見えない1人
マグカップが・・浮かぶ?
種も仕掛けも御座いませんってな~。
杏奈も悪よのぉ、私にこんな怖い思いさせて。
「杏奈、いるんでしょ?凄いじゃん、これー。どういう仕掛けなの?」
返事はない。
スマートフォンの着信音で位置確認でもしてやる。
というか、なんだスマートフォンって。スマホで良いだろ、スマホで。あ、部屋か、スマホ。
急いで部屋に戻り杏奈に電話する。
可愛い着信音が今は少し不気味だな、と思った。
「もしもし~?どうした育ちゃん」
「杏奈、今どこに隠れてるの?もう充分驚いたから出ておいで」
私はなるべく冷静を装って杏奈に話す。
しかし返ってきた答えは求めていた答えでは無かった。
「今タクシーで帰ってる途中だよ~?ほら、車の音聞こえるでしょ~?」
「ヒュッ」
私の魂が抜けそうになった事は置いといて、杏奈じゃない?という事は・・?
私の第六感的な超能力的な何かが目覚めたのか・・?
「お~い、育ちゃん、大丈夫か~?」
杏奈の問いかけに我に返る。
「いや、大丈夫!なんでもない。お風呂入るから切るね。今日はありがとう。」
「あっ、ちょっと育ちゃ・・」
電話を半ば強制的に終わらせて、キッチンへ戻る。
「あれ?マグカップ何処いきやがった?」
マグカップが浮いていたはずの場所は空虚だった。
私は念の為、念じる。
(万物の神よ、八百万の神よ、我に力をー・・)
勿論何も貸してくれるはずもなく、私にそんな力もあるはずもなく時が経った。
・・・ああ!見間違いかあ~!そうだよね、頭打ったし!ちょっと錯覚?幻覚?見ちゃったんだよね、私!
そう納得させようとした刹那、目の前でカレー皿とスプーンが浮いた。
・・・。
(ほらやっぱり現実じゃーーん!何か悪い事しました私?私の能力が一人歩きしてるじゃーん?少年漫画にこういうのあったじゃーん!)
予想外の出来事に思考が追い付かない。
私はじっと皿の行方を追う・・。
やがてふわふわと浮かぶ皿とスプーンはキッチンのシンクへと向かった。
「あ、シンクにあるじゃん。マグカップ。」
その瞬間、蛇口から水が出た。
いや、正確には水が出た音がしただけだった。
そのまま見ていると、どうやら皿を持っている何か?は皿洗いを始める様だった。
ジャーと水が流れる音だけがする。
水は出ていないのに皿がキレイになっていく。
くるくると皿が回転して汚れが落ちていく。
・・不気味だ。
スポンジまで浮かび始めた。まさか洗剤まで?
そのまさか、洗剤を傾けて中身を出す動作をするが中身は出ない。スポンジを揉んで泡立たせようとするが、勿論泡立たない。
スポンジは皿を洗う動作をするが、汚れが落ちるはずがない。何故なら水も洗剤も使っていないのだから。
なのに。何故ー・・?
洗われた(正確には洗った素振りの)皿もマグカップもスプーンもピカピカになり今現在、空中でタオルに順番に拭かれている。
見えざる何かは皿洗いを終えて気配を消した。
私は怯えながらも空を手で切る様な動作をしながら、考える。
こういう時に小学生男児ならどう言うかな。
やはり、「デュクシ!」なのかな。
それとも「ズビシ!」かな?
ひとしきり辺りを手を振って回った後、私の息切れの音と冷蔵庫の無機質なブーンと鳴る音だけが鳴っていた。
この現象は一体何なのだろうか。
息切れが落ち着く頃には、恐怖よりも好奇心が勝っていたのだった。
敵意は無いみたいだった。プログラムされた様な無機質な動きで皿洗いをする何か?はまるで、誰かに命令されているかの様だったから。
「・・・とりあえずお風呂、かな。」
着替えとタオルを部屋から取り、風呂場へと向かう。
服を脱いだ状態で改めて鏡の中の私を見つめる。
先程食べたカレー爆弾の量を私の腹の膨張が物語っていた。
シャワーを頭から浴びながら考える。
先程の空中ふわふわ皿洗い事件ではなく。
杏奈の帰る場所についてだ。
(同棲してるって言ってたけど彼氏さん紹介されてないな、そういえば。)
(私と顔見知りじゃないって事なのかな)
(あんまり杏奈に頼ってたら彼氏さんに怒られちゃうかな・・)
正直、杏奈は女の私からしても孥級の可愛さだ。男なら100人中、100人が可愛いと言うだろう。
まあ、私は100人中、101人が可愛いと言うだろうけど。
得意のナルシズムを発動しながら髪と身体を洗い、ドライヤーを持って風呂場を後にした。
喉が渇いたな。
先程、親切な誰かさんが洗ってくれたマグカップを取る。冷蔵庫から麦茶を注ぎ、一気に飲み干した。
ぷはぁーっ。
五臓六腑に染み渡るねぇ。
風呂上がりにはやっぱり牛乳よりも麦茶。
間違いないな。
テーブルにマグカップを置き、部屋へ戻る。
(洗いたかったら洗っといてね)なんて心の中で考えながらドライヤーで頭を乾かす。
電気を消してベッドの中に入る。
どうせなら部屋の掃除とかしてくれたら良いのに。
そう言えば洗剤も使ってた様な気がするけど量が減ってなかったなとか考えてる内に私は深い眠りにつくのだった。




