む。

服装や、振る舞いからその男がこの中ではリーダー格だろうと思われた。

儀礼はじりじりと肌が焼けるのを感じた。


 そんな儀礼を見て、こんな状況だと言うのに白は笑いを堪えていた。

こんな状況――数十人の兵士達に囲まれ、武器こそ取られていないが、儀礼たち三人は、両手を挙げて反抗の意思が無いことを示させられている。

もちろん、数人の兵士が後ろから銃を構えて、三人の頭や体に狙いを定めている。

気絶している青年は足元に転がされたままだが……。


「並の教会ではこのナイフの呪いは払えないと言われました。そして最近こちらに、旅をしている『最高位の神官』が立ち寄ってると聞きまして、持ち寄ったのですが。すみません、僕の不注意で、ナイフを落としてしまって、たまたま通りかかった彼が拾ってしまって……、邪気に取り込まれてしまったんです。管理不備は承知しています。」

警備隊長に真っ直ぐに向き合い、儀礼は反省した様子で深く頭を下げる。


「そんなでまかせを! ……あの方がここにいるのをどこで知った。」

怒っていた隊長の声が、目の前にいる儀礼にしか聞こえないほどに低くなる。

声は小さくなっているが、その威圧感は格段に増していた。

「いや、俺が無理やり取ろうとしたから飛んじまったんだし。儀礼は悪く無いだろ。」

二人の間に割り込むようにして、慌てたように獅子が言う。

「獅子は悪く無いんだから、黙ってて。」

儀礼はそんな獅子を手で制する。

町で暴れたBランクの冒険者と、町を守る警備隊の長。獅子では分が悪いのだ。


「情報の元について、この国(情報国家)で聞かれるとは思いませんでしたよ。」

含みのある笑みを浮かべ、儀礼は隊長と同じように声を抑えた。

儀礼が『花巫女』に与えられた情報はやはり、普通の者が知る範囲ではないものだったらしい。

しかし、儀礼はにこりと笑う。


「神官グランと言えば、国を越えて有名な方ではないですか。」

声の調子を明るく変え、儀礼はそれが当たり前のことであるように付け足した。


 『神官グラン』、その人は世界中を旅しながら、苦しむ人々を救っていると言う神官。

それも、教会から認められた最高位の称号を持ちながら、教会と別で行動している。

それは、教会の指令を受けずとも、すぐに現地に発てるように。

いつでも、多くの人々のために。

そんなグランが、人々に慕われないはずがない。


 儀礼の言葉に、警備隊長が苦い顔でうなずいた。

「それで、呪いの被害や討伐要請等の報告がないのだが、どういうことだ?」

気持ちを入れ替えたのか、睨む位の勢いで儀礼に言う隊長。

「緊急事態でしたので、僕と、彼らで対応しました。もともとが僕の持ち物でしたので、責任を取って動くのが当然のことですから。」

儀礼は隊長の目を見て話す。

できるだけ、余裕のある態度を振舞って。


「お前ら子供に、そんな権限があると思っているのか! 事は重要だぞ! お前らがやったのは犯罪行為だ。子供のいたずらですむことでは無いぞ! 運良く、事が収まったからよかったものの、下手をすれば、この町の人間が犠牲になっていたんだ。わかっているのか!」

隊長は儀礼の襟をつかみ、怒鳴りつける。


 そんな二人の顔の間に、小さな火の精霊が割り込んで、その隊長に挑むように、さらに炎をたぎらせて、ファイティングポーズをとっている。

《いいぜ、かかってこいよ。俺が相手してやる。》

人には聞えない声を出し、威勢よく12、3歳ほどの、少年の姿の火の精霊が啖呵を切る。


 苛立つ隊長にではなく、降りかかる見えない火の粉に、顔をゆがませている風な儀礼を見ていると、大勢の兵士に囲まれているというのに、白には緊張や恐怖を感じるよりも、笑わずにいることの方が難しかった。

青い精霊シャーロットに呆れられながら、白は必死に口元を押さえて笑いを我慢するのだった。

誤字修正しました。

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