EP 3
公園の決闘! 幼児たちのデッドライン
平和な昼下がりの公園。
ママさんたちが談笑し、子供たちが走り回る牧歌的な風景の中、そのベンチだけは異質な空気を漂わせていた。
ベンチに座っているのは、金髪碧眼の愛らしい3歳児、リアン・クライン。
彼は手にしたクマのぬいぐるみを弄ぶふりをしながら、ベンチの裏側に小さな手を回していた。
(……チッ。昨夜の雨で感度が落ちてやがる。バッテリー交換だ)
彼は手品のような手つきで、ベンチ裏に仕掛けた高性能盗聴器の電池を抜き取り、ネット通販で仕入れた新品(単4電池・4本パック)と交換していく。
周囲からは「お気に入りの場所で遊ぶ無邪気な子供」にしか見えない。完璧なカモフラージュだ。
作業が完了し、リアンがベンチから降りようとした、その時。
「よぉ。お前」
背後から声をかけられた。
リアンは心臓が跳ねるのを抑え、ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、黒髪の少年――この団地に住むミルマ・クラウディア(3歳)だった。
その横には、木製の人形が影のように立っている。
リアンは瞬時に「貴族の子供」の仮面を被った。
「なぁに? 君は誰? 僕と遊びたいの?」
愛くるしい笑顔。完璧な演技。
だが、ミルマは騙されない。その目は、同年代の子供を見る目ではなく、商談相手を値踏みする大人の目だった。
ミルマはニヤリと笑い、爆弾を投下した。
「芝居はいいぜ。……俺とお前は、『同族(転生者)』だろ?」
ピクリ。
リアンの笑顔が凍りついた。
同族。
その言葉を、パラノイア(偏執狂)であるリアンは最悪の形で解釈した。
(……同族だと? 転生者を知っているのか? ということは、こいつは太郎国の諜報員か!? 俺の『ネット通販』スキルに気づいて、接触してきたのか!?)
リアンの脳裏に、恐ろしい想像図が浮かぶ。
捕らえられ、改造手術を受け、街角で「あったか〜い」と「つめた〜い」のボタンを胸に取り付けられた自分の姿が。
『人間自動販売機』への改造刑。
(……頭がイカれてやがる。いや、知られすぎた。ここで消す!)
リアンの瞳からハイライトが消えた。
彼は音もなく指を動かす。
「……弓丸!」
公園の樹上に潜ませていたマグナギア『弓丸』が、光学迷彩を解いて戦闘態勢に入った。
放たれる殺気。
『――警告。マスターへの殺害意思を検知』
ポーンが反応した。
普段の鈍重な動きが嘘のように、ポーンは地面を蹴った。
「ミルマ様! お下がりください!」
ポーンの右腕が変形し、パイルバンカーが唸りを上げる。
狙いはリアンの胴体。子供相手だろうと容赦はない。主を守るためなら、世界を敵に回すのがこの守護者だ。
ドォン!!
衝撃音が響く。
だが、ポーンの一撃は空を切っていた。
「速い……! だが!」
リアンは紙一重でパイルバンカーを回避していた。
元S級冒険者の両親から受けたスパルタ教育と、マグナギア操作で培った空間把握能力。
3歳の体格差を逆に利用し、ポーンの懐に潜り込むように転がる。
『追撃。逃がさない』
ポーンが即座に向きを変え、追撃の杭を打ち込もうとする。
物理的なスペックではポーンが圧倒的に上だ。リアンが捕まるのは時間の問題――に見えた。
だが、リアンはニヤリと笑った。
「……チェックメイトだ」
ポーンの動きが、ピタリと止まった。
なぜなら、ポーンが守るべき主――ミルマの首筋に、**「死」**が突きつけられていたからだ。
ブゥゥゥン……。
ミルマの首元で、蚊のような羽音が響く。
それは、リアンが操る極小マグナギア『ミニ丸』の編隊だった。
その内の一体が、致死性の猛毒(あるいは強力な麻酔)を塗った針を、ミルマの頸動脈にピタリと当てている。
いつの間に?
ポーンが攻撃動作に入った一瞬の隙に、リアンはすでに展開していたのだ。
「貴様……ッ!」
ポーンが激昂する。単眼が真っ赤に染まる。
リアンは埃を払いながら立ち上がり、冷酷な目でポーンを見上げた。
その背後では『弓丸』も矢をつがえ、ポーンの死角を狙っている。
「……動くなよ、木偶人形」
リアンは冷徹に言い放った。
「お前が俺を殺すのが先か、俺がこいつ(ミルマ)に針を刺すのが先か。……試してみるか?」
一触即発の睨み合い。
公園の空気は張り詰め、鳥の声すら消えた。
「お前は俺を殺して、主を死なすか。俺から手を引いて、主を守りに行くか。……選べ」
突きつけられた究極の二択。
ポーンの演算回路が、ジリジリと熱を持つ。
主を守るための攻撃が、主を死なせるトリガーになる。このパラドックス。
だが、この緊迫した状況で――人質に取られている当のミルマだけが、声を上げて笑った。
「くくっ……はははは! いい腕だ。合格だ、リアン・クライン」
ミルマは首元の針など意に介さず、一歩前に出た。
「なっ……動くな! 死ぬぞ!」
リアンが焦る。
「死なないさ。お前は慎重な男だ。俺が『敵』だと確定するまでは殺さない」
ミルマはポケットから一枚のメモを取り出し、ヒラヒラと振った。
そこには、植物たちから聞いた情報が書かれていた。
『自動販売機になりたくない』
その文字を見た瞬間、リアンの顔が茹でダコのように真っ赤になった。
「な、ななな、何でお前、それを……!?」
「植物たちが噂してたぜ。『金髪の男の子は、自販機に改造されるのを怖がってる』ってな」
ミルマは肩をすくめた。
「安心しろ。俺も転生者だが、国(太郎)の回し者じゃない。むしろ、この国の税制に文句がある側の人間だ」
「……本当か?」
「ああ。それに、お前のその『ネット通販』スキル……俺の『植物愛(情報網)』と組めば、もっと効率よく稼げると思わないか?」
リアンの警戒心が、急速に計算へと変わっていく。
植物による情報収集能力。
強力な自律兵器。
そして、自分の秘密を知りつつも、交渉を持ちかけてくる胆力。
(こいつ……使える)
リアンは指をパチンと鳴らした。
ミルマの首元の『ミニ丸』が解除され、空中に霧散する。
ポーンもまた、ミルマの合図で殺気を収めた。
「……話だけは聞いてやる」
リアンは仏頂面で言ったが、その額の冷や汗は引いていた。
その時である。
「おーい! 二人とも何やってるのー!?」
砂場の方から、リリスがドタドタと走ってきた。
その手には、泥だらけの何かを握りしめている。
「見て見て! 砂場から『100円玉』が出てきたの! これでガチャが回せるわ!!」
「……は?」
リアンが呆気にとられる。
「こいつはリリス。俺の幼馴染で、重度のガチャ中毒者だ」
ミルマが紹介する。
「俺(情報)、お前(実行)、そしてこいつ(火力兼資金源)。……どうだ? 三人で組まないか?」
リアンは、泥だらけで満面の笑みを浮かべるリリスと、ニヤリと笑うミルマを見比べた。
そして、大きなため息をついた。
「……チッ。暇なら、俺の仕事を手伝え。報酬は山分けだぞ」
こうして、公園のベンチ前で、太郎国の裏社会(ご近所レベル)を牛耳る最強の幼児同盟――通称**『お悩み解決団』**が結成されたのだった。




