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嘘の世界1

白い粒

作者: ハル

町では、幸せは落とし物として扱われていた。


朝になると、人々は家の前を掃いた。

砂や葉と一緒に、小さな白い粒が見つかることがある。


それが幸せだった。


指でつまめるほど軽く、音も匂いもない。

役所はそれを集め、数えて、返す。


拾った家ではなく、前日に一番静かだった家に配られた。



誰も疑わなかった。

幸せは自分で持つものではなく、落ちているものだからだ。


私の家の前には、いつも何もなかった。

掃いても、白い粒は出てこない。

代わりに、隣の家の前から風に乗って流れてきたらしい幸せが、門の外で止まっているのを見たことがある。


拾おうとすると、粒は溶けて消えた。

役所の人は、それは正式な幸せではないと言った。


正式な幸せには印がある。

肉眼では見えないが、数える道具を通すと、必ず同じ数が出る。

私にはその道具がなかった。



町の人は、幸せを落とさないように工夫した。

ポケットを縫い閉じ、靴底を厚くし、言葉を少なくした。


話すと幸せが揺れるからだと言われていた。

笑うと粒がこぼれるので、笑顔は壁に向けて作った。



ある日、役所が配給を間違えた。

静かだった家ではなく、昼も夜も音を立てる家に、幸せが多く配られた。

理由は示されなかった。


翌朝、その家の前には、さらに多くの幸せが落ちていた。

白い粒が道を塞ぎ、誰も通れなかった。



町は混乱しなかった。ただ、掃く量が増えただけだ。


私はその道を跨いだ。

足裏で粒が砕ける感触がしたが、音はしなかった。


砕けたはずなのに、減っていないように見えた。

数える道具を持った役所の人が来て、首をかしげた。

数が合わないと言った。



その日から、幸せは落ちなくなった。

掃いても、白い粒は出ない。


役所は配給を続けたが、袋の中身は見えなかった。それでも数は記録された。

人々は受け取り、しまい、静かに暮らした。


私の家の前には、相変わらず何もない。

だが、夜になると、門の外に白い影が集まる。


触れられない。拾えない。数えられない。影は朝には消える。



町はそれを落とし物として扱わない。

誰も掃かない。理由はない。


私は毎朝、何もない地面を掃く。

箒の先で、確かに何かを押している感じがする。


砂でも葉でもない。粒でも影でもない。

集められないまま、道の真ん中に残る。


それを跨ぐ人と、避ける人がいる。

どちらが静かかは、もう測られていない。

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