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やまあらしと嘘

作者: 菜麻華門
掲載日:2010/12/12



やまあらしのジレンマ



っていう言葉をどっかで聞いた。




やまあらしが寒さをしのぐ為に仲間とくっつくけど

身体の針のせいで仲間を傷つけちゃうんだって。




じゃあ身体に針の無い私達は相手を傷つけずにすむんだ。




ふとそう思ったけど、どうやら違うみたい。



私達に針は無い。

少なくとも物質的な物としては。



でも私達には言葉があり、複雑に構成された感情がある。

それが時として針と同じような役目を持ち相手を傷つけてしまうと

最近分かってきた。



人間がいつからか言葉を持ち感情を持ち始めたか

知らないけど調べる気にはならなかった。


言葉っていうのは相手に自分の意思を伝える為に必要だし

言葉があるから私達はここまで進化できたに違いない。



でも言葉を持つ事が良い結果をもたらすとは限らない。


少なくとも、私には。




その頃、私はやたらと嘘をついていた。


初対面の人や周りの子。時には友人や、家族まで。

嘘をつくことが悪いことであることは良くわかっていた。


でも嘘をつくと罪悪感とバレるリスクと一緒に

現実よりもはるかに輝いた世界と恍惚感を得られた。


現実の世界が味気ないことはきっと誰もが知っているはずだ。

嘘という名の言葉によってつくられた世界で生きるほうが

幸せだと私は思う。


実際私は平凡な世界で平凡な暮らしをしている平凡な人間だけど

嘘をつくことで皆の興味を引き、輝けることを知った。



私は小学校でその癖が始まった。

その頃の私の嘘は酷く不安定で、いくら小学生でも皆嘘であることに気づいた。

その嘘はあまりにも現実から離れすぎていたからだ。

「嘘つき」と言われたが私の癖は治らない。

なんで皆現実の世界から離れようとしないのだろう。

私は不思議に思った。


中学校では私はクラスの中でいじめられていた。

そのいじめっ子はクラスからの嫌われ者だったが、

私をわざと友達にして嫌われているという事実を隠そうとしていた。

悲しいことに、私はその子がいなければ学校で

生きていくことは出来なかった。

ボールをぶつけられ、苛々してれば怒りをぶつけられた。

その子の機嫌を常にとるのは嘘しかなかった。

その子は馬鹿だから私の嘘を信じていた。

いつの間にか私の嘘は完全なものへと確実に構築されていたのだ。


私はその子に

「クラスの男子があなたのこと話してたよ」

「〇〇君、あなたに気があるらしいよ」

という女子なら自惚れてしまう嘘から

「〇〇ちゃん、あなたの悪口言ってたよ」

「私があなたの悪口誰か言ってないか盗み聞きしてあげる」

という彼女の怒りを私以外の誰かに向ける為の嘘まで

中学校を生き延びる為に色んな嘘をついてきた。


彼女はいつも私を馬鹿にしていたけれど、

馬鹿にしてる私の嘘に騙される彼女のほうが馬鹿だと思った。



高校に入るとそんな彼女とも別れを告げ楽しい日々が待っていた。

私は皆に好かれた。嘘をついているから。

つまらない現実より嘘で着飾った私に皆好感を持ち楽しんでいた。

友人でもかまわずに私は嘘をついた。

私の嘘に笑ってくれる友人に愛おしさを感じ始めていたのだ。

それと同時に私を信用する人間が馬鹿だと思った。

こんなに簡単に騙され、信じるなんて。


そんな日々をおくっていた私は恋をした。

その人はとても素直で率直で、私とはまるで正反対だった。

そこに魅かれたのかもしれない。


私はその人が本当に好きで、その人の前では正直であろうと思った。

しかしその人は嘘だと思えるぐらいの人生を過ごしていて

嘘をつかずに現実よりも色味のある世界に生きているなんて。

私は動揺した。


そしてその人の世界に踏み入れる為の嘘をついた。

その人は信じた。

もはやこの時の私の嘘やそれに伴う演技は役者並みだった。

蜘蛛の巣のように張り巡らされ逃げられない私の嘘は

完全にその人を捕らえていた。



あぁ嘘はなんて便利なのだろう。


私はつくづく関心した。



でも嘘だけで構築された世界にいると現実が時々入り込んでくる。

その度に私の胸の奥にある何かの塊が重みを増した。


そして正直に生きようと思い始める。


だけど嘘を作り出す何かがその考えを食い破り

またいつもの私になるのだ。


私の嘘はどんな針よりも鋭くて硬く

どんな人間の心にも抵抗なく刺し、血を噴き出させ、傷を残す。



そんな私はやまあらし。


嘘をつく、やまあらし。


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