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ギレイの旅  作者: 千夜
10章
287/561

いたずらよりも嘘の重み

ラーシャたちが帰った後は、白のいる部屋にはもう誰も来なかった。

一瞬、管理局の建物の外に何者かの気配がして、シャーロットが警戒したのだが、また別の誰かの気配が来て同時に掻き消えたという。

白には全く分からない状況だった。


《今の気配、覚えがあるわ。》

窓の外を見て、考えるようにトーラが言った。

《多分、クリームたちだと思う。》

自信はないと言うように首をかしげてトーラは言う。

《あの人たちほとんど気配を出さないから、あんなに強くて気配が薄いなんて、それでギレイを守ってるとしたら、今研究室に来た人達以外だと、それしか思い当たらないの。》


「クリームって、誰?」

白が問いかける。

《ギレイの友達よ。獅子と同じ位強いんだから。それに、もっと強い人もいるの。水の気配がそう。》

《そう。あれは、水の属性を持った魔剣ね。》

精霊どうしが、納得したように頷き合う。

それらの人たちが、アナザーのめいで勝手に動いていることをトーラは知らず、それらの人たちが、暗殺者や殺人鬼であったことをトーラは白たちにあえて言わない。

にやりと、トーラはいたずらな笑みを浮かべている。


 クリームたちが研究室を守っているということは、儀礼がここにいると思っているらしい。

儀礼は、アーデスにマップを管理局へと届けてもらうように連絡はしたが、出かけるという知らせは誰にもしていない。

それで儀礼が管理局にいないと気付くのは、アナザーでも難しい。


 どうも、白にはよく分からない事ばかりだった。

精霊二人で分かり合ったように話し始めるし、なんとなく仲間はずれな気分になり、白は寂しい気がしてきた。

思い返してみれば、白は一人なのだ。一人で、留守番をしているのだった。


 白が2冊の本を読み終えた頃だった。

扉がコンコンと鳴り、儀礼の明るい声が聞こえた。

「ただいま。遅くなってごめんね、白。お待たせ。」

自分で鍵を開け、儀礼は研究室へと入ってきた。

出ていった時と見た感じ、変わった様子はない。

怪我をしたり、落ち込んだりしている様子もない。

どこか、すっきりとしているようにさえ見えた。


「あれ? アーデス以外にも人が来たの?」

置かれている黒い布を見て、驚いたように儀礼は言った。

「うん。そうだ、人がたくさん来たんだよ、ギレイ君。えっとね、最初の人は背の高い金髪の人で、このマップを渡してくれたよ。」

白は、懐にしまった預かったマップを儀礼の手に渡す。


「来た! これだっ! やった!! 遺跡だよ。遺跡のマップ。流れて来ないマップ。さすがアーデス。うわ、もしかしてコレ、アーデスが攻略したのか? 他にないじゃん、人の名前。すごい! さすが! うわぁっ。」

叫びながら、儀礼はその数枚の紙を見て、瞳を輝かせている。

しばらくの間、話しかける白の声は儀礼に聞こえていないようだった。


「えっと、取り乱してごめん。」

恥ずかしそうに顔を赤くして、儀礼は白に謝った。

大切なマップは今は、大きな機械にかけて何かの処理中だと言う。

「次に来たのは誰?」

儀礼が問いかける。


「えっとね、青い服を着た細身の人と、大きな体の人で、細い人は床で笑い転げちゃった。」

その床を示して白は説明する。

思い返してみると、笑われたのは白になるので、少し複雑な気分だった。

「コルロさんか。そんな、うん、分かる気もする。ちょっと見てみたかったかも。」

くすくすと儀礼は笑う。

「見ても無視するけど。」

きっぱりと儀礼は言った。


「一緒に来た大きな人はバクラムさんかな。何の用事だって?」

儀礼の言葉に、白は正直に答えていいのか悩む。しかし、嘘を付くようなことでもない。

「なんか、そのコルロさん? が笑うために来たって……。」

言いにくそうに白が答えれば、儀礼の目が細められる。

「ふーん。そう。イイ情報だ。どんな仕返ししようっか、ねぇ、白?」

にっこりと楽しそうに儀礼は微笑む。


「え? 仕返し?」

白にそんな事をするつもりはなかったのだが。

「何がいいかな、寝てる間に落書きとかが一番かな?」

ねぇ? と小首をかしげて儀礼は言う。

管理局の結界の中に入り込めるような魔法使いの、寝込みを襲うなんてこと、そんな簡単にできることではない。

簡単そうに言わないで欲しい、と白は思う。

儀礼ならば、本当にやってしまいそうな気がしてくるのはなぜだろうか。

やっぱり『人間兵器』だからかな、と白は思い至った。


「あのっ、次に来たのは女の人が二人で、赤茶色の髪と、オレンジ色の目の人と、黒い髪と帽子と、木の杖を持った魔女みたいな人だったよ。」

慌てたように次の人を示せば、儀礼は頷く。

「ワルツとヤンさんか。用事あるとか聞いてなかったけど、何か言ってた?」

「ううん。ギレイ君の気配は草原の風みたいで、私は青い湖みたいだって。気付かれそうになってちょっとびっくりした。」

白は言われた言葉を思い出して、冷や汗を拭う。

それは、精霊シャーロットのことも見破られるということだ。


「それからね、その後に来たのは、カナルって大きい男の子と、シュリっていう男の子と、ラーシャって呼ばれてた可愛い女の子。」

にっこりと白は笑った。

「すごく、綺麗な子だったんだよ。なのに、私に可愛いって言ったの。綺麗な長い髪の毛で、透き通った目をしてて、体は細いのに、手とか指とかすごくしなやかに動くの。」

真似をしようとして、できないというように、白は指の先を動かしてみせる。

「わかる! ラーシャは手先が凄く器用だよね。武器を手元でくるるって回すんだけど、その一瞬が速すぎてよく見えないんだ。絶対演武とかしたら綺麗だよね。今度頼んでみようかな。」


「見たい! 私も見たい、それ。でも……。でもね、ギレイ君。私とも話してくれるかな?」

興奮したように頷き、それから、白は心配そうな顔で儀礼を見上げた。

「私、嘘いたみたいで。」

白は悲しそうな瞳で唇を噛んだ。

「ごめん。本当にごめんなさい。」

儀礼は真剣な様子で白に謝った。しばらくの間、儀礼の頭は深く下げられたままだった。

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