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雷に打たれて死ねば  作者: 莞爾
2章 地震・火事編
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2-2 井神家全焼

 私の住んでいる井神家は築年数の古い建物である。 小屋のボヤ騒ぎから一年経ったかどうか、推定二〇〇三年頃、後を追うようにこちらも出火した。


 全焼火災。 大火事だった。


 当時の私は小学三年生程度だったと思う。ニンテンドーのゲームキューブで遊ぶのが好きだった。〈スマブラ〉に〈スターフォックス〉に〈ピクミン〉……どちらかといえば兄の方がゲーム好きで、私は後ろで眺めながらストーリーを追いかけるのが多かった。対戦しても勝てないのでつまらないのだ。私の非暴力、競争嫌いな性格はこの辺りの負け癖から育まれたものだろう。


 いつも通りの夜のこと、子供部屋の二段ベッドで就寝していたのだが、叩き起こすような親父の声に目が覚めた。


「火事だ。火が出た。逃げるぞ起きろ!」


 ベッドから飛び起き、何が起こっているのかわからないまま親父に促されるまま一階へ駆け降りる。すでに階段の天井を這うように煙が流れていた。 一度親父は玄関ではなく奥の方へ向かった。台所の隣にある物置(季節外れの服を仕舞う箪笥やマッサージチェアが置かれている)部屋に向かった。引戸を開けると真っ黒い煙が廊下に漏れ出し、その奥からメラメラ燃える炎が見えた。


 火事……! 私はやっと理解した。


 親父は初期消火できそうにない火勢を認め、私たちの手を引いて玄関へ向かった。


 外に出て十五メートルもない、最寄りのゴミ捨て場あたりで足を止めて、親父は火事を眺めていたと思う。真っ暗な夜に真っ黒な煙が立ち上り、星空を濁らせていた。代わりにと言わんばかりに家は真っ赤に輝いて、視界いっぱいに炎が暴れていた。


 《《塞の神》》(井上家がある地域で行われる焚火の行事)とは規模が違う炎だった。


 消防のサイレンがぐるぐる回って、仕事に出ていた母が妙に煌びやかな格好のまま、私たちを抱きしめた。水商売から着替える間もなく駆けつけたようだ。


 次の日、私の家で起こったゴシップは思っていたより広まっていなかった。ただ、生徒用玄関の下駄箱で靴を履き替えているときに担任の先生が駆けつけて少し泣いていた。


 私は「宿題やったけど燃えちゃった」と言った。本当はやっていない。燃えてラッキーだと思った。


 ランドセルや日用品は焼失したので、井神家の親戚や近所の助けも借りた。もちろん家は黒焦げ。柱はデロデロで凸凹していて、ゴジラの皮膚みたいに見えた。


 後日、いつだったかの学校帰りに、私と兄は家に行ってみようということになった。 立ち入り禁止のトラテープが貼られた焼け跡に踏み込み、たくさん遊んだゲームキューブも、全巻揃えたドラゴンボールやスラムダンクも無くなってしまったのだと理解した。 炭化した柱だけが家の形を保っていて、壁の燃え崩れた向こうに空が見えるのが不思議だった。あぁ、家がない。と思った。玄関に飾られた陶器の下に隠していた〈お年玉〉は無事だったので嬉しかった。


 さて、家がなくなった我々一家がどこに住むことになったか……やよい荘である。


 号室こそ前とは別だが、勝手知ったるアパートに戻ってきた。元々この賃貸物件は親父の家系が所有している不動産なので、親父も顔色一つ変えずに過ごしている。――多少なり財産を失ったのだからもっと落ち込んでもいいものだが、親父にとっては古い家が燃えた程度、痛くも痒くもなかったのだろう。実際、焼け跡はさっさと取り壊し、更地にして新築を建てることになった。金だけはある男だった。

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