EP 6
ネット通販 vs ガチャ ~文明の利器対決、あるいは『ねるねるねるね』~
「……クソッ! 『在庫切れ(Out of Stock)』だと!?」
休日の公園の砂場。
そこには、小さなスコップを握りしめ、絶望の表情を浮かべる金髪の幼児――リアン・クライン(3歳)の姿があった。
俺、ミルマと、隣で泥団子を作っているリリス、そして背後に立つポーンは、彼の悲痛な叫びを聞き流していた。
「どうした、リアン。お前の頼みの綱である通販サイトが、ついにサーバーダウンでもしたか?」
俺が尋ねると、リアンは青ざめた顔で虚空のウィンドウ(彼にしか見えない画面)を指差した。
「違う! 『硝安(硝酸アンモニウム)』の配送が遅れてるんだ! 海外情勢の影響とかで、到着が2週間後だってよ!」
硝安。
化学肥料の一種だが、燃料油と混ぜれば『ANFO爆薬』になる危険物だ。
このパラノイア幼児は、それを常備薬のように持ち歩いている。
「在庫がないと不安で夜も眠れねえ……。もし今夜、太郎王の刺客(と彼が思い込んでいる集金人など)が来たらどうするんだ。丸腰だぞ」
リアンが頭を抱える。
そこへ、泥団子作りを終えたリリスが、ドヤ顔で割り込んできた。
「もー、リアンくんは心配性ねぇ。ないなら出せばいいじゃない!」
「あ?」
「私のガチャで!」
リリスはブレスレットを見せつけた。
前回の「野良犬確保任務」で得たポイントと、日々のドブ掃除で貯めたポイントが唸りを上げている。
「爆弾でもミサイルでも、神様にお願いすれば一発よ!」
「バカ言え。お前のガチャは博打だろ。俺が必要としているのは、計算可能な火力と、安定した供給ラインなんだよ」
リアンは鼻で笑った。
「ネット通販」という文明の利器を信奉する彼にとって、リリスの「運任せ」は耐え難い非効率なのだ。
「むっ! バカにしたわね! 今日の私の運勢は『大吉』なんだから!」
リリスがぷくーっと頬を膨らませ、スキル『ランダムボックス』を発動した。
100pt消費。
「見てなさい! リアンくんが欲しがってる『ドカンとするやつ』、出してあげるわ!」
ゴゴゴゴゴ……コロン。
出てきたのは、極彩色のパッケージに入ったビニール袋だった。
そこに書かれていた文字は――
『徳用! 夏の思い出 花火セット(バケツ付き)』
「…………」
リアンが冷ややかな目を向ける。
「花火かよ。これでどうやって敵と戦うんだ? 線香花火で火傷でもさせる気か?」
「うっ……! ち、違うもん! まだあるもん!」
リリスは涙目になりながら、さらに連続でガチャを回した。
コロン。コロン。コロン。
出てきたのは――
『爆竹(20連)』×5束
『ロケット花火(笛ロケット)』×10本
『スモークボール(煙玉)』×3個
「ほら見ろ! 宴会芸セットじゃねーか!」
リアンが呆れて立ち上がろうとする。
だが、俺は見た。
散らばった花火を見た瞬間、リアンの「殺し屋の目」が怪しく光ったのを。
「……待てよ」
リアンが花火セットを手に取り、ブツブツと呟き始めた。
「日本の花火……黒色火薬の純度が高い。導火線の品質も安定している。……このロケット花火の推進剤と、爆竹の火薬を抜き出して、スモークボールの容器に圧縮充填すれば……」
リアンが懐から「工具セット(通販で購入した精密ドライバー)」を取り出し、凄まじい手際で花火の解体を始めた。
「おいリリス、もっと出せ! 爆竹だ! 爆竹をあと50個!」
「えっ? えっ? わかった!」
数分後。
そこには、玩具の花火を魔改造して作られた、凶悪な『即席閃光手榴弾』と『指向性ロケット弾』が並んでいた。
「くくく……。これなら使える。通販の火薬より威力は落ちるが、目くらましと陽動には十分だ」
リアンがニヤリと笑う。
「リリス、お前のガチャ……『素材』としては悪くないな」
「でしょー! 私のガチャは最強なのよ!」
不確定な「素材」を、確実な「技術(通販工具)」で兵器に変える。
最悪の化学反応が生まれてしまった。
(やれやれ……。このままだと、砂場が火薬庫になるな)
俺はため息をつき、ポーンに合図を送った。
場の空気を変えるには、これしかない。
「おい二人とも。実験の前に、休憩にしないか?」
俺はポーンに、ある「白い粉」と「液体」が入った容器を出させた。
「なんだ? 麻薬か?」
リアンが警戒する。
「違う。……『科学実験』さ」
俺はポーンに命じた。
『調理開始』
ポーンが、容器の中の「1の粉」と「水」を混ぜる。
青色のドロドロした液体ができる。
そこに「2の粉」を投入し、スプーンで激しく撹拌する。
グルグルグルグル……!
「うわっ! 色が変わった!?」
「膨らんだ!? なんだこれ!?」
モコモコモコッ!!
青色だった液体が、赤紫色に変色し、フワフワに膨れ上がった。
甘酸っぱいブドウの香りが漂う。
そう、かつて日本の子供たちを虜にした知育菓子。
『ねるねるねるね』(の再現品)だ。
「……アントシアニンのアルカリ反応と、重曹とクエン酸による炭酸ガス発生反応だ」
俺はドヤ顔で解説した。
「食ってみろ。安全だ」
恐る恐るスプーンを伸ばす二人。
一口食べた瞬間、二人の目が輝いた。
「うまっ! なにこれシュワシュワする!」(リリス)
「……悔しいが、美味い。それに、この化学反応……応用すれば、遅延信管や発泡剤に応用できるかもしれない……」(リアン)
(リアン、お前は何でも兵器に結びつけるな……)
俺たちは砂場の縁に座り、三人で『ねるねるねるね』をつついた。
側から見れば、仲良くお菓子を食べる無邪気な幼児たちだ。
その足元に、改造手榴弾が転がっていることを除けば。
「ねえリアンくん」
リリスが口の周りを紫色の泡だらけにして言った。
「私のガチャと、リアンくんの工作があれば、無敵じゃない?」
「……フン。まあ、お前の『運』も、使いようによっては計算式に組み込めるってことだ」
リアンが素っ気なく答えるが、その顔は満更でもなさそうだ。
その時、ポーンが警告を発した。
『マスター。3時の方向より、団地の自治会長が接近中。火薬の匂いを検知される恐れあり』
「やべぇ! 撤収だ!」
「証拠隠滅!」
俺たちは慌てて『ねるねるねるね』を飲み込み、改造花火をリアンの魔法ポーチに詰め込んだ。
「喰丸! 食べカス(花火の残骸)を処理しろ!」
リアンの影からワームが飛び出し、砂場のゴミを一瞬で平らげる。
おばちゃんが通りかかった時には、そこにはただ、泥団子を作って遊ぶ可愛い子供たちがいるだけだった。
「あら~、仲良しねぇ。偉い偉い」
おばちゃんが飴玉をくれた。
俺たちは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
ネット通販とガチャ。
そして、それを統率する植物ネットワークとポーン。
『お悩み解決団』の戦力は、着実に(そして危険な方向に)整いつつあった。
「次は、もっとデカイもん作ろうぜ」
「うん! 戦車とか出るかな!?」
「……予算(小遣い)が足りねえな」
タロー・シティの夕暮れに、物騒な会話が溶けていく。
だがその直後、リアンが本当に必要とする事態――「騎士団の武器庫への潜入」が必要になることを、俺たちはまだ知らなかった。
次回、パパの職場見学!
最強の勇者・鍵田竜の「異常性」を、リアンが目撃して戦慄する回。




