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EP 6

重すぎる愛の供給(オート・リゾート発動)~その果実、時価数億円につき~

ポーンを「専属執事」として手なずけてから数日。

俺、ミルマ・クラウディアの生活は、前世の医師時代には考えられなかったほどのVIP待遇――いや、「神の座」に等しいものになっていた。

「うぅー(背中が痒いな……)」

ベビーベッドで寝返りを打ちたいと思った、その瞬間だった。

ゴゴゴ……ニョキッ。

俺の背中の下のシーツを突き破り、柔らかい若葉が数本生えてきた。

若葉は絶妙な力加減で、俺の背中の痒いポイントを孫の手のように掻き始めたのだ。

「あー……(そこそこ、上手い)」

さらに、日差しが眩しいなと感じれば、窓の外から蔦が伸びてきて、完璧な遮光カーテンとなる。

湿度が低いと思えば、ベッドの木枠から微細なミスト(天然アロマ成分配合)が噴射される。

これぞ、ユニークスキル**『植物愛』。

俺が何かを欲した瞬間、世界中の植物が全力を挙げて奉仕してくる「全自動快適システム(オート・リゾート)」**だ。

「……なぁマリア。また床から椅子が生えてきたぞ」

「今度はキッチンから最高級の野菜が勝手に歩いてきたわ……」

両親であるルークとマリアは、毎日ポルターガイスト現象に怯えている。

だが、元・簿記1級の俺からすれば、これほど合理的な生活はない。

(光熱費ゼロ、家具代ゼロ、人件費ゼロ。それでいてサービス品質は五つ星ホテル以上。……損益分岐点ブレークイーブンポイント? そんな概念すら存在しない、完全な利益独占状態だ)

俺は若葉に背中を掻かれながら、ニヤリと笑った。

この能力があれば、将来病院を経営する時、設備投資がタダになる。夢の「利益率100%経営」も夢じゃない。

その時、俺の腹時計が鳴った。

(腹減ったな。ミルクもいいけど、もっとこう、ビタミン的な何かが欲しい)

思った直後だ。

バリーン!!

迎賓館の強化ガラスが粉砕された。

「敵襲!?」

ルークが飛び起きる。

だが、入ってきたのは敵ではなかった。

一本の太い枝が、窓枠を破壊して侵入し、俺の目の前まで伸びてきたのだ。

その先端には、黄金色に輝く果実が実っている。

『ゴールデン・アップル』。

伝説の果実だ。一口食べれば万病が治り、魔力が溢れ出すという、市場価格にして一億を下らない代物。

それが、「お腹すいた」という俺の思考一つで、宅配ピザより早く届いたのだ。

『マスター、糖度25度の最高品質を確認。果汁にして提供します』

ポーンが枝から果実をもぎ取り、指先を変形させたジューサーで絞り始める。

「すごい……こんな貴重なものを……」

マリアが感嘆の声を上げる。

だが、その甘い香りに誘われて、部屋の外から招かれざる客が入ってきた。

掃除係のエルフの侍女だ。

「失礼します、ガラスの割れる音が……ひっ!?」

侍女は、ポーンの手にある黄金の果実を見て、目を血走らせた。

エルフにとって、ゴールデン・アップルは喉から手が出るほど欲しい至宝。しかも、世界樹が自ら差し出したとなれば、その価値は計り知れない。

侍女の視線が、床に落ちた「果実の切れ端(皮)」に釘付けになった。

(あれだけでも、売れば一生遊んで暮らせる……!)

侍女は掃除をするふりをして近づき、素早くその皮をポケットに入れようとした。

「ゴミを片付けますね~」と、不自然な笑顔を浮かべて。

――それが、彼女の運の尽きだった。

『――警告。窃盗行為を検知』

ポーンの声ではない。

部屋中の植物(観葉植物、家具、床板)が一斉にざわめいたのだ。

『ミルマ様の供物を! 泥棒! 泥棒!』

『殺せ! 肥料にしろ!』

植物たちの「怨嗟」が、物理的な音となって響く。

「え……?」

侍女が顔を上げた瞬間。

ズボォォォッ!!

床板から鋭利ないばらが飛び出し、侍女の手首に巻き付いた。

「ぎゃあああっ!?」

さらに、天井のはりが槍のように変形し、侍女の頭上から落下してくる。

殺意が高すぎる。泥棒一匹に対して、オーバーキルもいいところだ。

(おいバカやめろ! 部屋が汚れる!)

俺は慌ててポーンを見た。

ポーンは俺の思考を瞬時に読み取り、動いた。

ガシィッ!

ポーンが落下してきた木の槍を片手で受け止め、侍女への直撃を防いだ。

侍女は腰を抜かし、失禁しながら震えている。

『マスターからの慈悲だ。感謝せよ』

ポーンが冷酷に見下ろす。

『だが、次は無い。そのポケットの中身を置いて、即刻立ち去れ』

「は、はいぃぃぃっ!! 申し訳ございませんんん!!」

侍女は黄金の皮を床に投げ出し、這いつくばって逃げ出した。

部屋には、再び静寂と、植物たちの「ちぇっ、殺り損ねたか」という不満げな空気が残った。

ルークとマリアは、顔面蒼白で抱き合っている。

「ルーク……この国、やっぱりおかしいわ……」

「ああ……。世界樹の『愛』が重すぎる。そして、エルフたちの目が……怖すぎる」

俺もまた、冷めた目で逃げた侍女の背中を見ていた。

(あいつ、ただの出来心じゃないな)

侍女の制服のポケットには、すでにいくつかの「精霊石の欠片」が入っていたのが見えた。

おそらく、ポーンが俺のために出したリソースを、掃除のどさくさに紛れてくすねていた常習犯だ。

この国のエルフたちは、世界樹の恩恵を「自分たちの財布」だと勘違いしている。

ポーン(ATM)が俺に付きっきりになったことで、その「蜜」が吸えなくなり、焦っているのだ。

(今はまだ小物の盗みで済んでいるが……いずれ、もっと大きな力が俺を利用しに来る)

俺はポーンが差し出したゴールデン・アップルのジュースを飲み干した。

強烈な魔力が体中を駆け巡る。美味い。だが、後味が悪い。

「あーうー(このままじゃ、俺は一生『カモ』だ)」

俺はベビーベッドの柵を握りしめた。

両親を守るため、そして俺自身の資産(平穏)を守るため。

この腐敗した鳥籠の中で、俺なりの「派閥」を作る必要がある。

その時、部屋の扉がノックされた。

現れたのは、この国で唯一、俺が「話が通じるかもしれない」と睨んでいる人物。

「失礼します。……騒がしかったようですが、大丈夫ですか?」

軍服に身を包んだ鋭い眼光の男。

エルフ軍将軍、カイゼル・ヴェルデだった。

彼は部屋の惨状(割れた窓、隆起した床)を一瞥し、そして――

赤ん坊である俺の目を見て、ハッと息を呑んだ。

(……この赤子、今、私を『値踏み』したか?)

カイゼルの直感と、俺の計算が出会う。

エルフ国編、政治闘争の幕開けだ。

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