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EP 8

疑惑の太郎王 ~そのプラスチック、MADE IN CHINAにつき~

「……セバス。これ、どこで拾った?」

太郎国の王宮、執務室。

書類と空のカップ麺容器が散乱するデスクで、国王・佐藤太郎(30歳)は、ある「遺物」を太陽にかざしていた。

それは、黒く焦げた小さな破片。

だが、この世界に存在する鉄や木ではない。

石油を精製し、金型で成形された工業製品――プラスチック(ポリプロピレン)の破片だ。

微かに刻印された『MADE IN...』の文字が、太郎の元・日本人としての記憶を呼び覚ます。

「城下町の路地裏で、衛兵が発見しました。……陛下、これはドワーフの新素材でしょうか?」

禿げ上がった頭(育毛剤で回復中)をさすりながら、宰相セバスが尋ねる。

太郎はタバコ(キャスター)の煙を吐き出し、目を細めた。

「いや……これは『地球』の素材だ。それも、100円ショップで売ってるオモチャの拳銃の破片だな」

太郎の瞳に鋭い光が宿る。

「俺のスキル【100円ショップ】以外で、これを出せる奴がいるのか? 別の転生者か? それとも……俺の命を狙う刺客か?」

平和ボケしているように見えて、この男は一国の王であり、かつてS級冒険者として名を馳せた男だ。

自分の領域テリトリーを脅かす異分子に対する嗅覚は鋭い。

「セバス。調査しろ。この破片の出所を……徹底的にな」

***

「お、終わった……。人生詰んだ……」

いつもの公園のベンチ。

リアン・クライン(3歳)は、顔面蒼白でガタガタと震えていた。

「どうしたリアン。顔色が悪いぞ。いつもの『自動販売機への恐怖』か?」

ミルマが尋ねると、リアンは涙目で首を縦に振った。

「盗聴器が……王宮の会話を拾ったんだ。太郎王が、俺が捨てた『リボルバーの破片』に気づいちまった!」

「なんだと?」

さすがの俺も眉をひそめた。

喰丸くいまるに食わせ損ねた破片があったんだ……! 太郎王は『徹底的に調査しろ』って……。もし『ネット通販』がバレたら、俺は解剖されて、内臓を抜かれて、背中にコイン投入口を埋め込まれて……!」

リアンの妄想が暴走する。

だが、事態は深刻だ。太郎王が本気で捜査網を敷けば、この国に住む怪しい幼児(俺たち)になどすぐに辿り着く。

「落ち着け。……隠すからバレるんだ。逆に『ありふれた物』だと思わせればいい」

俺はポーンに指示を出した。

「ポーン。今すぐドワーフの玩具屋から『失敗作のガラクタ』を大量に買ってこい。あと、木材で『銃っぽい形のもの』を数個彫れ」

「え? 何をする気だ?」

偽装工作カモフラージュだ。……リリス、お前の出番だぞ」

俺は隣で鼻水を垂らしているリリスを見た。

「えっ! ガチャ!? 回していいの!?」

「ああ。ただし、今回狙うのは兵器じゃない。……『最高に馬鹿馬鹿しいオモチャ』だ」

***

数時間後。王宮の正門前。

警備兵たちがピリピリとした空気で立っていた。

「不審物に注意せよ! 陛下からの厳命だ!」

そこへ、ドタドタと派手な足音が近づいてきた。

「とつげきー! わるいおうさまをやっつけろー!」

現れたのは、3歳のリリス・カギタ。

彼女は両手に、ガチャで引いたばかりの『武器』を握りしめていた。

「なっ、鍵田殿のお嬢様!? なにを……ぶべっ!?」

警備兵が止めようとした瞬間、リリスが右手の武器を振り下ろした。

『ピコッ!』

間の抜けた音が響き渡る。

リリスが持っていたのは、鮮やかな赤色の『ピコピコハンマー(大)』だった。

「うりゃうりゃー! ピコピコ攻撃だぞー!」

「ぐわぁぁぁ(精神的に)やられたぁぁぁ!」

警備兵たちは、英雄の娘に本気で手出しするわけにもいかず、ピコピコと叩かれて困惑している。

その騒ぎを聞きつけ、太郎王とセバスがバルコニーに姿を現した。

「なんだなんだ、騒がしいな。……ん?」

太郎が見たのは、リリスだけではない。

リリスの後ろで、あたふたしている二人の少年――ミルマとリアン。

そして、彼らが「うっかり」ぶちまけたオモチャ箱の中身だった。

地面に散乱しているのは、

木彫りの拳銃(ポーン作・下手くそな出来)

ゼンマイ仕掛けの動かない人形(ドワーフの失敗作)

そして、リリスが振り回すピコピコハンマー。

「……あれは?」

太郎が目を丸くする。

ミルマは、すかさず大声で演技をした。

「あーあ! ドワーフのおじちゃんが『新しいオモチャの発明は難しいなぁ』って捨ててたガラクタ、散らばっちゃった!」

リアンも震える声で合わせる。

「そ、そうだね! 『プラスチック』とかいう新素材の実験失敗作も混じってたね!」

太郎の耳がピクリと動く。

「……ドワーフの実験失敗作?」

太郎はバルコニーから身を乗り出し、リリスが持っているピコピコハンマーを凝視した。

あのゴムの質感。蛇腹構造。

どう見ても日本のオモチャだが……同時に、ドワーフの技術力なら「ゴムの木」を加工して作れなくもない絶妙なラインだ。

そして何より、リリスが楽しそうに「ピコッ! ピコッ!」と鳴らしている姿が、あまりに平和すぎた。

「……ふっ」

太郎が脱力したように笑った。

「なんだ。ドワーフの奴ら、俺の記憶にある『日本のオモチャ』を再現しようとして、試行錯誤してるのか」

太郎の中で、点と線が(誤った方向に)繋がった。

発見されたプラスチック片も、このピコピコハンマーも、ドワーフたちが王(自分)を喜ばせるために、見よう見まねで作った「素材研究の失敗作」なのだと。

「陛下、いかがなさいましたか?」

「いや……セバス、調査は中止だ。ただの子供の遊び道具だったようだ」

太郎はあくびをして、背を向けた。

「あー、腹減った。今日は二郎系ラーメン『豚神屋』でマシマシにするか」

王の興味が、完全に失われた瞬間だった。

***

「……た、助かった……」

王宮が見えなくなるまで離れた路地裏で、リアンはその場にへたり込んだ。

全身から冷や汗が噴き出している。

「危ない橋だったな。だが、これで『プラスチック片』はドワーフのせいにできた」

俺も安堵の息を吐いた。

ポーンの木彫り工作と、リリスのピコピコハンマー(MVP)のおかげだ。

「ねえねえ! 王様、笑ってたね! 私のピコピコ、気に入ったのかな?」

リリスは状況も知らずに、ハンマーをピコピコ鳴らしている。

「……ああ。お前のおかげで首の皮一枚繋がったよ」

リアンが立ち上がり、珍しくリリスの頭を撫でた(すぐに手を引っ込めたが)。

そして、俺の方を向いて、バツが悪そうに言った。

「……ミルマ。今回は、その……借りにしておく」

「ああ。高い利子をつけて返してもらうぞ。……具体的には、次回の『植物肥料』の購入費は全額お前持ちだ」

「チッ、守銭奴め」

リアンは悪態をつきながらも、その表情には明らかな安堵と、俺たちへの信頼が見えた。

秘密を共有し、死線(勘違いだが)を越えた共犯者意識。

「さて、帰るか。……今日はピコピコハンマー記念日だ。マリアのプリンで乾杯しよう」

「わーい! プリン! プリン!」

三人の幼児は、夕焼けの中を歩き出した。

その背後で、リアンの影(喰丸)が、こっそりと証拠品の木彫り銃をバリバリと食べていた。

太郎国の平和は、今日もギリギリの綱渡りで守られたのだった。

次回、ついに魔物の群れが襲来!

大人たちが不在のマンモス団地。

残されたのは老人と子供……そして、武装した幼児トリオ!

「団地防衛戦」、開戦!

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