第33話・第2節「評議会と王子の誓い」
王都ユゼルヘイムの中央議事堂――かつて王政時代に議会として使用されていたこの建物は、再建評議会の場として再び息を吹き返していた。
大理石の床には長年の苔と埃が取り払われ、外壁には“再生の炎”を象徴する紋章が掲げられている。
今、この地には各地の代表者たち――冒険者、町長、旧貴族の末裔、魔術師団の一部残党、そして元教会関係者までもが一堂に会していた。
ルークスは会場の中心で立ち、隣にはミュリナとリアン王子の姿があった。
評議会の始まりを告げる鐘の音が、静かに響く。
「……本日は、各地の代表諸君に集まっていただいた。今ここに、我々は新たな秩序を築くための礎を定める」
ルークスの言葉に、議場の空気が静まり返る。
「だがその前に、一つ皆に示すべき“真実”がある。長らく“死んだ”とされていた最後の王族――リアン・ユゼルヘイム殿が、いまここに生きている」
その言葉に、会場がざわついた。
一部は驚き、ある者は動揺し、またある者は疑いの目を向けた。
しかしその視線を、リアンは真っ直ぐ受け止めていた。
彼は数歩前に進み、壇上に立つ。そして、堂々と名乗りを上げた。
「私はリアン・ユゼルヘイム。王家最後の者だ」
その声は静かでありながら、深く、どこまでも通るものだった。
「私には、王として国を治める意思はない。だが、私は“過去の目撃者”として、王政が終焉した真実を、ここに記す」
リアンはミュリナから手渡された一通の文書を掲げた。
それは教会による簒奪を示す偽造証書、そして王権譲渡に強制があったと証明する筆跡解析結果をまとめた書類だった。
「これは、私が十年前に無理やり書かされた“譲位文書”の原本。そして、当時の教会幹部によって改ざんされた王記録の写しだ」
会場が再びざわついた。
元教会関係者の一人が立ち上がる。
「証拠の真偽は……確かか?」
「すでに三つの魔法監査機関によって検証済みです」
ジェイドが即座に応じる。
「さらに、当時の側近だった者の証言も録取してある」
議場に緊張が走る中、リアンは深く一礼した。
「皆に問いたい。過去に支配された国を、同じ過ちの上に築くのか。
それとも、真実を認め、“変化”を起こす勇気を持つのか」
沈黙の後、最初に立ち上がったのは、東部の交易都市レイナスの代表だった。
商人階級の代表でありながら、市民から圧倒的な信頼を得ている人物である。
「……私は、変化に懸けたい。なぜなら、我々の都市は“無関心”の中で搾取されてきた。教会によって、な」
続いて、魔術師団の残党代表が口を開く。
「王子の存在が“権威”でなく、“真実の証人”であるならば――我ら魔導士も、この再建に力を貸そう」
次々と、支持の声が上がっていく。
リアンは拳を握りしめた。
十年という歳月。失われた希望。そして、いま繋がり始める人々の声。
「俺は……もう“封じられた王子”ではない。これからは、“変革の記録者”として生きる」
ミュリナが隣で微笑む。
「あなたの言葉が、きっと未来を作るわ」
その背後では、ルークスがゆっくりと壇から降り、会場中央へと歩き出した。
「――では、宣言しよう」
彼の声が、王都の中央に響き渡る。
「本日をもって、ユゼルヘイムは“信仰による支配”を終焉し、“人の意志による自治”を正式に開始する。
そしてこの評議会こそが、新たな“世界の再構築”の第一歩だ」
拍手が起こる。
誰もがその瞬間に立ち会っていた。
滅びかけた国の、再出発の証人として。




