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第31話・第3節「神殺しの剣と真なる祈り」

 大聖堂の最上層、神の玉座の間にて――

 聖女ユリエルが顕現させた“神性融合核”の魔力が空間を侵食していた。


 黒と金の渦巻くエネルギーは、かつて神の遺産と呼ばれた“始原の因子”を不完全に人へ適用したもの。

 それはもはや祈りの象徴ではなく、災厄そのものだった。


 「見せてあげましょう。神すら恐れた力が、人の手でどれほど洗練されたかを」


 ユリエルの言葉とともに、彼女の背から六枚の光翼が展開された。

 その輝きは神聖であるはずなのに、見る者の魂を凍らせるような“絶対的拒絶”を帯びていた。


 「来るぞ――ッ!」


 ルークスは即座に前へ出て、剣を構えた。

 その刀身は淡く青く輝いている。黒殻街の地下神殿で発見した、“始源聖典”に秘されていた封剣――《神討のディオス・スレイヤー》。


 この剣は、神に等しい存在に対してのみ、絶対の貫通力を発揮する。


 「ルークス、あれだけの魔力……持つの!?」


 ミュリナが叫びながら、同時に支援魔法を展開する。

 《癒触の布陣ヒーリング・セントラ》が展開され、味方全員に微細な再生と強化をもたらした。


 ユリエルが指を鳴らすと、空間が歪み、純白の神槍が現れる。

 その軌道は雷撃のごとく、次の瞬間にはルークスの胸を貫いていた――


 「っぐ……!」


 だが彼は、神討の剣を自らの影に滑り込ませることで、槍の貫通力を半減させていた。


 「……遅いよ。俺の影術は、お前が知る“教義の技”とは別物だ」


 次の瞬間、彼の背後から伸びた影の刃がユリエルを襲う。

 だが、彼女はまるでそれを予期していたかのように、胸の前で印を結ぶ。


 「《神律断章・第五節》……“信仰なき刃は届かぬ”」


 影の刃は空中で粉砕され、光の盾がユリエルの全身を包んだ。

 彼女の力は、ただの防御ではない――“信仰の有無”すら判定し、無力化する“裁きの魔術”。


 「……だったら、俺は“真実”に祈るしかないってことか」


 ルークスは深く息を吸った。

 彼の脳裏に、ミュリナと出会ったあの森がよぎる。

 セリナと共に肩を並べて戦った数々の夜を思い出す。


 誰かのために刃を振るい、誰かのために叫んだ自分。

 それが“祈り”でなくて何だ。


 「――俺の祈りは、守りたいものに向けた“誓い”だ!!」


 その叫びとともに、神討の剣が光を帯びる。

 それは純粋な想いの結晶、祈りの化身――

 《真信のシンセア・フォーム》。


 ユリエルの目が見開かれた。

 「それは……まさか……」


 「撃ち抜く!!」


 ルークスは全身の魔力を集中させ、一閃――

 放たれた剣閃は光の盾を破壊し、ユリエルの右肩を斬り裂いた。


 「ぐっ……!」


 血が舞う。だが彼女はなお、倒れない。

 否、神性融合体としての肉体が、もはや常人のそれを超えていた。


 「ならば――お前を“人間”に戻すまでだ」


 ミュリナが聖典を掲げ、かつての聖女たちが遺した“解呪の詩章”を詠唱する。

 《神性開放解除文・初節》――それはユリエルの内に仕込まれた“神因子”を揺さぶる祈り。


 「やめなさい……そんなことをすれば……!」


 ユリエルの悲鳴が響いた。

 だが、それは恐れではなかった。

 彼女の目には、わずかな“安堵”の色すら浮かんでいた。


 「私は……本当は、誰かに止めて欲しかったのかもしれない……」


 神因子が共鳴し、ユリエルの光翼が砕け散る。


 その身体は崩れ――ただの“人間”へと戻っていった。


 その姿を、ルークスたちは黙って見守っていた。


 誰かの正義は、誰かにとっての過ちかもしれない。

 だが――今ここに、偽りの教義は終わりを迎えた。


 真の夜明けは、まだ遠い。

 だが、確かにその始まりを告げる鐘は、王都の空に静かに鳴り響いていた。

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