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ギレイの旅  作者: 千夜
10章
268/561

不審な依頼

 儀礼は厳重な研究室を借り、儀礼個人宛に届いた手紙を開いた。

それは、不審な依頼書だった。

管理局を通して届けられた仕事で、本来ならば、怪しむ点はない。

ましてや、チェックの厳しい『蜃気楼』宛てに来た依頼だ。

ならば、儀礼は何をそんなに不審がっているのか。


一つ、依頼主の名が明かされていないこと。

二つ、仕事内容に対し、報酬が高すぎること。

三つ、人の手を使った、手紙という形で儀礼の元に届いたこと。

四つ、誰も知るはずのない事実をこの依頼が語っていること。


その依頼内容とは。


『蜃気楼のもとにある、青い目の預かりものを、無事にドルエド国内へ運び入れること。』


青い

間違いなく、儀礼が拾った子ども、シロのことだろう。


報酬は城が一つ買える程。


――怪しさ満点だ。


何より、この依頼を穴兎アナザーが知らないと言った。

現段階で、この依頼を出せるのがその人物以外、儀礼には考えられないというのに。



穴兎:“危険過ぎるな。依頼主が掴めないってのが気になる。”

儀礼:“穴兎、負けず嫌いだ。”


 アナザーの真剣な気配に、儀礼は笑いながら、茶々を入れる。


穴兎:“ちげえ。お前、分かってて言ってるだろ。”


 その依頼書について穴兎アナザーに確認を取れば、その情報がまったくないと言う。

ネット上のどこにもデータとして残されていていない。

つまり、これは完全な手書きで、人の手のみを通して届けられた依頼書。

印刷技術すら使わずに、正式な書類として整えるのは大変な手間がかかる。

それなのにこの手紙は、儀礼が白を拾って数日の間に、書類と書式を整え、正式な依頼として儀礼のもとに届いた。


儀礼:“でもさ。この依頼、受けるにしても断るにしても、どっちにしろ僕はドルエドへ行くんだよ。白に連れて行くって約束したし。”


当たり前のこととして儀礼は言う。


儀礼:“今、ドルエド以外に白を保護できる環境があるのかも分からないし……少なくとも、『蜃気楼ぼく』を利用してでも、この依頼主は、白をまもりたいんだと思う。”


 真剣な表情で口元に拳を当て、儀礼は考える。

この依頼内容の『無事にドルエドへ』と言うくだりを。

裏に流れるシャーロットに関する情報には、命を狙うものも、守れと言うものもいくつかあった。

そして穴兎に言わせるなら、その中には、ドルエドの国家レベルで動いているものがあるらしい。


 儀礼が言葉を打ち込む前に、アナザーからの返信が届いた。


穴兎:“国境でお前の写真を撮った連中、ってことか。お前のデータをシャーロットに上書きした奴。つまり、ドルエドの国を動かせる者。”


より深みを増したようなアナザーの言葉。

国が動くなら、信用はある。

しかし、危険度も増すということ。


儀礼:“うん。人を通して直接手紙を持ってきたんだよ? 追跡されると思うよね、普通。つまり、向こうはある程度は信頼を示してきた。”


真剣に文字を打ち込み、それからくすくすと笑みを漏らし、儀礼は続ける。


儀礼“でも、ウサギのことは信用できないってことだね。”


穴兎はネットの超人『アナザー』、つまりは世界中をハッキングする犯罪者。

信用しろと言う方が無理だろう。


穴兎:“追跡できたのか?”

儀礼:“だめ。不審者を装って、手紙の配達者を知り合いにすり返られた。普通やる? そこまで。”


 手紙を持ってきたモデストの話を聞くなら、配達者はそうとう痛めつけられたらしい。

そして、モデストが町に帰った時には、忽然と消えていたという。

モデストと共に、優秀な警備兵を見張りとして連れて来たためだろう。

それが配達者の指示だったと言うから、計画性すら感じる。

しかし、動けないほどの怪我だ。

儀礼とは無関係……と言えるのかよくわからないが、無事に回復することを祈る。


穴兎:“信用して行くしかないってことか。……なるべく時間を稼げ。少しでも情報を集める。”

儀礼:“わかった。近くの国境だとユートラスに近すぎるから不安だし、少し西に行ってからドルエドに向かおうと思ってるんだ。王都越えてからかな。ほら、来る時に無理やり通った国境あるだろ、さすがにあの周辺もまずいかと思うんだ。”


 儀礼がこのフェード国に入る時に通った国境は、無理やりゲートをこじ開けて通ってきたようなもので、犯罪一歩手前だ。

儀礼に非がないと言っても、国境警備の兵士たちの印象は悪くなっている。

そこはぜひとも避けたい。

そうなると、ドルエドに入るのはかなり先になるのだ。

急いでいる様子の白には悪いが、どうしても、先に伸びるのは我慢してもらいたい。


穴兎:“気を付けろよ。”

儀礼:“危険度は変わらないよ。この依頼はあっても、なくても。白は狙われてる。僕も狙われてる。”

穴兎:“……確かにな。変わらない、か。”

儀礼:“でも、白を守る力があると判断したから、僕に依頼が来た。そう、思ってもいいだろ。僕の護衛の力も含めてさ。もちろん、僕にとっては穴兎も信頼できる力だし♪”


 依頼主が『アナザー』を信用しなくとも、儀礼は全幅の信頼を寄せる。

それが、確かな力になることを、儀礼は知っている。

幾度も儀礼の危機を救ってくれた友人は、誰かを守るためだけでなく、世界すら守る力を持っている。


穴兎:“助けになる情報とまではいかないが、ホリングワースの家について少し分かった。何代か続けてアルバドリスクの貴族と婚姻してる。”

儀礼:“そっか。だからあの人、金髪だったんだ。フェードでは珍しいよね。まして、貴族でなんて。”


 フェードの貴族はほとんどが黒髪に緑か青色の瞳。フェードの国王もそうだ。


穴兎:“そうだな。フェードは黒髪緑瞳がほとんどだからな。だからこそ、すぐに調べがついた。そのホリングワースが、『シャーロット』を探していたと言うなら、親戚経由で情報が回ってきた可能性が高い。”


 ホリングワースの探していた娘は、アルバドリスクの貴族である可能性が高いということだろう。

儀礼の予想は確信へと近付いた。

けれど、どこかで、不安に思う心がある。

白がもし本当に、アルバドリスクの貴族ならば、その血と繋がりを持っていると思われる儀礼の母は……。

いや、それを今思っても仕方のないことだった。

母が平民だろうが、貴族だろうが、今はドルエドのシエンの住人だ。

それは間違いがなく、そして、儀礼の母は今、白のように弱ったり、苦しんではいない。

ならそれでいいと、儀礼はその考えを払い落とす。


 今考えるのは、この怪しい依頼の主を突き止めることと、無事にドルエドまで白を連れて行くことだ。

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