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雷に打たれて死ねば  作者: 莞爾
2章 地震・火事編
7/16

2-3 誤算

 詳しい時系列を思い出せていないので少し時間軸が前後するが、火事が起きた同年、私に弟ができた。


 一馬(親父)と母の子供だ。親父は私達に真面目な顔で「家族が増えたぞ」と説明してくれた。堅苦しい男だが、今思えば説明責任を果たす一本気のある人間だとは思える。母はなんでも有耶無耶にする癖があるので、その辺りは親父の方が好ましい。 親父は、重要な事柄を説明するとき、私達を子供相手にしなかった。


 弟はそれなりに可愛かった。育児の負担も大したものではないし、田んぼの手伝いに駆り出されるのは新鮮な体験だった。親父の乗るスクーターや軽トラの荷台に乗って風を感じるのは好きだった。子供にとってはオープンカーである。


 兄は近所に住む友達とよく遊んでいた。 ユウ君、ショウ君、何より先に登場したタカシ君。大体このグループで行動する。


 一方で私には同年代の友達はいなかった。自分から友達を作るという発想がなかったのだ。放課後遊びに誘うこともしない子供だった。なので兄が遊びに行くとき、金魚の糞のようについて行った。多分邪魔だっただろうなと思う。


「付いてくるな」と言われたとき、「ぼくはおにいちゃんの《《りもうと》》だから」と返したのだそうだ。ちょっと覚えていないが、兄は今でも時折笑い話にする。『弟』と言いたいところに『妹』が混ざり、さらにはテレビの『リモコン』も悪魔合体して出力された言葉だろう。ちんぷんかんな名乗りである。馬鹿馬鹿しさに毒気を抜かれた兄は友達との遊びに私を混ぜてくれた。


 テレビで〈デジモン〉を録画してみたり、ベイブレードで遊んだり、色々と楽しいことはあった。が、私にはどうやら自我がなかった。母は過干渉気味で何をするにも「ああしなさい」「こうしなさい」と指示を出し、自分はそれに従う子供になっていた。 兄が笑えば私も笑い、兄が母に叱られれば同じ轍は踏まず、どこかに行くのならついて行った。そうしていれば叱られない。真似をするのが何をするにも手っ取り早いのだ。



 兄はミニバスケットボールクラブに入った。最初はユウ君が、父親の影響でバスケを始め、それがショウ君とタカシ君に波及し、兄も程なくバスケに興味を持ったようだ。


 私は相変わらず友達と遊ぶことはなかった。登下校を共にする同学年は女子ばかりなので、どう遊べばいいかわからなかった。数少ない同学年かつ登下校も一緒の男子〈ヒロキ〉君は、少々高慢ちきで仲良くなかった。


 成長期の私はぶくぶくと太り始め、見かねた親父はスイミングを習わせたが、そこで売っているチョコ饅にどハマりして余計に太ったので辞めた。 女子からは「隠れ肥満」と揶揄われ、どうやら痩せた方が良いと危機感を覚えた私は金魚の糞として兄と同じミニバスのクラブに入る。


 ちなみに私が太り出した時、ヒロキ君が得意気に女子に質問したことがある。


『俺と莞爾、どっちがイケメン?』


 登下校を共にした女子二人〈ハル〉と〈ヤナギ〉は揃って『莞爾君』と答えてくれた。自慢である。というよりヒロキ君は隠れ肥満の私より明らかに太っていたのだ。高慢ちきな彼はまぁまぁ不機嫌になった。……自覚がないのは恐ろしいものだと学んだ。


 私は場の状況から静かに学ぶ能力があった。 空気を読む子供。 そして主体性のない子供だった。


 兄の影響を受けやすく、「これがしたい」「あれがしたい」という自分の欲求に鈍い。親に何かを強請ったことがないように思う。 特に大人の空気を感じ取るのは敏感だった。 過去を語ろうとしない母を見て私は〈馬鹿(むく)であれ〉と期待されていると思った。おそらくここまで極端な性格に育つことは想定していなかっただろうが、親父という圧迫感のある存在もいるせいで、大袈裟に受け取ってしまったと思う。


 『事情は聞くな。何も勘付くな』と願われている気がした。 それに相応しい馬鹿らしく振る舞ったと思う。


 バスケはずるずると中学まで続けることになる。たいした活躍もできない選手だった。体育会系のシゴきを経験したのは社会で役立ったものの、もっと別にやりたいことがあったのではないかとも思う。それこそ美術系に打ち込んでいたら、何か違った未来へ進んでいたのかもしれない。


 親との交流は希薄だった。 親父は弟に愛着があるだろうし、農業は基本ブラックだ。 母も稲刈りなりなんなり手伝いに駆り出されるし夜はスナックで働いていた。結婚したのだからそんな水商売は辞めるのが普通だと思うのだが、親父はこの街の歓楽街にある小さなビルを一つ所有しており、スナックのオーナーでもあった。なので母はキャスト(ママ)として店に出ることを辞めなかった。


 私と兄もごく稀にスナックに手伝いに行った。香水の匂いが充満する大人の女性に可愛がられるのはとても戸惑った。あの状況を楽しむには私達は子供過ぎた。勿体無いことをした。


 全焼し、新しく建て直すこととなった新居の方は、地下階のコンクリート造部分から進められていた。親父とちょくちょく見に行っては、少しずつ家が出来上がる光景にワクワクしていた。


 トラブルに襲われつつも日常は安定していた。むしろ底を叩いてこれから上昇していくと見えた。 親父にとって大誤算となる出来事が起きる。

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