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ギレイの旅  作者: 千夜
第2章 冒険者
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第10話 ギルドの初仕事

「せっかく冒険者登録したんだから仕事してみようぜ!」


 獅子の言葉に意気揚々とギルドへと入る二人。

 一人は金髪に白衣の少年、儀礼。もう一人は黒髪に黒い瞳・黒い服を纏う、背の高い少年、獅子。

 珍しい色合いは薄暗いギルドの中でもとても目立った。


「どうした、坊主たち。仕事の依頼か?」


 がたいのいい男が受付の中から二人に声をかける。


「いや、前の町でライセンスとったから仕事請けたくてきたんだ」


 獅子がひじをつくようにカウンターに乗り出して言う。


「なんだ、初めての仕事か? 子供にもできるような仕事は今日はあったかなぁ」


 がさごそとファイルをめくる受付の男。


「ああ、お前にぴったりなのが一枚あるぞ」


 男が含み笑いをしながら、一枚の紙を出して見せた。カウンターに出された紙を獅子と儀礼は覗き込む。


「なっ――!!!」


 その紙を見た途端、儀礼は悲鳴のような声を上げた。


「なんだよこれ」


 今度は声を控えて儀礼は叫びを上げる。


 *********************

 依頼内容:人物捜索

 依頼元:ドルエド国 シエン村 タク・タマシロ

 難易度:E

 目的:保護と依頼元への連絡

 報酬:¥300

 対象:

 名前:ギレイ・マドイ

 年齢:15

 性別:男

 特徴:短い金髪・茶色の瞳・色つきの眼鏡・白衣・銀色の車

 条件など自由記述欄:

 迷子の呼び出し。

 ギレイ・マドイという15歳の少年が、友人と一緒に迷子になっております。

 お近くでお見かけの方は至急確保の上、最寄のギルドまでお知らせください。

 *********************


「拓ちゃんめっ。迷子って何だ、迷子って! 報酬三百円って子供の小遣いか!!」


 儀礼が顔を真っ赤にして依頼書を握りつぶす。

 ゲラゲラゲラ、と獅子が腹を抱えて笑い出す。


「え、なに? あの迷子いたの? あんたたち?」


 長い茶色の髪を右肩で一つに結んだ女の人が近付いてきてカウンターに立つ二人を見比べる。


「ふぅ~ん、それ、お友達のいたずら?」


 くすくすと女性は笑った。

 ああ、あれ。いたの? と、酒場部分のあちこちから笑い声が聞こえる。


「うう」


 悔しそうにいじける儀礼と、まだ笑っている獅子。


「ああ、そうだ。それなぁ、同じような依頼がもう一件出てるんだが、手違いかなんかかな?」


 受付の男が紙をもう一枚出す。

 依頼の出された日付は同じだが、出された場所と依頼者が違う。


「これは……管理局から?」


 途端に真剣な顔になる儀礼。

 依頼元は管理局。ギレイ・マドイ本人を近くの管理局へ連れてくるようにと書かれている。


「管理局がわざわざギルドに依頼するとは思えないんだがねぇ。ランクもEで、報酬もほら、たった五千円だ。そっちの依頼がなかったらこっちの方がいたずらかと思うだろ」


「いえ、二枚ある方がよっぽどいたずらな気がします」


 儀礼は言い切り、二枚の紙をカウンターに置く。


「でも依頼は依頼ですよね。請けたら仕事として成立して、報酬ももらえるんですよね」


 確認するように儀礼が言う。


「ああ、もちろん」


 笑いながらも受付の男が言う。


「じゃぁ、獅子。パーティーとしてこの仕事請けちゃおうよ。パーティー実績になるし」


 冒険者登録初日に二人とも二件の仕事を成立、完了させたことになる。


「おう。おじさん、手続き頼むよ」


 獅子が貰ったばかりの冒険者ライセンスを渡しながら言う。


「よしよし、ちょっと待てよ。おお?! お前取ったばかりなのにDランクなのか。やるなぁ」


 男が獅子の腕を小突く。


「んん? パーティーランクCだって、ばかな。偽造じゃないよなぁ?」


 男がライセンスを裏にしたり表にしたり、光に透かしてみたりしている。


「偽造じゃないですよ。確認するのはこの機械です、おじさん」


 儀礼が背伸びしてカウンター内の機械を指し示す。


「ああすまん。うん、本物だな」


 うなずく男に儀礼が言葉を返す。


「僕だってびっくりなんですよ。なんか獅子がすごい事やったみたいで」


「そうか。ほらよ。登録は済んだから、依頼をクリアしたらどこのギルドでも完了の手続きして報酬が貰えるぞ」


 男からライセンスを受け取り獅子は大事そうにポケットにしまう。


「ああ。俺はどんどん仕事こなしてどんどんランク上げるつもりだからな」


 両腕で拳を握って獅子は言う。


「勇ましいなぁ。でも、お前武器は?」


 見たところ、獅子は短剣も長剣も弓も持っているようには見えない。

 ギルドに仕事を請けに来たのならなおさら武器を置いてきたということはないだろう。


「一応たいていのは使えるんだけど、男なら素手かなと」


 きょとんとした表情で男を見返す獅子。


「いや、使えるんなら持ってた方がいいぞ。ちゃんとしたのでなくても、例えば既製品の安いのならギルドでも扱ってるし」


 男はガタゴトと、カウンター下から今度は短剣を取り出した。


「それに、明日にはちょっと先の町で剣の大会があるんだぜ。飛び入り参加歓迎だ。中にいるやつも何人か出るぞ 」


 男がカウンター横に積んであるチラシを一枚ずつ二人に手渡し、酒場の方を示す。


「短剣か、確かに武器はあってもいいかなぁ」


 チラシにさっと目を通して、武器を手に取って見る獅子。持ってみるとなんだか軽い感触だが、ないよりはある方が戦い方が広がりそうだ。


「獅子、お金持ってないこと忘れてないよね?」


「あ」


 儀礼の言葉に我に返る獅子。

 獅子は儀礼の貯金から生活費を出してもらっているのを思い出した。


「それに、短剣位なら僕が持ってるから使うなら貸すよ」


 そう言って儀礼は白衣の背中部分から刃先の三十センチ程あるナイフを取り出した。

 もちろん鞘に収まっている。

 その一瞬、ギルド中の視線が儀礼の背中に集まった。


(((今、どこから出した?!)))


 細身に見える少年の、白衣の下にあのナイフが入っていたのなら、ほとんどの者が気付いたはず。

 小さな剣とは言え、誰にも気付かせずに、少年はギルド内に武器を持ち込んだことになる。


 二枚の捜索依頼の手配書がただのいたずらではない、と思われるには十分な衝撃だった。

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