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ギレイの旅  作者: 千夜
9章
244/561

儀礼の天然行動 (生まれつき)

 赤い顔の白に熱でも出てきたかと、心配になり儀礼は白の額に触れる。

少し熱い気はしたが、浮かされるほどではないだろうと判断する。

儀礼の警戒した二人の男にも、白に殴りかかろうとする気配はない。

不自然に儀礼からも白からも視線を逸らしている気はしたが、病み上がりの人間に暴力を振るうほど愚かではないらしい。


 白も、賊のような連中の出現に怯えているかと思えば、思ったよりも元気そうで、儀礼は安心した。

「白は夜の月より、朝の月のが好き? 名前も白だしね。」

くすくすと儀礼は笑った。

その声に、ようやく白は正気を取り戻す。

「あ、あの。朝月さんが、名前呼んで欲しいって。それで、もっと頼ってって。私も、ギレイ君守るから。」

儀礼の手を取り、赤い顔のまま、白は告げる。


「?」

その手を不思議そうに見て、儀礼は首をかしげた。

そして、握られたのと反対の手で、無造作に白の頭を撫でる。

もしかしたら、白に取ってはこの体温で、高熱なのかもしれない。

「ありがとう、白。でもまず白は体を元気にしなくちゃね。」

にっこりと、儀礼は笑った。

夜明け前にシャーロットが言ったのと同じようなことを、そっくりな美しい笑顔で。

不思議な既視感に白は目を見開く。


 そして――。

「僕も、朝月は好きだよ。すごく綺麗だよね。夜の世界から朝の世界に来て、生まれ変わったみたいに真っ白になるんだ。」

言いながら、儀礼は窓を開け、外に見える朝の月へと手を伸ばす。


「ほら、同じ。朝月。僕を守ってくれてありがとう。」

白く輝く腕輪の石を月に掲げ、儀礼は幼い頃からの感謝をそこに込める。

美しい白い精霊は、宙に浮くように腕輪の前に現れた。

慣れた仕草ででもあるように、片方の衣の袖で、自分の目元を覆っていた。

儀礼に向き合うように、朝月は視線の合わないその目を見て、愛しそうにその頬に手を伸ばす。

《いくらでも、力を貸そう。お前とともに在るためなら。》


 きらきらと、朝月の見えない体が光に輝く。

腕輪の石は、白くひときわ清浄な光を放った。

強大で、恐ろしいほどに美しい、妖艶な朝月の魔力が、その瞬間に浄化されていくのが白には見えた。

禍々しい朝月の気配が、聖なる光の精霊にほんの僅かに、近付いた。


 するりと朝月は抱きしめられるように、儀礼の腕の中に入った。

目の前にある精霊の姿は映さず、儀礼は変わらず空に浮かぶ白い月を眺めている。

「みんなを守ってくれて、ありがとう。」

おもむろに腕輪に右手を添え、儀礼は口へと近付ける。

それはまるで、見えない朝月の体を、抱きしめたかのように見える動作だった。


「お前、恥ずかしいことすんなよ。」

獅子が非難めいた目で儀礼を見る。

「あれ? でも、母さんよくやるよね。」

首を傾げて儀礼が拓を見れば、当たり前の様に答えを返す。

「ああ。綺麗な物とか気に入った物に、特に花とか宝石はよく……って、俺に振んなっ!」

ガンッ、と顔を赤くした男に儀礼は殴られた。

ニヤニヤしていたくせに、と儀礼は涙の浮いた目で睨み付けるが、さらに前蹴りが来たので儀礼はベッドに飛び乗り、利香と白の後ろへと避難する。


 白き精霊・朝月は儀礼に並んでその場所へ移動する。

《しかし、気をつけろ、ギレイ。私の魔力はお前とは、また違う魅了の力を含んでいる。》

白の耳元で、聞惚れるような、美しく妖しい声が囁いた。

思わず白はびくりと震え、その声の元を振り返った。

そこでは、美しい精霊の顔で、消えきらぬ妖艶な気配を乗せて、白い唇が色濃く笑っていた。

青い精霊シャーロットが必死に呼んでも、間近で朝月の声を聞いた白の意識は惹かれていく――。


「あー、もう、寒い! 風邪引く。あいつらのせいで鳥肌立ったし。僕、もう一回暖まってくる。白、トーラ持ってて。それあると、ちゃんと浴びられないんだ。僕まだ、制御できないみたいで。」

困ったように眉をしかめて、儀礼は紫の宝石を白に渡すと、ベッドを飛び降り窓を閉めた。

パリンと音がして、白は窓ガラスが割れたのかと思った。

しかし、実際にはトーラの障壁に、白が包まれていた。割れたのは、白に掛かりかけた朝月の魔力。

小さな青い精霊が、安堵したように白の胸に飛び込む。


 白に張られた薄い紫色のトーラの障壁を見て、儀礼は生温かい目を向けた。

「まぁ、そんな感じ。結界兼障壁? よくわかんないけど、手も足も魔力も出ない、みたいな。じゃ、頑張って。」

そして、温かい湯を求めて、走るように儀礼はシャワー室へ消えていった。


《呼んであげたって言うのに。》

不満そうに口を尖らせ、白の手の上でトーラが呟く。

《英が知らせに来たのよ。あいつら止めらんねぇって。》

盗賊との戦闘に参加していなかった英は儀礼を呼びに行ったらしい。味方を止めるために……。


 その英が儀礼と入れ違いに戻ってきた。シャワー室に閉じ込められていたらしい。

護衛機に、閉まっている扉を開ける能力はない。

《壊していいなら、開けられるんだけどな。怒られるの儀礼だからな。》

困ったように英は眉をしかめている。


「ギレイ君て、……本当に精霊見えてないの? 声も?」

呆然と、一連の光景を見ていた白は、信じられない思いで尋ねる。

《あの子は見えてないわ。間違いなく。》

最初に答えたのはシャーロットだった。

《でなければ、もう朝月に心を奪われてるもの。》

白の額に小さな額をくっつけて、シャーロットは言う。青い陣が二人の額に浮かび上がる。

守護精霊の契約を確認しているようだった。


《あいつ多分、……見るんじゃなくて、感じてるんだ。俺達の存在。あれ、生まれつきだから。》

少し寂しそうに、けれど誇らしげに、護衛機の上で英が語る。

《まぁ~ったく、気付かないのよ。さっきだって、私たちが知らせてあげたなんて全然わかってないんだから。》

トーラは小さな頬を膨らませる。

しかし、すぐに上機嫌でトーラは笑った。


《まぁ、火のやつがいないから、いたずらし放題なのは否定しないけどね。》

うっふっふ、と楽しそうにトーラは笑う。

「火のやつって?」

白が不思議そうに聞く。

《そのうち、来ると思うわ。》

白に釣られるように首を傾げて、なぜかトーラまで不思議そうに答えた。

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