白い粒
町では、幸せは落とし物として扱われていた。
朝になると、人々は家の前を掃いた。
砂や葉と一緒に、小さな白い粒が見つかることがある。
それが幸せだった。
指でつまめるほど軽く、音も匂いもない。
役所はそれを集め、数えて、返す。
拾った家ではなく、前日に一番静かだった家に配られた。
誰も疑わなかった。
幸せは自分で持つものではなく、落ちているものだからだ。
私の家の前には、いつも何もなかった。
掃いても、白い粒は出てこない。
代わりに、隣の家の前から風に乗って流れてきたらしい幸せが、門の外で止まっているのを見たことがある。
拾おうとすると、粒は溶けて消えた。
役所の人は、それは正式な幸せではないと言った。
正式な幸せには印がある。
肉眼では見えないが、数える道具を通すと、必ず同じ数が出る。
私にはその道具がなかった。
町の人は、幸せを落とさないように工夫した。
ポケットを縫い閉じ、靴底を厚くし、言葉を少なくした。
話すと幸せが揺れるからだと言われていた。
笑うと粒がこぼれるので、笑顔は壁に向けて作った。
ある日、役所が配給を間違えた。
静かだった家ではなく、昼も夜も音を立てる家に、幸せが多く配られた。
理由は示されなかった。
翌朝、その家の前には、さらに多くの幸せが落ちていた。
白い粒が道を塞ぎ、誰も通れなかった。
町は混乱しなかった。ただ、掃く量が増えただけだ。
私はその道を跨いだ。
足裏で粒が砕ける感触がしたが、音はしなかった。
砕けたはずなのに、減っていないように見えた。
数える道具を持った役所の人が来て、首をかしげた。
数が合わないと言った。
その日から、幸せは落ちなくなった。
掃いても、白い粒は出ない。
役所は配給を続けたが、袋の中身は見えなかった。それでも数は記録された。
人々は受け取り、しまい、静かに暮らした。
私の家の前には、相変わらず何もない。
だが、夜になると、門の外に白い影が集まる。
触れられない。拾えない。数えられない。影は朝には消える。
町はそれを落とし物として扱わない。
誰も掃かない。理由はない。
私は毎朝、何もない地面を掃く。
箒の先で、確かに何かを押している感じがする。
砂でも葉でもない。粒でも影でもない。
集められないまま、道の真ん中に残る。
それを跨ぐ人と、避ける人がいる。
どちらが静かかは、もう測られていない。




