EP 7
潜入! 騎士団の武器庫 ~パパは勇者で、魔王より怖い~
「……詰んだ。完全に詰んだ」
お馴染みの公園のベンチ。
リアン・クライン(3歳)は、絶望のあまりベンチの裏に引きこもっていた。
「どうした、リアン。また通販サイトがメンテ中か?」
俺がポーンに淹れさせたリンゴジュースを差し出すと、リアンは震える声で答えた。
「『配送遅延』だ……。海外(地球)の物流がストップしてやがる。357マグナム弾も、火薬の原料も、あと2週間は届かねえ!」
パラノイアの彼にとって、弾薬の枯渇は死刑宣告に等しい。
「もし今夜、太郎王の『自販機改造部隊』が来たらどうする!? 豆鉄砲で戦えってのか!?」
(だから来ないってば……)
だが、ここで彼を見捨てるのは組織の損失だ。
俺は少し考え、提案した。
「なら、現地調達するしかないな」
「現地? ホームセンターか? 太郎国の火薬じゃ純度が低すぎて……」
「いや。もっと高品質な火薬が山ほどある場所があるだろ」
俺は指差した。
街の中心にそびえ立つ、太郎国の中枢――王宮の方角を。
「王宮騎士団の武器庫だ。あそこには、太郎王が開発した『タロー・アロー(爆裂矢)』用の最高級火薬が備蓄されているはずだ」
リアンが青ざめる。
「バカか! 王宮だぞ!? 警備はどうなってると思ってるんだ!」
「警備なら、ザルにできる」
俺は隣で砂遊びをしているリリスを顎でしゃくった。
「ここに、最高レベルの『入館パス』がいるだろ?」
***
作戦決行日。
俺たちは、リリスの母親である聖女セーラにお願いし、「パパにお弁当を届ける」という名目で王宮のゲートをくぐっていた。
「パパ~! お弁当だよ~!」
リリスが満面の笑みで走っていく。
重厚な鎧を着た門番たちが、リリスを見た瞬間にデレデレに崩れ落ちた。
「おお、リリスちゃん! お父上なら第3訓練場だ! 通ってよし!」
(チョロい。やはり『勇者の娘』の権限は絶大だ)
俺たちはリリスの後ろに隠れるようにして、王宮内部へと侵入した。
リアンは緊張でガチガチになっている。
「おいミルマ、監視カメラ(魔導の目)はどうなってる?」
「ポーン、やれ」
『了解。ジャミング開始』
ポーンが微弱な魔力波を放ち、廊下の観葉植物たちと共鳴する。
カメラの視界を、植物の枝葉が絶妙な角度で遮る。
さらに、俺のスキル『植物愛』で、鉢植えたちに「今は何も見てないよな?」と優しく囁く。
『見てなーい!』『ミルマ様のためなら~!』
完璧だ。
「よし、リアン。ここから別行動だ。俺とリリスがリリスの親父(勇者)を引きつけている間に、お前は裏の『第2武器庫』へ行け」
「……チッ。バレたらお前らも道連れだぞ」
リアンは影のように姿を消した。マグナギア『ミニ丸』を展開し、通気口へと潜り込んでいく。
***
一方、俺とリリスは、第3訓練場兼、機材整備室へ向かった。
扉を開けると、そこには一人の男がいた。
黒髪の短髪に、少し疲れたような優しげな瞳。
くたびれた作業着を着て、パイプ椅子に座り、缶コーヒー(タロー・ボス)を飲んでいる男。
彼こそが、かつて魔神王を倒した伝説の勇者――鍵田 竜だ。
「パパ~!」
「んぐっ!? おお、リリスか!」
リリスのタックルを受け止め、竜の顔が瞬時に「親バカ」へと崩れる。
「どうしたんだ、こんな危ない所へ。……え? 弁当? セーラが?」
「ううん! 私が作ったの!(泥団子入り)」
「そ、そうか……ありがとう……(胃薬あったかな)」
その隙に、俺は周囲を見渡した。
ここは整備室。壁一面に、剣、槍、斧、そして最新式の魔導銃が並んでいる。
だが、何かがおかしい。
工具箱や砥石が、ひとりでに浮遊し、武器の手入れをしているのだ。
(……これがユニークスキル『ウェポンズマスター』か。道具を意のままに操る能力……便利そうだ)
俺が感心している間、裏ではリアンの潜入劇が進んでいた。
***
(……着いた。ここが火薬保管庫か)
リアンは通気口から、保管庫の天井裏へと侵入していた。
眼下には、木箱に入った『最高級黒色火薬』の山。
宝の山だ。
(よし、魔法ポーチに入るだけ詰め込んで……)
リアンがワイヤーを使って降りようとした、その時だ。
ガチャン、ガチャン、ガチャン……。
保管庫の奥から、重厚な金属音が響いてきた。
誰かいる。
リアンは息を殺し、物陰から覗き込んだ。
そこにいたのは、さっきリリスが抱きついていた男――鍵田竜だった。
(なっ……いつの間に移動した!? さっきまで弁当食ってたはずじゃ……!)
竜は、保管庫の奥にある「廃棄予定の武器の山」の前に立っていた。
折れた剣、ひしゃげた盾、錆びた槍。
戦いの残骸たち。
「ふぅ……。今週は廃棄が多いな。まとめて圧縮するか」
竜が、タバコ(メビウス)をふかしながら、面倒くさそうに片手を上げた。
その瞬間。
リアンは見た。
信じられない光景を。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
山積みになっていた数千本の鉄くずが、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように空中に舞い上がった。
そして、竜の手のひらの上で、ギュルルルル! と高速回転し始めたのだ。
「……『万物統合斬』・メンテナンスモード」
竜が軽く指を握る。
バキバキバキバキッ!!
数トンの鉄塊が、飴細工のように圧縮され、みるみるうちに「サイコロステーキ」のような正六面体のインゴットに変えられていく。
プレス機などない。ただの「握力」だけで、鋼鉄を粘土のように捏ねているのだ。
「……!?!?」
リアンは恐怖で悲鳴を上げそうになり、自分の口を両手で塞いだ。
あれは人間じゃない。
魔神王を倒したという伝説は、誇張じゃなかった。
あんな男に見つかったら、マグナギアなんて爪楊枝みたいに折られる。自動販売機どころか、空き缶にされる!
その時。
竜がふと、視線を天井裏――リアンのいる方向に向けた。
「ん? ……ネズミか?」
竜の目が、ただの「優しいパパ」から、一瞬だけ「魔神を殺した勇者」の目に変わる。
殺気などという生易しいものではない。
そこにいるだけで生物としての格の違いを叩きつけられる、圧倒的な**「圧」**。
(ヒッ……!!)
リアンの心臓が止まりかけた。
バレた? 見つかった? 殺される!?
だが、竜はすぐに視線を外し、タバコの煙を吐いた。
「……まあいいか。子供が待ってるしな」
竜はインゴットを放り投げると、あくびをしながら部屋を出て行った。
彼にとって、天井裏の気配など、本当に「ネズミ程度の脅威」でしかなかったのだ。
***
数分後。
王宮の裏口で、俺たちは合流した。
「……おいリアン。火薬は取れたか?」
俺が尋ねると、リアンはガタガタと震えながら、空っぽの魔法ポーチを握りしめていた。
「……無理だ」
「あ?」
「あんなの……無理だ……。人間じゃねえ……」
リアンは涙目で、リリスを指差した。
「おいリリス! お前の親父、何者なんだよ! 鉄を素手で粘土にしてたぞ!?」
リリスはキョトンとして、ニコニコ笑った。
「え? パパはただの『ホームセンターの店員さん』だよ? お家の網戸も直してくれるし!」
「ホームセンターで魔神は殺せねえよ!!」
リアンの叫びが虚しく響く。
結局、火薬の入手は失敗。
だが、リアンは重要な教訓を得た。
『勇者・鍵田竜には、絶対に逆らってはいけない』
「……まあ、いいさ。俺の『植物愛』で、安全な裏ルートの火薬屋を見つけてやるよ」
俺が慰めると、リアンはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「頼む……。もう王宮は勘弁してくれ……。俺、自動販売機の方がマシかもしれない……」
最強の暗殺者志望(3歳)の心は、勇者の「ただのゴミ出し作業」によって完全に折られてしまったのだった。
次回、太郎王の疑惑!
リアンが捨てたオモチャの銃が、ついに太郎の元へ……?
「日本製」の証拠を巡る、ギリギリの攻防戦!




