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EP 9

魔物の群れと、団地防衛戦 ~その動機、通販の受け取りにつき~

「緊急警報! 緊急警報! タロー・シティ北方の平原に、大規模なスタンピード(魔物の暴走)を確認!」

街中にサイレンと魔導放送が響き渡る。

マンモス団地の広場では、騎士団の装備に身を包んだ父ルークと、聖女の法衣を纏ったセーラ(リリスの母)たちが、慌ただしく出撃の準備をしていた。

「ミルマ、母さんと一緒に家で大人しくしているんだぞ。父さんはすぐに戻る」

ルークが俺の頭を撫でる。その顔は、優しきパパではなく、歴戦の騎士の顔だった。

「あなた、お弁当持ちました? リリスのこと、頼みましたよ」

セーラが夫の鍵田竜(勇者)に声をかける。

「ああ。……正直、今日は『可燃ゴミの日』だから家にいたかったんだがな」

竜はダルそうに愛刀(ホームセンターで買った高枝切り鋏を改造した魔剣)を担いでいる。

「まあ、さっさと片付けて定時で帰るさ」

彼ら主力部隊は、転移魔法陣を使って前線へと飛んでいった。

団地に残されたのは、引退した老人たちと、非戦闘員の母親たち、そして子供たちだけ。

静寂が戻った団地。

だが、俺のスキル『植物愛』は、風に乗って漂ってくる「死の匂い」を感じ取っていた。

『ミルマ様! 来るよ!』

団地の周りの植え込み(ツツジ)が、葉を激しく震わせて警告してくる。

『本隊から逸れた群れがこっちに来る! お腹を空かせたオークがいっぱい!』

(……やっぱりな)

俺はベランダから外を見下ろした。

スタンピードの恐ろしさは、統率を失った「はぐれ魔物」が、手薄な居住区を襲うことだ。

大人たちが戻るまで、あと数時間。

それまでにこの団地は、魔物たちのビュッフェ会場と化すだろう。

「……ポーン。戦闘準備だ」

『了解。右腕、殲滅モードへ換装』

俺はベランダを飛び出し、非常階段を駆け上がった。

目指すは、団地で一番高い場所――屋上だ。

***

屋上のフェンスを開けると、そこにはすでに先客がいた。

強風に金髪をなびかせ、腕組みをして仁王立ちする3歳児――リアン・クライン。

そして、キラキラした目で街を見下ろしているツインテールの3歳児――リリス・カギタ。

「……早いな、お前ら」

俺が声をかけると、リアンが振り返り、ニヒルに笑った。

「当然だ。俺の『偵察用マグナギア』が、オークの群れを捉えたからな。……数は約50。ここを潰すには十分な戦力だ」

「逃げないのか? 貴族のお前なら、シェルターに優先的に入れるだろ」

俺の問いに、リアンは心底嫌そうな顔で答えた。

「バカ言え。もしこの団地が破壊されたら、俺の**『ネット通販の登録住所(配送先)』**がなくなるだろうが」

(……そこかよ)

「住所変更の手続きは面倒なんだ。それに、今夜届く予定の『限定版フィギュア(転売用)』が受け取れなくなる。……だから、守る」

不純すぎる動機。だが、パラノイアの彼にとっては死活問題らしい。

「リリスはどうだ?」

俺が向くと、リリスはよだれを垂らしながら電卓(ガチャ景品)を叩いていた。

「えっとね、オーク一匹につき善行ポイントが500ptでしょ? 50匹倒せば……25,000ポイントォォォッ!!?」

リリスが天を仰いで絶叫した。

「SSR確定ガチャが5回も回せるわ! やる! 絶対やる! むしろ私の獲物を横取りしたら許さないからね!」

……頼もしい(狂った)仲間たちだ。

俺はニヤリと笑い、ポーンを前に出した。

「よし。利害は一致したな。俺たちの庭(団地)に土足で踏み込む礼儀知らずどもに、教育的指導を行うぞ」

「了解。……弾薬の請求書は、後で自治会に回すからな」

リアンが魔法ポーチから、物騒なボトル(ANFO爆薬)を取り出す。

「神様! 今日は『範囲攻撃』できるやつをお願いね!」

リリスがブレスレットに魔力を込める。

眼下、団地へと続く一本道に、砂煙を上げて迫るオークの集団が見えた。

棍棒を持ち、涎を垂らした醜悪な豚の怪物たち。

「……開戦だ」

俺の合図と共に、最強の幼児トリオによる防衛戦が幕を開けた。

***

「ブモォォォォッ! (人間だ! 柔らかい肉だ!)」

オークの先頭集団が、団地の敷地内に足を踏み入れようとした、その瞬間。

ヒュンッ!

上空から、リアンの操るドラゴン型マグナギア『竜丸』が滑空してきた。

その爪には、ネット通販のダンボール箱が抱えられている。

「配達でーす。……中身は『地獄』だけどな!」

リアンがコントローラーを操作。

ダンボールが投下される。

中に入っていたのは、硝酸アンモニウムと軽油を混合した、お手製のANFO爆薬。

ドガァァァァァァァン!!

強烈な爆発音と共に、オークの先頭集団が吹き飛んだ。

「ブギィィィッ!?」

「うわ、エグい威力……。通販の肥料だろ、あれ」

俺が引いている横で、リアンは冷徹に次弾を装填している。

「化学の勝利だ。……次は『弓丸』による狙撃部隊、展開!」

団地の各階のベランダに配置された小型マグナギアたちが、一斉にクロスボウを構える。

矢には、リアンが調合した「唐辛子エキス(激辛)」と「痺れ薬」が塗られている。

シュッシュッシュッ!

「ブモッ!? 目が! 目がぁぁぁ!」

オークたちがたうち回る。

「よし、足が止まった! リリス、今だ!」

俺が叫ぶ。

「はーい! 行くわよ必殺の10連ガチャ!」

リリスがポイントを全放出する。

「お願い! 魔物を一網打尽にするやつ!」

ゴゴゴゴゴ……ドサドサドサッ!!

虚空から大量に降ってきたのは――

『業務用 潤滑ローション(20リットル入り)』 × 10缶

「……は?」

全員の時が止まった。

ヌルヌルの液体が入ったタンクが、オークたちの足元に落下し、破裂した。

ビチャアアアアッ!

道路一面が、高粘度のローションで海になる。

「ブモッ!? ツルッ! ステーン!」

「ブゴッ! ズルズルッ!」

進撃しようとしたオークたちが、次々と足を滑らせて転倒。

起き上がろうとしても、ヌルヌル滑って立てない。

後続のオークが突っ込み、将棋倒しになっていく。

そこはまさに、オークの地獄絵図(ヌルヌル相撲大会)と化していた。

「……すげえ。ある意味、爆薬より凶悪だ」

リアンが戦慄している。

「あーん! 武器じゃないー! でも……結果オーライ?」

リリスがテヘペロする。

「よし、仕上げだポーン!」

俺は屋上の縁に立ち、両手を広げた。

スキル**『植物愛』**全開。

「団地の植物たちよ! あの不潔な豚どもを、俺たちの敷地から追い出せ!」

『はーいミルマ様!』

『臭い豚は嫌いー!』

ズゴゴゴゴゴッ!

団地を囲む植え込み、街路樹、そして各家庭のベランダのプランターから、植物たちが一斉に巨大化した。

枝が鞭のようにしなり、ヌルヌルで動けないオークたちを叩き、絡め取り、空高く放り投げる。

『排除! 排除!』

ポーンも屋上から、左腕の『ソラリス・バスター(光合成砲)』を構える。

『ターゲットロック。……最大出力、照射』

カッ!!!!

極太の熱線が、オークの群れの中心(まだ爆破されていない場所)を貫いた。

もはや、戦闘ではない。

一方的な蹂躙おそうじだ。

「ブモォォォ……(こんなの聞いてない……)」

最後のオークが、植物の蔦でグルグル巻きにされ、空の彼方へホームランされた時。

団地には、再び静寂が戻った。

***

「……終わったか」

リアンがゴーグルを外して汗を拭う。

「ふふん! 私のローション作戦、完璧だったでしょ!」

リリスが胸を張る。

「ああ。まさか物理的に足を奪うとはな」

俺は苦笑いした。

その時、団地の入り口から、老人たちが恐る恐る出てきた。

「おや……? 魔物の声がしなくなったぞ?」

「誰かが守ってくれたのかねぇ?」

彼らが見たのは、ヌルヌルだが傷一つない道路と、いつもより青々と茂った植木たちだけ。

屋上の俺たちは、すでに姿を消していた。

「……帰ろうぜ。母さんが帰ってくる前に、部屋に戻らないと」

俺たちは非常階段を降りた。

それぞれのポケットには、戦利品(魔石)と、大量の善行ポイント、そして「今日も通販を受け取れる」という安心感が詰まっていた。

だが、これで終わりではない。

この騒動で、俺たちの存在(特にリアンの爆薬とリリスのガチャ兵器)が、ついに「あの男」の目に止まることになる。

次回、最終話!

帰還した勇者・鍵田竜と、疑惑を抱く太郎王。

そして、最強の幼児トリオが迎える「カオスな結末」とは!?

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