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ギレイの旅  作者: 千夜
11章
299/561

欠落した魔法陣

 襲われている村は、フェードとの国境になる川に近い、つまり、ユートラスの端に位置する小さな村ばかりだった。

十分な備えもない、戦える戦士も少ない、そんな村を襲って……満足そうにも、愉快そうにもしていない、動く死者たち。

それなのに、その瞳には、暗い恨みが確かに宿っているように禍々しく光って見えた。

アーデスはさながら、亡者達と共に、地獄へとそのまま立たされているかのような気分だった。


 アーデス達剣士が魔剣で切り崩しても、ユートラスのサイボーグ(儀礼談)が魔法で消滅させても、その死体達はまたすぐに形を作り出して、人々を襲い始める。

「きりがないな。」

次々と砂塵を作り出しながらも、アーデスは文句のような溜息を吐く。


 リビングデッドたちの体はほとんどが骨だけで、装備は、朽ち果てた剣や崩れた鎧、めっきの剥がれ落ちたティアラに、割れた魔石の付いた杖など。

まともとは言えないその姿から、魔法使いだったらしい者が、いびつな魔法を放ってくる。

『闇』魔法ではない。

これは魔物たちの使うような、邪気を帯びた『暗黒の魔法』だ。

邪気を浴びた者は、毒を浴びたように身体と思考を鈍らせる。

最悪の場合、魔に支配され、魔物の様に生き物は動き出す。その状態を『闇に落ちる』と人は呼ぶ。


 このままではリビングデッドの攻撃で、生きた人間が魔物へと化してしまうのも時間の問題だった。

「『隻眼』ここは俺が時間を稼ぐ。元を断てないか?」

するりとアーデスの背後に身を回した、目の覚めるような青い服を着たもう一人の潜入者がさらりと告げた。

「研究塔のどれかにこれを動かしている失敗作のアイテムがあるはずなんだ。俺の身体能力ではそこまで辿り着けない。」

魔法なしでは、厳重に警備された研究塔への侵入は、魔法使いのコルロには荷が重いということだろう。


「わかった。元のアイテムは分かってるのか?」

「赤い魔石だ。かなりでかいから見れば分かる。使えそうなのがそれしかなくて、無理やり青い魔法陣を入れたらしいんだが、この結果だ。」

ガンッ、ガガンッ、とコルロの使う武器の聞きなれない音を背後に聞きながら、アーデスはそれだけの会話をするとすぐに、そのリビングデッドの研究施設へと走った。


 慌しく怒号を上げるように騒ぎ立てる研究者達を尻目に、『隻眼の剣士』は静かにその研究施設へと忍び込んだ。

そして、すぐにその魔石というものは見つけられた。

研究施設の真ん中で、赤く、強く輝いている。

その魔石から発動されているのは、直径20メートルを越える大きな青色の魔法陣。

しかし、その陣は見るからに歪みを持っていた。

所々が欠落し、欠けた部分の繋ぎ方は荒く歪んでいて、これでまともな魔法が発動するとはとうてい思えなかった。


 コルロの言うとおり、貴重なアイテムを持ち去られ、失敗を取り戻す為に、そうとう功績に焦っていたということなのだろう。


 騒然とする研究者達に悟られることもなく、アーデスはその大きな水晶のような赤い魔石に近付き、『ダークソード』の力をもって破壊した。

『ダークソード』は魔力を取り込む剣だ。

図らずも、膨大な魔力を吸収し、魔剣はより強化されたことになった。


さらに、魔石が破壊されたことにより、ようやくリビングデッドたちは静かな屍へと戻り、乾いた土となって、地面へと返っていったようだった。

『任務完了だな。さすが、早いな。こっちはみんな砂になって散っていったぜ。』

コルロの出す魔法の声が、アーデスにそう告げた。


 さて、この研究施設の研究者達の末路など、アーデスにとってはどうでもいい。

国の端の村とは言え、被害はかなり出ている。

責任を追うべき問題だと思えた。


 そんなことよりも――。

その使者を蘇らせるという、未完成の青い魔法陣に、アーデスは見覚えがあったことが気になった。

ついこの間、じっと、覚えるほどの長時間、観察する機会があったのだ。

バクラムの家で、儀礼の持ってきたいびつな刃の魔剣を持っている時に、見たのだ。

その魔剣の内部に仕組まれた、その『欠けた魔法陣』の形を――。


「……あとで、話す事ができたようだな。ギレイ。」

今回の「欠落した青い魔法陣」を作る元となった『魔剣アイテム』の心当たりに、アーデスは低い声で呟いた。

『僕は何もしゃべりません』

儀礼はでかでかと横断幕のごとく、文字を書いた紙を壁に貼り付けた。

作者「儀礼、二度は通用しないと思うぞ。」

儀礼「この背筋の寒気は僕の命に関わる。」


作者「……自分には見えないがな、見える人には黒い影が見えるらしいぞ。その背中に。」

儀礼「ふっ。聖水は必須アイテムだよ。」

にっこりと儀礼は微笑んだ。

そこにはあたかも、邪気など一片も含まれてはいないかのような、みごとな笑顔であった。

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