表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅  作者: 千夜
10章
275/561

パーティ補正

「パーティ補正?」

しばらくして、幻覚の治まった儀礼は、浮かない表情をしていた白の言った言葉を繰り返した。

「うん。パーティランクが『A』だったの。」

嬉しくて興奮すると言うよりは、不思議で仕方がないといった様子で白は儀礼の手に、そのパーティライセンスを差し出した。

そのライセンスには確かに「ランクA」の文字。


「げっ。僕、目立ちたくないのに。」

思わず出てしまった儀礼の本音に、獅子が鋭い眼つきで睨んだ。

儀礼は冷や汗を流す。

「えっと。……つまり、補正値効果でどうして、こうなったのか理解できないと。」

獅子が視界に入らないように体を動かし、儀礼は白に向き合った。

白はこくんと頷く。

判明したパーティランク『A』。

それは、ギルドで名を上げたくない儀礼の、理解したくない現実でもあった。


「『A+』を持ってる人がいれば、パーティのその項目にも『A』が入るって説明されたんだね。」

確認するように儀礼は言う。

「うん。だから間違ってないんだって、受付けの人が何度も言うの。」

何度も聞き返したのか、と小さな白がギルドのマスターと問答する様子を思い浮かべ、儀礼は笑う。


 冒険者ライセンスに記される6つの項目。

頭脳、知識、魔法、戦闘、体力、力。

「ランクAになるためには、項目に最低3つのAが必要なんだ。」

儀礼はポケットから紙とペンを取り出した。

『AAABBBか、

 AAAABC』と書き出す。


「これがAランクの最低条件ね。どっちか以上ならAランクで、入る低い値はCが一つまで。DやEがあればAランクにはならない。項目はどれでもいいんだけどさ。」

白が頷いたのを確認して、儀礼は続ける。


 儀礼は紙の上にE~Aの文字や数字を書き出した。

『E-2、D-1、C+1、B+2、A+3。

-9点未満Eランク

-9点~Dランク

0点~Cランク

9点~Bランク

15点~Aランク。』


「こんな感じかな? これに仕事こなした分とか、実際の能力の補正が加わるから、絶対とは言えないけど基準ではある。僕や白は完全に経験値マイナスだけどね。」

ライセンス取得時の、初期経験値のマイナスは「-10」とされているとか噂されている。

最初に-10点されてもDランクのライセンスを取った、獅子や白やクリーム達はやはり普通ではない、と儀礼は思っている。


「公開されてないけど、多分、獅子の「戦闘」と「力」には『A+』が付けられてると思うんだ。」

今までの獅子の活躍を思い、儀礼は紙に獅子のライセンスのあたいを書き出す。


獅子

頭脳E

知識B

魔法C

戦闘A+

体力A

力 A+

総合B


「成長したねー、獅子。知識が上がってる。」

むせび泣く真似をして、儀礼は笑う。

魔物討伐や、盗賊退治など、仕事に関する知識は、獅子にも十分ついている。

言われた獅子は、苦く笑った。

馬鹿にしているのではなく、村で獅子の専任補習教師のようなことをしていた儀礼は、本気で感動していたのだ。


「これで、パーティランクの「戦闘」と「力」の項目は『A』確定だろ。これでもうA2つ。パーティランクの底上げされてるの分かるよね。」

気を取り直したように説明に戻り、儀礼は次に白のライセンスを見た。

「パーティの場合は本人の総合ランクより先に、項目ごとの集計がされるんだ。」


 獅子・白

頭脳E・C=D

知識C・B=B

魔法C・A=B

戦闘A+B=『A』

体力A・C=B

力 A+D=『A』

       ↓

総合B・D―「B」


6つの項目のうち、Aが2つ、Bが3つある。

低い頭脳のDを相殺して、パーティは十分Bランクの力を持っていることになる。

「二人のパーティランクは、Bになる。パーティの場合、経験値のマイナスが少なくなるのも理由だよね。」

ふーん、と納得したのか微妙な声を出しながら白はその紙を見る。

しかしこのパーティには、頭脳にBが必要な、書類処理の多い仕事は回せないな、と儀礼は苦笑する。


「で、問題は、僕を入れた3人の場合か……。」

呟いて、ペンを持ったまま、儀礼は痛そうに頭を抱える。

幻覚薬による頭痛は治まったはずなのだが。

書き出す前に、儀礼は頭の中に浮かんだ値を、もう一度確認する。


  獅 白 儀

頭 E C A=「C」

知 C B A=「B」

魔 C A D=「C」

戦 A+B D=『A』

体 A C E=「C」

力 A+D E=『A』

総合    「B」

(『AABCCC』……ランクBのはずなんだよね。経験値のマイナスが入って、Cランクの可能性すら考えられるのに。)

パーティランクが「A」であるなら、2つのCをAに変えなくてはならない。


 獅子の「体力」に『A+』が入っている可能性は低い。それが獅子の経験不足。

1週間や1ヶ月の泊り込むような長期の仕事を請け負ったことがない。


 そうなると、儀礼の「頭脳」にA+を付けられている可能性が高くなった。

獅子とのパーティランクがBになったのは、儀礼は獅子の偉業のせいだとばかり思っていたのに。

そして残る「C」のある項目は――「魔法」。


「白、何かやってきた?」

にっこりと微笑んで儀礼は白に聞いてみる。

儀礼の『A+』1つでは足りないのだ。

三人のパーティランクが「A」になるには。


「私は、何もしてないと思う。試験を受けてきただけだから。」

ちらりと獅子の姿を見て、白は言った。

白の容姿でギルドに入って、野次られないわけがない。

それに対してはきっと獅子が黙らせたのだろう。

(聞きたいのは、試験の内容の方なんだけどね。)

引きつった笑みを浮かべ、儀礼は、心当たりがないと困ったように首を捻る白から、詳細を聞き出すことを諦めた。


 捕虜としたユートラスの女性の言葉を、儀礼は思い出す。

『国を守護する力のある精霊』、それを捕らえるのが任務だと言った。

それが白の言う守護精霊のことなのだろう。

「守る」と言葉通りに考えていたが、儀礼を守る護衛達は皆、高い戦闘能力を持っている。

軍事国家、ユートラスが狙う、一国を守る力を持った精霊の『攻撃力』。

儀礼はもっと早くに気付くべきだったのかもしれない。


 予想される補正値を表にして、儀礼は紙に書き出した。


  獅 白 儀

頭 E C A+=『A』

知 C B A =「B」

魔 C A+D =『A』

戦 A+B D =『A』

体 A C E =「C」

力 A+D E =『A』

総合     「A」


「これで、Aランクの最低条件『AAAABC』だ。」

複雑な思いで、儀礼は笑った。

助けるために拾った白によって、儀礼たちの弱点は補われることになったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ