思い出の君と
***BL*** ずっと忘れられない人がいる。ハッピーエンド
君は今、何をしているのだろう。
高校生の僕達は、大人のフリをした子供だった。
同性だけの学院で。君はいつの間にか僕の側にいた。
どうして好きになったかは分からない。
休み時間の度に君の教室に行った。
寝ている君の一つ前の席に座り、君の側にいた。
君の心は分からない。
でも、君の好きな人は知っていた。
相手は僕の一番の友達って言ったよね。
その時には、僕はもう君の事が好きだった。
あれから随分時間が経って、僕はどちらが告白したかも分からない。
多分、僕が君を諦める為に思いを伝えたんだろう。
君の家に行く為に、海岸線のバスに乗って行った事。
君がトマトとナスのミートパスタを作って、ご馳走してくれた事。
お母さんが亡くなった話しをしてくれた事。
今でもちゃんと、覚えている。
一緒に乗った電車。
僕の家に来て、玄関横の僕の部屋で、ストーブの明かりだけで愛し合った時間。
文化祭で、君に頼まれて吹奏楽部の手伝いをした事。
あの時、君は指揮者で僕は打楽器を手伝った、、、。僕の演奏はどうだったかな?
君はみんなを取り纏めるのに一所懸命だった。僕は片付けをしながら、君と話しも出来なくて淋しかった、、、。
最後に一緒に帰れると思ったけど、君は吹奏楽部で集まり、部外者の僕はどうしたら良いか分からず、先に帰った様な気がする。
そう言えば、君の好きなあの人も吹奏楽部だったね。
そして君が、「やっばりアイツが一番好きだ」と言った事。
断片的な思い出が、今も僕を苦しめる。
高校を卒業して、君は高校時代の友人と同居を始めた。正直羨ましくて泣けた。
しかも、その友人は君の一番好きな人では無かった。
僕もその友人と知り合いで、トラブルが起きた。
君に、「俺の友達を苦しめた」と言われ、僕は君に嫌われた。本当は僕にも言いたい事があったけど、君を忘れたい僕は、言い訳をしなかった。君に嫌われて仕舞えば、僕がどんなに君に会いたくても、連絡する事は出来なくなる、、、。
*****
でも、、、本当は今でも君が好きだ。
高校を卒業して、新しい恋人が出来るまで君を忘れる事は出来なかった。
何度君に連絡を取りたかったか、分からない。
その度に、君に酷く嫌われた事を思い出し、諦める事が出来た。
君に嫌われて良かった。
君を諦めきれない僕は、今だに君を求めている。
恋人が出来ても、6月と12月には君を思い出す。
5年経っても、10年経っても、20年経っても君を思い出してしまうんだ。
スマートフォンの地図検索で、君の家を探す。
高校の最寄駅からバスに乗り、海岸線を走ったのは覚えていた。
免許を取って、車でドライブに行った事もある。
君の降りるバス停のすぐ側には、スーパーがあって、僕はそのスーパーの駐車場でUターンして帰るか、その先までドライブして、遠回りをして帰っていた。
でも、一度も君に会った事は無かった。
今では、あのバス停の名前もうろ覚えだ。
*****
君と別れた後、何人か恋人がいた。
幸せな時も辛い時もあった。
最後に付き合った人と一緒になり、遠い場所に移り住んだ。
もう、君と会う事は無いだろう。
偶然すれ違う事があっても、お互い分からないと思う。
君の好きな場所がテレビから流れて来ると、行ってみたいと思うくせに、一度も行った事は無かった。
*****
最近、パートナーと上手くいってない。
上手くいかないと言うよりは、お互い空気の様な存在で、各々好きな生活を楽しんでいる。
家族ってそんなものじゃ無い?
と言われた。
自分だって、自分の生活を乱されたくないくせに、触れ合う事が無くなった事に淋しいと思い、一人でフラフラと出掛けて来た。
紫陽花寺
そうそう、そんな名前だった。
本当の紫陽花寺は、駅から少し遠い。
何と無く電車に乗り、何と無く来てしまった。
駅前の小町通りを歩く。
金曜日の雨の日。
少し肌寒くて、上着を持って来れば良かった。
彼と初詣に来たっけ、、、。
終電で待ち合わせて、八幡宮に行った。
帰りの電車がまだ走っていなくて、二人でファストフード店で時間を潰した。
高校生の僕達は、お小遣いも少なくて、温かい飲み物だけを買って始発を待った。
あの日も寒かったな、、、。
僕は小町通りを抜けて、八幡宮に足を運ぶ。
ゆっくりゆっくり回り、敷地内を散策した。
雨の6月は良いな、、、紫陽花が美しい。
朝早く来れば蓮の花も咲いていただろう、、、。
僕の中の時間が巻き戻っている。
胸がザワザワして、彼に会いたくて堪らない。
何故、彼に縋り付かなかったんだろう、、、。
「今、付き合ってるのは僕だよ」と泣けば良かった。
あんな別れ方をしないで、僕の話しを聞いて貰えば良かった。
全ては僕の所為だ、、、。
僕には我慢癖が付いていた。四人兄弟で、三番目の双子。母はいつもお金が無いと言う。
自分の欲しい物を遠慮して、我儘を言わず、良い子でいた。
広い広い境内を散歩して、長い長い階段を上がる。
お参りをして、お守りを見て、絵馬が下がっているのを見かけた。
お守りは要らないけど、絵馬は書いて行こうか、、、。
一枚購入して、願い事を考える。
はて、絵馬はどうやって書いたら良いのか、、、。
他の人の絵馬を見てみる。
願い事は人それぞれ。
学生は受験の事が多い。
恋愛事もある。
大人になると健康と平和。
どの願い事も応援したくなる様な物ばかり。
何だか、楽しくなって来た。
あ、、、
見つけてしまった、、、。彼の名前が書いてある。
嘘だろ、、、そんな偶然、、、。
懐かしい名前、、、。
彼も此処に来たんだ、、、。
少し大人っぽい文字になっている。
でも、高校時代の彼の文字を思い出す、跳ねや払いはあの頃のままだった。
俺も絵馬を書こう。この歳だから、健康かな?
願い事を書き、名前を書いた。
彼の絵馬の横に奉納した。
彼が見る事は無いと分かっているのに、気付いてくれれば良いなと思う。
*****
「うん、、、こっちで一泊するよ、明日の昼には帰る」
宿が空いていたから、泊まる事にした。
明日の早朝、蓮の花を見てから帰ろうと思う。
早い時間に朝食を食べた。
ホテルの風呂場で乾かした、折りたたみ傘も乾いている。
八幡宮は早朝から開放されていた。
蓮の開花時間には少し早かった様で、僕は散歩をしながら昨日の絵馬を見に行く。
長い階段は、昨日より辛く感じた。歳だな、、、と思いながら最後の一段を上る。
絵馬の前に人がいた。
昨日俺が下げた絵馬の前だ。
もしかして、、、
僕はそこに立つ人の顔を見たくて近寄った。
僕の絵馬に触れている。
「遥、、、」
地面に敷き詰められた小石が、ジャリッと音を立てた。
彼が振り返る。
高校時代の面影が少し残っていた。
「梶ヶ谷?」
彼は驚いた顔をしていた。
*****
彼に会って、僕の時間は戻って来た。
お互い大人になっている。
「蓮を見に来たら、時間が早かったんだ」
「車で来たのか?」
「電車。昨日紫陽花を見て、早朝の蓮を見たくて宿を取った」
「そろそろ咲き始めてるから、行ってみよう」
当たり障りの無い話しをしながら蓮池に向かう。
蓮池には他にも朝から見に来ている人がいた。
二人で静かに蓮を見る。
綺麗だった。
汚れの無い、咲きたての白い花びらに触れてみたい。
「遥、、、済まなかった」
「?」
何の事だろう、、、。
「俺が送った手紙、、、キツイ事を書いた」
「ああ、、、いいよ」
「、、、あの頃、アイツ、少しおかしくて。俺もアイツの話だけを信じた。手紙を出した後、ゆっくり話しを聞いたら、お前が悪い訳じゃ無かった、、、。でも、あんな手紙を出して、お前が読んだ後だと思うと何も出来なかった。せめて、お前から会いたいと言ってくれたら、俺はすぐに会いに行けたのに、、、ごめん」
「梶ケ谷、、、俺さ、、、ずっと、梶ヶ谷が好きだった。、、、でも、梶ヶ谷には俺より好きな人がいただろ?だから諦めた、、、」
「遥、、、」
「だって、俺以外の人の事考えてるの見ると、辛いじゃん」
何とか笑った。
「渡辺の事は叶わない恋だと思ってた。確かに好きだったけど、遥の事も好きだった」
「二番目にだろ?」
また笑ってしまう。良い子になりたい悪い癖だ。
「今日、休み?」
「そう、、、」
「また会えるかな、、、」
「ちょっと遠い所に住んでる」
「どこ?」
「電車で1時間半は掛かる所、、、」
「連絡先、交換したい」
「良いよ、、、」
彼がモーニングを食べようと言う。さっきは軽く食べただけだから、彼、お勧めの店をお願いした。
八幡宮の駐車場から彼の車に乗り、海岸線を走る。清潔感のある店の2階で、海を見ながらモーニングを食べた。
ゆっくりコーヒーを飲んで、彼に駅まで送って貰う。
「有難う。まさか会えるとは思わなかった」
「俺も、、、。また連絡する、、、その時はゆっくりデートしよう」
「分かった」
冗談だろうと思いながら笑った。
*****
家に帰るとパートナーはいなかった。昼には帰ると言ったのに、、、。
洗濯物はそのままになっていた。台所も洗い物が置いてある。
僕は洗濯をして、部屋を片付けた。
パートナーは夜遅く帰って来た。
「晩御飯は?」
「食べて来た」
連絡がつかないから、一応、二人分作ってあったけど、無駄だったな、、、。
こんな事は度々あった。もしかして浮気してる?そう思いながら聞けなかった。
「どこに泊まったの?」
「紫陽花寺の近く」
「へぇ、梅雨だもんな。紫陽花の季節か、綺麗だった?」
「綺麗だった。金曜日は小雨が降っていて、紫陽花に良く似合ってた。蓮も見頃だったから、一晩泊まって早朝見に行って来た」
「急に泊まるって言うからびっくりしたけど、良かったね」
「うん」
誰かと一緒だった?とか聞かないんだな、、、。
*****
夏の半ばに、パートナーに別れを告げられた。
多分僕達が異性で、結婚して子供がいたら、浮気をしても別れる事は無かったかも、、、。
だけど、僕達には子供がいない。他に好きな人がいるのに、僕と一緒に住む理由は無かった。
僕が外泊した辺りから、彼は僕にも好きな人がいると思っていた様で、遠慮が無くなって行った。
彼との事が落ち着かず、僕はどんどん疲れ果て、何もかもが嫌になっていた。
そんな時、梶ケ谷から連絡があった。
「元気?あの日以来だな」
僕はその優しい声に涙を流した。
「どうした?大丈夫?」
優しかった。
僕はポツリポツリと全てを話した。
「疲れたよ、、、」
と言うと、梶ヶ谷は静かに聞いてくれた。
「引越しするのか?」
「一人にこの部屋は広過ぎるから、、、出て行くなら、僕の方かな、、、」
「そうか、、、」
「今までは、相手の職場の近くに居たんだ。今度は、自分の職場の近くにするよ」
「落ち着いたら飲みに行こう」
そう言われて、少し元気が出た。
*****
冬前に、職場の近くに引っ越した。小さなマンション。家賃は程々に高かった。
インターホンが鳴り、エントランスの鍵を開ける。
玄関のインターホンが鳴り、扉を開けると梶ヶ谷がいた。
「いらっしゃい」
「はい、お土産」
「駅から遠かったでしょ?」
「でも、タクシー使ったから」
「そっか」
「引越し、お疲れ様」
と言って、買って来たビールとツマミを出した。
「ありがとう」
僕はビールを冷蔵庫に入れ、冷やしてあった方を出す。
梶ヶ谷は二月に一回飲みに来る。
マンションの駐車場を借りて、車を停め、一泊して夕方帰る。
車の運転が好きらしく、長時間の移動も苦では無いらしい。
僕の家に遊びに来る様になり、一年が過ぎた頃。梶ヶ谷は台所に立つ俺の後ろから、寄り掛かって来た。
「梶ヶ谷?」
「ごめん、ちょっと、、、」
梶ヶ谷はいつも自信有り気で、こんな彼は珍しかった。
「ちょっと待って」
手を洗い、梶ヶ谷と向き合う。
「はい」
と言って、受け入れ態勢を作ると、彼は僕に抱き付いて来た。
何か嫌な事でもあったのか、悩み事でもあるのか、取り敢えず抱き締める。
「遥は優しいね、、、」
「そうかな?」
「優しいよ、、、」
僕は抱き締めた彼の背中を摩る。
暫くして、ちょっと元気が出たのか
「お風呂借りて良い?」
と聞いて来た。
「良いよ、入っておいで」
最近では、彼専用のバスタオルとパジャマが置いてある。
僕は洗い物の続きを始めた。
スマートフォンを弄りながら酒を飲む。
テレビはもう点けない。ニュースもスマートフォンで分かるし、ドラマや情報番組にも興味が無い。
梶ヶ谷と入れ替わりに僕も風呂に入る。
梶ヶ谷は冷えたビールの後、ワインを飲んでいた。
僕は冷蔵庫から酎ハイを取り出す。
隣に座ると自然に肩に寄り掛かって来た。
そうそう、梶ヶ谷は昔からこんな所がある。
僕ならこんなに自然には出来ない。手を握るだけでも緊張しちゃいそうなのに、身体が密着していても彼は平気そうだった。
「見合いを勧められてるんだ」
僕は、梶ヶ谷のグラスにワインを注ぐ。
「父親は無理に受けなくても良いと言ってくれた。でも、叔母がしつこくて、、、。いつまでも独り身なんて心配だって言うんだ」
「梶ヶ谷、恋人は?」
そう言えば、聞いた事無かったな、、、。
「いない、、、最近は仕事も忙しいし、興味無かった」
梶ヶ谷が抱き付いて来た。
「俺は嫌だよ。興味が無い女と会っても上手くやれないし、初めから断るのが分かっていて会うなんて、面倒臭い。見合いの為に時間を取られるのも嫌だ」
「浮かない顔の理由はそれだったんだ」
「、、、キスしよう」
「え?」
「遥とキスしたい」
急に男の顔になり、梶ヶ谷が迫って来た。
「ちょっと、、、どうしたの?」
僕の手からグラスを取り上げ、テーブルに置く。
「遥、、、」
近い近い近い!
僕は近過ぎる梶ヶ谷から、少しでも距離を置こうと身体を下げる。
梶ヶ谷が覆い被さる様に迫って来た。
僕の顎をクイっと持ち上げ、上を向かせる。
つい、唇が開いてしまった。
そこから、梶ヶ谷の熱いキスが始まり、僕の頭は酒と風呂と梶ヶ谷のキスでクラクラしていた。
「俺とのキス、、、どう?」
「、、、どう?、、、とは?」
梶ヶ谷は僕の瞳を見続ける。
「あの、、、上手でした」
瞬間表情が柔らかくなった。
「どういたしまして」
そして、もう一度キスをする。
今度は遠慮の無いキスだった。
何年もキスをしていなかった僕は、身体の奥がゾクゾクして、自分自身が何も経験の無い少年の様だと感じた。
梶ヶ谷はそっと手を差し入れ、脇腹を触る。
「あ、、、」
と出た声に自分で驚き、顔が赤くなって行く。
「、、、感じる?」
キスをしながら聞かれて、恥ずかしくて顔を背けると、彼はもう一度耳の側で
「感じてる?」
と囁いた。
*****
やってしまった、、、。
とは、言え。僕も大人の男だし。梶ヶ谷とは高校生の時、少しだけど恋人同士の経験もあったから、、、。と開き直る事にした。
「ねぇ、、、」
「お早よう」
「遥はさ、、、」
「ん?」
「遥は、、、朝ご飯食べる?」
梶ヶ谷は、本当に聞きたい事を誤魔化した。
本人が言えないなら、僕も強くは聞き出せない。
「朝ご飯作るよ」
そう言って、ベッドを出た。
***************
俺はあの手紙を出してから、ずっと後悔していた。同居していた友人の言葉を信じて、遥を責める手紙を書いた。
友人はその頃、実の家族や職場と色々有って、家から出られない状態だった。
一度聞いただけではよく理解出来なかった話を、後からゆっくり時間を掛けて聞き出すと、遥が悪い訳では無かった。
俺の早とちりで、酷い手紙を書いた。友人の気持ちにばかり影響されていた。
でも、手紙は投函してしまった。
もう、遥の元に届いて読んでいるだろう。
毎日毎日、手紙を受け取った遥の事ばかり考えていた。
もし彼が、俺に会いたい、会って話しを聞いて欲しい、と言って来れば、俺はすぐに会いに行く気だった。
でも、彼から連絡は無かった。
それから一度も連絡を取っていない。
ずっと忘れ切る事が出来ないまま、彼と再開した。八幡宮で、彼の絵馬が俺の絵馬の横に奉納してあるのを見つけた時、時間が巻き戻った気がした。
大人になった遥に名前を呼ばれた時は、何が起きているか分からなかった。
それから時間を掛けてここまで来た。
彼が彼氏と別れ、一人暮らしを始めた時は嬉しかった。
本当は一緒に暮らしたかったけど、俺達は離れ過ぎていた。
少しずつ距離を詰め、会う回数を増やそう、彼を大事にしようと思った。
でも、遥は優しいだけで、友人以上になろうとしない。
一緒にいると楽しいし安心するのに、俺と彼の間には一本の線が引いて有って、それを決して超えて来ない。
このまま友人でいたいのか、、、。それとも一線を超えたがっているのか、分からなかった。
叔母が見合い話しを持って来たのは本当だ。
だから、彼に相談してみた。
願わくば、「見合いなんて辞めてくれ」と言って欲しい。
それなのに、まさか恋人の存在を確認して来るとは、、、。
そして強引に彼の気持ちを確認した。
キスは受け入れてくれた。
その先も、最後まで出来た。
それなのに、俺は一番大切な
「俺の事、好き?」
が聞けなかった。
高校生の時、付き合っていた遥に
「やっぱりアイツが一番好きなんだ」
と言った。それは確かに本当で、決して遥を傷付けたい訳では無かった。
「アイツが一番好きだけど、遥を一番大切にしたい」
それが俺の気持ちだった。
でも、遥はその後、俺から静かに離れて行った。
大学受験も重なり、俺達は離れ離れになった。
その所為なのか、俺は遥に、俺の事が好きか聞けなかった。
もし、この会えなかった時間の中で、俺より好きな人がいたのなら、、、。
「僕が一番好きなのは、梶ヶ谷の次に付き合った人なんだ」と言われたら?
怖くて聞けなかった、、、。
***************
結局、梶ヶ谷はお見合いに行ったんだろうか。
僕は梶ヶ谷に「行かないで欲しい」とは言えなかった。
彼は定期的に泊まりに来てくれるけど、一度も僕を好きとは言わなかったし、僕も彼に好きと言うつもりは無かった。
彼と再会出来た。それだけで良いじゃないか、、、。
「お見合いに行く事になったよ。12月。2週目の土曜日」
「え!それって、、、」
「そ、俺の誕生日」
「そっか、、、それじゃあ、その日は会えないね」
「多分」
「じゃあ、誕生日は別の日にお祝いしよう」
「ごめん」
梶ヶ谷の所為じゃ無いのに、、、。
梶ヶ谷の見合いの日、僕は朝から何も出来なかった。買い物に行く気力も無かった。週末で冷蔵庫には酎ハイだけ。
カシュッ!
昼前に酎ハイを開ける。コップに注ぎ、一気飲み。
今頃ホテルに向かっているのかな、、、。
お見合いは一時からって言ってた。
相手はどんな人だろう。
ゴクゴクと飲んでしまう。
新しい缶を開けて、また注ぐ。
もし、お見合いが上手くいったら、もう此処には来ないのかな、、、。
僕は酎ハイのロング缶を2本開けて、ダウンした。
*****
遠くで目覚ましが鳴っている。
僕はスマートフォンに触れる。
また、目覚ましが、、、ん?違う、通話だ、、、。
あ、、、間違えて切ってしまった。
ぼんやりと確認すると、梶ヶ谷から何度も着信があった。
と、また着信。
「もしもし?」
「遥?大丈夫?」
「、、、気持ち悪い」
「今、下に来てるから開けて」
と言うと、インターホンが鳴った。解錠ボタンを押す。玄関に行き、チェーンを外して、鍵も開けておいた。
ダメだ、、、。そのまま玄関に横になる。インターホンが鳴っている。玄関、、、開いてるよ、、、。
ガチャ、、、
「遥?」
僕は動けない。
「遥!」
「うー、、、」
「大丈夫か?」
と言いながら起こそうとする。今、、、動かさないで、、、。
「吐きそう、、、」
梶ヶ谷は俺を跨いで部屋に入り、荷物を置いて部屋着に着替えた。
「ごめん、大丈夫?トイレ行く?」
「大丈夫、、、もうちょっとこのままで、、、」
「水、持って来ようか?」
「、、、」
梶ヶ谷は台所に行って、冷蔵庫から水を出す。
「遥、水飲んで」
僕は何とか起き上がり、冷たい水を飲んだ。
脇にコップを置き、身体を支えてくれる。
「取り敢えず、ベッドに行こう」
梶ヶ谷は、僕をベッドに寝かせると暫く横にいてくれた。
*****
夜中に目が覚めると、梶ヶ谷が一緒に寝ていた。
まだ、胃がムカムカする。
台所に水を飲みに行く。コップに二杯。
シャワーを浴びて、もう一杯水を飲む。
「遥」
「梶ヶ谷、、、」
「気分は?」
「胃がムカムカする」
「そっか、、、」
と言って、手を引いて寝室に戻る。
布団に入り、僕を抱き締めながら
「何でそんなに飲んだの?」
と聞いて来た。
「うーん、、、梶ヶ谷のお見合いの事、考えてたらいつの間にか」
「、、、」
梶ヶ谷の腕の中が気持ち良い。
「お見合い、どうなったか聞かないの?」
「、、、どうなったの?」
「断られた」
「嘘、、、」
「ホント」
僕は梶ヶ谷を抱き締めた。嬉しいとも悲しいとも言えなかったから。
*****
キス、、、されてる、、、。
自覚した途端、覚醒した。
でも、言葉が出ない。
頭の中でぐるぐる考える。
後ろから抱き締められて、頸に唇を這わす彼、、、。
最後に僕を抱き締める腕に力を込めて
「遥、、、好きだ、、、」
と言った。
僕は答えた方が良いのかな?起きてるって分かったら、梶ヶ谷は恥ずかしがるかも、、、。
彼の手が、ゆっくり下がって行く、、、。
パジャマのズボンの中に入って来た手は、下腹部を温める様に触る。
僕は寝返りを打つフリをして、梶ヶ谷の方を向く。
「遥?」
僕は彼を抱き締める。
何て言おう。何て言ったら良い?
「僕も好きだよ」
普通の言葉しか出なかった。もっと気の利いた言葉が言いたかったのに、、、。
「本当に?」
僕は頷いた。
「俺の事、好きなの?」
「うん」
「ねぇ、、、好きって言ってキスして」
「えっ?!」
思わず、梶ヶ谷の顔を見る。
「誕生日プレゼント。ね」
と笑う。
いや、あのね?気持ちは分かるよ。でも、でもさ、、、。好きって言いながら、キスってハードル高いな、、、。
「お願い」
うー、、、
布団の中で僕を抱き寄せる。
額をくっ付けて
「ダメ?」
と言われた。
僕はそっと彼の頬に触れる。ドキドキして来た、、、。
「梶ヶ谷、、、好き、、、」
そっと口付ける。
「遥!」
ぎゃーっ!!!
梶ヶ谷が獣になってしまった、、、。
**********
プツリと理性が切れた音を聞いた。
構うもんかと思った。
彼の
「梶ヶ谷、、、好き、、、」
と言いながら、俺にキスした時の濡れた瞳。
彼の気持ちが流れて入って来た。
もう、それだけで良い。
俺の好きで、遥の身体を満たしたい。
俺だけを求めてくれ。
何度も何度もキスをした。
彼が息が出来ないとイヤイヤしても、止められない。
俺の指先に反応する、声、身体、匂い、、、。
触れる指先、掌に伝わる肌の感触、唇に触れる彼の全て、、、。
俺のモノにしたい。
名前、、、名前を読んで!貪る様に俺を求めて!
「梶ヶ谷、、、ダメ!、、、いっ、、、!!!」
「!!!」
二人の息遣いだけが響く、、、。
遥がモゾモゾと動き、そっと俺を抱き締めた。
「梶ヶ谷、誕生日おめでとう」
そして、キスをする。
「遥、、、世界で一番愛してる」
二人で、涙を流しながら抱き合った。
大人ですから、、、




