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ギレイの旅  作者: 千夜
第3章 剣術大会
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大会の後

 日が暮れ始めて、一緒に来たギルドのメンバー達は大会での健闘を祝って宴会を始めた。

「お前も食ったらどうだ?」

 ハンに言われて、獅子たちが食事をどうするのか聞いてなかったことに気付く。

「食べててください。僕は獅子たちと外で食べてきますから」

 そう言って儀礼は試合の会場へと向かった。まだ帰らないということはそこにいる可能性が高い。

 たくさんの露店が出ていたし、楽しんでいるのだろう。

 別にほっといてもいい気がしてきたが、念のため確認だけしておこうと、混雑する道を通り会場の中へと入った。

 二人はまだそこにいた。そっと近付いていく。

 剣術大会で見事準優勝を飾った獅子が、同年代の女の子達に囲まれている。

 ちなみに優勝したのは旅の剣士で、めちゃくちゃ強かった。


 無理やり割り込まれたのだろうか、明らかに不機嫌な顔の利香。その怒気に当てられ、固まり気味の儀礼。

「儀礼君、行って」

 儀礼に気付くと、突然、獅子を囲む女の子達の方を指差して、利香が言った。

 むぅ、と頬を膨らませたような表情で、体からはゆらゆらと怒りのオーラが見えそうだ。

「え? 行ってって……」

 意味が分からず、聞き返す儀礼。

「行って。にっこり笑うだけでいいから」

 利香の言う意味はよくわからないが、今の利香に逆らうことのできない儀礼。

 しかたなく、戸惑いつつも、囲まれる獅子のもとへ歩いてゆく。

 女の子達に、何故だか、ギロリとにらまれて、一瞬硬直する。

「獅子……利香ちゃんが呼んでるよ」

 ぎこちない声で、なんとかそれだけ言う。

「ああ、儀礼。わかった」

 取り囲まれて、獅子も困っていたのか、安堵したように抜け出してくる。

「サンキュー」

 儀礼の耳元に、小さな声が聞こえた。獅子はそのまま、利香の元へ走ってゆく。

 それを見た女の子達は、なんだか、物足りなそうに、去っていく獅子の背中を見送る。

 それから、獅子を呼びに来た儀礼に、再び目を向けた。だれもが、大会で予想外の活躍をした獅子目当てに来た女の子達だが、……。


「ごめんね、獅子には決まった人がいるから」

 悪いことをしたような気分になり、一応謝っておこうと儀礼はぎこちなくも微笑んだ。

 よどみ始めていた空気が、一気に花を持ったことに、儀礼は気付かなかった。


 キャー!

 一呼吸おいた後、少女達の口から出たのは、悲鳴――ではなく、驚嘆の声だった。

「……?」

 誰か、有名人でもいたのか? と周囲を見回すが、周囲の人間が、少女達の声に驚いて、こちらをみているばかり。

「かわいいー!」

 口々に言う少女達。

 その言葉に、儀礼はようやく思い至った。自分が獅子のかわりのエサにされたことに。

『にっこり笑うだけでいいから』

 その言葉の意味がやっとわかった。これでは子犬や子猫と同じ扱いだ。

(利香ちゃん……別にいいけどさ……)

 仲間に売られたことに、ほんの少し泣きたくなる儀礼。


 目じりの涙に気付いたのか、少女達の中でも年長らしい女性が、儀礼に話しかけてきた。

「泣かないで、ごめんね。びっくりさせちゃったかしら。私はオーシャン。あなたは? よかったら、おわびにごちそうさせてくれない? 夕食はもう済ませたかしら?」

 まるきり子ども扱いをする。

(うう……)

 どこまでも、落ち込みそうになる気持ちを押さえ、なんとか、子ども扱いに対抗しようと、大人な態度を心がける。

 怒らず、いじけず、笑顔で許す。儀礼にとっての大人のイメージで、儀礼は言う。

「大丈夫ですよ。僕は、ギレイです。おごるのはいいんで、どこかに座って食べられるいいところがあったら教えてください。どこも大会のせいで混んでいて」

 獅子と利香のことはもういいだろう。人をえさにしたんだ。せいぜい仲良くしてくれ。村にいた頃の苦労を思えばどうってことない。

 にっこりとした儀礼の笑顔に、少女達が心奪われたことに、儀礼本人は気付かない。

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