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ギレイの旅  作者: 千夜
7章
213/561

メッセージの受け取り

 管理局に届いていた儀礼からのメッセージ。

『ティーネに行った。観光できなかった。』

『蒼刃剣の持ち主が見つかったから、こっち来る時に獅子倉の武器庫から持ってきて♪』


 その二つ目のメッセージを読んだ時、玉城拓たましろたくは、危うく管理局の設備であるそのパソコンを破壊するところだった。

昨日の日付で着いていた、そのメッセージをもう一度見直せば、最後の音符マークはついていない、目の錯覚だったようだ。

わざわざ遠い地にまで来て受け取った、儀礼からのメッセージに拓は苛立つ。

(利香が行ってもいい程度に、危険は無くなったと言う事か。)

パソコンから簡単に自分の履歴を消し、拓は大きく息を吐いて苛立ちを落ち着ける。


「おネーさん、ティーネってどこか知ってる?」

気持ちを改め、拓は場所を移動し、冒険者ギルドの受付に立っている女性に話しかけた。

今日の拓の服装はよくある冒険者の軽装。腰に剣をさげてはいるが、領主という身分をさらす物はない。

「いい質問だな。」

短いワイン色の髪、少し吊り上がり気味の勝気に見える焦げ茶の瞳、片耳に金色の小さな輪のピアスをした、美人というほどではないが、強い者特有の魅力を見せる女性。

袖の短いTシャツという、真冬とは思えない活発そうな服装で、左手には白い煙を上げるたばこを持っている。

もっとも、拓が来たこの地方は春先ほどの暖かさがあるので、拓もシエンでは必要なマントを外していた。

「いい質問なのか?」

カウンターに近付くとその上に腕を乗せ、拓は頬杖をつくように女性に向き直る。

ちらりと確認すれば、女性の下は冒険者の好む頑丈な素材の長ズボン。

その複数あるポケットには用途別に、数種類の武器が収納されているはずだった。


「今、ちょうど話題になってる。大陸の外れも外れ、北西の深い山と山の間の谷を何日もかけて通る道を行った先が未開の国、ティーネだ。」

そこで女性はたばこを長く吸った。白い棒の先で赤い色が煌々と主張する。

息と共に大量の煙を吐き出して、女性は笑う。

「そこで、フロアキュール占拠事件の主犯、『闇の剣士』が倒されたらしい。本拠地を管理局の手の届かないティーネに置いてたらしくてな、今管理局が徹底的に調べてる。」

たばこの灰を吸殻が山になっている皿に落とし、女性は続ける。

「なんでも、管理局が手を出す前に、何者かの集団が解決して消え去ったらしいよ。」

女性はにやりと笑った。


(それに儀礼ちびが関わっているってことか)

表情には出さないまま、拓の心では疑惑が確信へと変わる。

「あんたいい男になるね。」

女性が拓に顔を近づけてその目を見る。

拓の思考する様をのぞき、それを見せない態度に感心したと言うように。

「あんたはいい女だな。」

その瞳を受けてひるむ様子もなく拓が言えば、女性はカウンター内を親指で指し示す。

「入るかい?」

試すような笑み。

「興味あるな。」

にやりと口の端を上げて、拓はその内側へと足を踏み入れた。


 カウンターの内側には大量の書類。

ギルドへ来た依頼内容の数々や冒険者の預けていった荷物。

消耗品や販売している薬草や武器。

その他にも、それぞれのギルドの受付マスターの趣味で色々な品揃えがあったりする。


 カウンター内の狭い扉の奥には小部屋があり、カウンターよりさらに大量の書類やマップなどが置かれている。

少し大型の機械なども置かれており、机の上のパソコンはついたままになっていた。

「ティーネに関しちゃほとんど情報はない。密林と古城、原始的に近い暮らしをする人間が住んでる。驚くよう国さ、魔法も機械もない。」

パソコンを操作しながら女性は言う。


「そんな国だっていくらかはある。」

拓は言う。

「ドルエドはそうだったね。特に規制の厳しい国。」

女性が拓の頬に手を伸ばした。たばこを口に銜え、じっと拓の瞳を見る。

「シエンの戦士にお目にかかれる日が来るとは。」

笑って、女性は名残惜しそうに頬から手を離す。

短くなったたばこを、机の上の灰皿に押し付けた。


「で、何が欲しいんだい?」

女性は机を背に、両手を机の端にかけ、浅く腰掛けるように寄りかかる。

短いシャツのすそからへそがのぞいた。

「あんたの持ってる情報もの全部。」

瞳の奥の意識を探るように、その瞳をのぞいたまま、拓は笑って女性に近付いた。

机の上に押し付けるようにして、その両手をふさぐ。

「欲張りだね。金はあるのかい?」

笑って、余裕を見せるように女性は拓を見上げる。


「対価は金だけか?」

その顔に、自分の顔を近づけて拓は言う。

じっと触れ合うような近さで見つめ合い、先に目を逸らしたのは女性の方だった。

「生意気な子供だね。」

頬を染めて女性は言う。

「俺が子供に見えるなら、油断しすぎと忠告する。」

押さえつける両腕に力を込めて、拓は言った。

「わかったよ。渡してやるから、……力を弱めな。」

拓に向き直り、困ったように女性は笑った。


**********************


 女性の持っていた情報は、『ヒガの殺人鬼』という男についてだった。

シエンの戦士である黒鬼と黒獅子を恨み、追っていると。

その男の過去に、黒鬼に殺されたという父親、青い刃の剣を振るったという男についても、女性は簡単に説明してくれた。

『ヒガの殺人鬼』は、『黒鬼』への復讐のためにシエンの里を目指すだろうと。

そして、そのヒガの剣士が今までユートラスに居たという事も女性は教えてくれた。


 ユートラスという国。

軍事に重きを置き、周囲の国を取り込もうとする動きのある不穏な国家。

何年かに一度はその国の周りで緊迫した空気が続く。

シエンのあるドルエドは直接ユートラスと隣接はしていないが、同盟国家であるフェードやアルバドリスクという隣国がそのユートラスとの境を持っていた。

つまり、そのどちらかが攻め込まれるような事態になれば、ドルエドも黙ってはいられない。


「ユートラスが『双陣剣そうじんけん』って剣を探してるって聞いたよ。なんでも死者を動かす力を持つ古代の剣なんだとか。『ヒガの殺人鬼』って奴が壊れた『双陣剣』を持ってたらしいんだけど、それじゃ使えないってわかって、解放したらしい。古代の剣を使うには相当の技術が必要だ。その『殺人鬼』極限まで鍛えられたと見て間違いないね。」

女性はたばこをくゆらせる。

「古代の書物の解読で、『双陣剣』ってのは二振りあるらしいってことが、最近わかった。そしてこれはまだ推測の段階だが、『ヒガの殺人鬼』って奴はそのありかを知っている。ユートラスはそいつが『黒鬼』と戦うためにもう一本の剣を手に入れるだろうと思って、逃がしたのさ。」

パソコンの操作を終え、女性は拓に向き直った。


 しかし、拓は儀礼からのメッセージで、すでに『ヒガの殺人鬼』を無力化たおしたと判断した。

その男がシエンに攻め入る危険性はないだろう。

でなければ、儀礼は『蒼刃剣』を持ち主に返すというような表現は使わない。

「狙われる危険があるからシエンに置くな」とは言うかもしれないが。

そして、ここで一つ拓には疑問に思うことがある。

蒼刃剣あおいやいば』と二振りの『双陣剣ししゃのつるぎ』だ。

その両方が『ヒガの殺人鬼』に関係している。

『そうじんけん』。これはもう、決定でいいだろう。

ユートラスに狙われている剣というのは、獅子倉の道場の倉庫にある『ソウジンケン』と呼ばれる剣のことだと。


「ありがとう、おネーさん。いい情報もらったよ。」

「おいおい、もらい逃げかい?」

狭い部屋を出ようとした拓を女性が見咎める。

「足りないか?」

「儲けがなきゃな。」

振り返る拓に新しいたばこに火をつけて、女性は笑う。

「そうだな、なら、蜃気楼の情報を売ろう。あいつは女には甘い。」

くすくすと拓は笑う。

「事実か? 蜃気楼の情報はほとんど出回らない。出てもあっという間に書き換えられて、どれが真実かわからなくなる。幻のSランク。」

偶然か、白い煙が宙にSの字を描く。

「事実だな。見て分かるだろ、俺はシエンだ。蜃気楼が生まれ育ったのもシエン。信じてもらうしかないがな。」


 黒い瞳を示して拓が言えば――、

「いいよ。その情報なら、釣りが来る。」

にやりと女性が笑った。確実に、どこかに売るつもりだ。

「なら、また何かあったら流してくれ。」

女性にそう告げて、拓はその小さな部屋を出た。

ここはユートラスの南に位置するスロススという国。

小さな国のため、すでにユートラスの支配の手が所々に伸びている。

その代わりに、閉鎖国家でもあるユートラスの情報が手に入りやすい国でもあった。


 物が大量に置かれたギルドのカウンターから、拓は配布用のチラシを何枚かもらう。

(儀礼への刺客が女ばかりになったとしても、感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない。)

黒い笑みを浮かべて、拓はそのギルドを後にした。


 ユートラスという軍事国家が、『蒼刃剣』を狙っているのだとしたら、それを村に置いておくのは危険だった。領主の子として、それは許容できない。

かといって、適当に売り払い、それをユートラスが入手したとなってはシャレにもならない。

言われて動くのは物凄く不本意だったが、拓は蒼刃剣を、憎い儀礼の元へ届けることを決めた。



******************



 拓がスロススの冒険者ギルドを出て数分後、『蜃気楼』のデータに新しい情報が書き加えられていた。

それは『女好き』。


「まぁ、いいや。」

パタンと儀礼はノートパソコンを閉じる。

以前出回ったデータを思えば、これ位は許容範囲だった。

むしろ、ずっといい。

儀礼は誰も居ない研究室で一人頷く。


 『蜃気楼』趣味:女顔


「誰か消せよ……」

いまだ消えない間違った情報に、儀礼は声を湿らせる。

儀礼が何度やっても消えなかった。

あちこちに流されすぎていて、見かけるたびに『趣味:読書』に書き換えるのだが、追いつかない。

なぜ、それが流れるんだ。

さっさと『女好き』に書き換わってくれた方が、儀礼の精神面は穏やかになれる気がした。

拓、お前はまた、どこで何をやっている。

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