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雷に打たれて死ねば  作者: 莞爾
4章 進路編
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4-1 高校進学

 比較的穏やかな日々の中、私は一種の達成感で満たされていた。一通り大変な経験を積んで、耐え難きを耐え、長いトンネルを抜けたような気分だった。人生でやるべきことはやり尽くした。これ以上何をすればいいというのか? もう死んでいいだろうと燃え尽きていた。


※本作には、精神疾患、家庭内の問題に関する描写が含まれます。読まれる方の心身の状態に応じて、無理のない範囲でお読みください。

 私は難なく受験を終えて、高校生となった。 勉強の出来ない私が苦労せず入学できたというあたり、偏差値はお察しの通り。名前を漢字で書けるなら誰でも合格できるような不良高校だ。


 通学には電車を利用する。 指定の制服はあるが私服登校も可能だった。私は当然私服で通った。着なくて良い制服なんて買うだけ無駄である。


 同中からこの高校へ進学したのは私含め三人だけだった。対して仲良くないが、新しい友人ができるまでの間だけつるむことにした。というのも、誰でも入れるヤンキー高校には嘘みたいなキャラ立ちしたヤンキーが本当にゴロゴロいたのだ。ドレッドヘアで浅黒い肌の大男が同じ高一とか、信じられなかった。彼は〈親父狩り〉とかいう全時代的狩猟文化を継承する未開民族の狩人であった。 そんな奴らに目を付けられては損をするのが目に見えていた。入学初日から〈ぼっち〉でいると目を付けられそうなので上手く群れに隠れて生きることにした。



 不良高校に通う生徒は大きく分けて二種類の馬鹿がいる。上振れ下振れ、または複合した性格の人間がいるとしても、大体二つに分けられるだろう。


 一つは言葉通りの『ヤンキー』。不良だ。このタイプは親に甘やかされて増長した子供であり、暴力や癇癪だけで社会で生きていけると勘違いしている社会的人格形成不良の馬鹿である。私が嫌う『大人の男』に最も近いタイプだ。


 もう一つは『オタク』。先天的、後天的に拘らず気質が内向的な子供であり、社会に上手く溶け込めるか不安を抱えているタイプ。比較的問題を起こさないが、何故か勉強の成績が悪い残念な馬鹿である。


 ヤンキーでも〈ワンピース〉などアニメを観ていたりするし、オタクでもイキって突っ張るやつもいるにはいる。が、どれだけ突っ張ったオタクだろうと流血沙汰の喧嘩や警察のお世話にはならないし、ヤンキーがアニメを嗜んでいたとしても萌えを語りはしないだろう。両者には埋められない溝があり、そんな相容れない馬鹿が同じ高校に通っていた。


 私の自認は『オタク』だったが、話題についていけるほどアニメやゲームを知らないので友達作りには苦労した。なんならホストだった北海道の親父譲りの顔面が邪魔をして、『お前は不良側の人間だろ』とオタクコミュニティから距離を置かれていた部分もある。……勘弁してくれ。アニメは知らないが、カツアゲの方法なんかもっと知らない。誤解を解いて少しずつ溶け込むことができた。  『高校時代の友人が一生の友人になる』なんて格言を聞いたことがある。私にも、ここで友人となった彼らとは長い付き合いとなった。……追々語るとする。



 未開民族的な上振れヤンキー達は、入学してしばらく経つと学校に姿を見せなくなった。通うのが馬鹿らしくなって辞めたか、問題を起こして退学処分かはわからないが、一ヶ月もしないうちにクラスの治安は安定した。プレッシャーをかけた後に姿を消すなんて、まるで〈なまはげ〉みたいな奴らである。悪い子はいねぇがー……お前が言うな。


 本当にヤバいタイプのヤンキーはいなくなり、マイルドヤンキーとオタクが残った。なるほど弱体化によって二大勢力のパワーバランスはこうして保たれる訳か。この底辺高校が破壊されずに残る理由も窺える。が、今度はオタクがイキリ始めるのである。


 今までママ相手に練習してきた喧嘩腰を教師に実践したり、クラスメイト同士の口論で披露し始める。悪ぶりたいオタクが現れるのだ。 正直目も当てられない状況だったので、私は常にイヤホンを付けて過ごすようになった。冷笑系オタクに私は進化した。


 校外では程なくアルバイトを始めた。 事なかれ主義なので自発的に求人を見たりすることはなかったが、親からは『お小遣いは自分で稼いで』『というか生活費入れて』と言われていた。そして母の彼氏が持ってきた求人はマクドナルドのアルバイトだった。


 私はアルバイトといえば喫茶店とか、書店とか、程よく暇な仕事をイメージしていた。『とりあえずここ受けてみなよ』と母彼氏から言われて、不承不承面接に行ってみた。受かった。


 げー。と思った。忙しそうなのは嫌なので落ちたかったのだ。 バイト研修用のDSソフトと貸与制服を貰って、マッククルーデビューした。



 あんまりお店の裏側を語らない方が良さそうなのでエピソードは控えめにしようと思う。


 マッククルーとしての生活は短かった。半年程度で辞めたんだと記憶している。私が辞めた理由としては、予想していたことだがやはり忙しいことにある。それに、マッククルーは私とは別の世界の人間だった。みんな形の良い奴らで、性格も根っこから明るい。脳内伝達物質の成分から何から違うのだろうか? 彼らは人生を楽しんでいた。そして未成年でも当然のように喫煙していた。快楽主義な人間だった。 一方で私は、クルーというよりはネズミだった。


 調理ミスした食品は専用のゴミ箱に廃棄する。例えばチキンナゲットが一箱に五個入っているとして、その内一つが床に落ちたとする。落ちたものは燃えるゴミ。落ちてないけど数が足りずに廃棄する四個は食品用ゴミ箱に入れられるのである。


 私はゴミ捨ての度にその廃棄食材を食べていた。だって勿体なかった。 こそこそ盗み食いをするし、根明な彼らとは馴染めないしで、私は辞めた。


 次のバイトは確か寿司屋だったと思う。高校でできた友人がそこでバイトしており、紹介される形で参加した。朝から晩まで裏方として軍艦を作る仕事だった。シャリに海苔を巻いてネタを乗せる。磯の匂いが鼻にこびりついてトイレで吐いた。賄い飯はうまい(ここでサラダ軍艦の美味しさを発見した)が、板前の男はみんな半グレみたいな性格破綻者だし、ブラック労働だったのですぐに辞めた。


 辞める時、店長は「残念だなぁ、板前に育てるつもりだったのに」と言った。


私は、「育てる? ただのアルバイトを……?」と思った。板前になろうなんてモチベーションで寿司屋にバイトしてきたわけではないのだ。


 だが、店長の言葉は引っかかっていた。 この調子で生きていては、私は将来何になるのか。板前は嫌だと思えたのなら、じゃあ私は何になりたいのだろう。そんな疑問が浮かんだ。


 早めに死んでやる。とは思っている。でも今日じゃないし、明日でもない。いつ死ぬつもりなんだ? あと数年で働きに出るか進学か、人生の進路を決める時が迫っている。それまで死ぬ予定はないじゃないか。 ……なら、私は何になりたいんだ?



 次のアルバイトは靴屋。 これは当たりだった。オススメしたい穴場である。


 なにせほどほどの忙しさで、ほどほどの労働。接客する相手もそこまで厄介な客ではない。飲食店では空腹で苛立っている人を相手にするので基本的に殺伐としているが、靴が履きたくてイライラしている人はいない。故にクレーマーも少ない。 バイトとしてちょうど良い労働なのだった。


 ほどほどに高校に通って、ほどほどにバイトしてお金を稼ぐ。私はすっかり凡人に成り下がっていた。……いや、初めから凡人ではあった。人生のトラブルが私を特殊な人らしく演出していただけに過ぎない。


 『喉元過ぎれば熱さを忘れる』……火事も地震も、親父も、もう過去の事。私はいつまでも被害者面しているわけには行かないような気がしてきた。底辺高校で授業中にPSPで通信対戦したりして、思い思いに過ごしているうちに、『今死ななくてもいいかな』なんて思い始めてきていた。生きるのが少しだけ辛くなくなったのだ。


 一方で、ソレユエさんとは妙に疎遠になってしまった。高校入学当初は『おめでとう』なんてメールも届いていたが、実際に会う回数はぱったり減った。ソレユエさんが言うには『就職活動で忙しくなりそう』ということだった。


 私はそれなりに心配していたし、混乱していたし、もやもやもしていた。付き合えたと思ったのに全然会えない。でもわがままを言うわけにもいかない。待っていればいつかは会えるだろう。なんて考えた。辛抱強く待っていた。我慢は得意だ。


 そんな高校一年。十一月。


「ねぇ。好きなんだけど」



 確か五限。日本史の授業が二コマ予定されていて、続く六限の間に挟まれた小休憩の出来事だ。


 私の席の横の立ち、こちらに向かって話しかける女子がいた。……誰だ?


「えっと……」


「放課後残ってくれない?」と女子が言う。押し出しが強く、私の思考はややパニックだった。


「わかったよ」


 私の返答を聞いて、女子は席に戻る。 この日本史の授業をとっている生徒に私の友人はいない。一人でいるところを見計らって声を掛けてきたのだろう。


 『好きなんだけど』


 聞き間違い……ではないよな。でも知らない人に自己紹介もなく第一声で告白なんてするか……?


 鈴がなり、先生が戻ってくると六限目、日本史の授業が再開された。何も頭に入ってこなかった。



 この女子の名前は川島(仮名)という。 教室は違うが同学年で、曰く私に『一目惚れした』のだそうな。 他の男子がいない日本史の十分休憩を絶好のチャンスとして声を掛けようとしたものの、なんと声を掛けるべきか血迷って、初手から『好き』と言ってしまったのだと、放課後に話してくれた。


 つまり『付き合ってください』だ。


 私は戸惑った。付き合っている相手がいる。が、ソレユエさんは何故だか私と距離を置いている気がしてならないし、女子から告白されることなんて初めてだ。断るべきかと思ったが、なんと言って事態を収めたら良いか言葉が出ない。


「知り合ったばかりだし、とりあえず友達から……」


「本当!?……ありがとう!」


 私と川島は連絡先を交換し、とりあえず帰ることにした。 駅までは一緒の道(ホームでは上りと下りで別の電車)だが、別々で離れて歩いた。恥ずかしいので。


 ホームでは私の背後で女子達が盛り上がっている気配を感じた。色恋沙汰は大層盛り上がる。今回は他人事ではないので背中に刺さる視線をビリビリ感じた。電車を待ち、逃げるように帰った。

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